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山根貞男 × 寺田農 × 岡島尚志 トークショー レポート・『日本映画作品大事典』(1)

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 100年以上の日本映画のデータを収めた『日本映画作品大事典』(三省堂)は1998年から22年の歳月をかけて制作され、今年6月に刊行。

 刊行を記念して、11月に神奈川近代文学館にて編者の山根貞男、俳優の寺田農、国立映画アーカイブ館長の岡島尚志の各氏のトークショーが行われた(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。

 

山根「いろんな人に訊かれるんですね。22年もやってどうですかと。22年もかかると思わなかったんですね。かかったからこそこんな事典ができたと思います。

 知り合いが買ってくれたんですね。その何人かの言った感想がある項目を見ると他の部分にも目が行って読んじゃう、ついあちこち読んじゃうと。その面白さがこの事典のよさじゃないかなと。これは嬉しかったですね。最初に立てた基本方針としては劇映画が中心ですけど全部入れよう。全部は無理だったですけど、ほぼ入ってるわけです。その結果、つい他のところを見ちゃうということができたんだなと」

岡島「山根さんは日本映画を中心に映画について書く、映画に関することを文字で表現してこられました。寺田農さんは映画に出演する、映画をつくるという立場の方ですね。私は映画を守るという。最近なるべく大和言葉だけで自分を表現しようと思ってまして「保存する」とかは…(笑)」

寺田「事典のことは10年以上前からもちろん知ってました。私は会う度に「いまどのぐらいですか」と。また来年っていうのがずーっとつづいて、私は申しわけないけど、これは刊行されないだろうと(一同笑)。映画は毎日何本もつくられて、原子力の汚染水じゃありませんけど(一同笑)ゴミのような映画まで。これでは終わるわけがないと思っていたら刊行の運びというので、いやあ驚きましたね。

 昔『博士と狂人』(ハヤカワ文庫)というノンフィクションがあってね、オックスフォードの英語大辞典をつくった人と殺人犯で狂人の男の話で、のちにメル・ギブソンショーン・ペンで面白い映画(『博士と狂人』〈2018〉)になるんだけど、最終的に70年ぐらいかかって大辞典が完成するんですがそれに比べたらまだまだ速い仕事だな(一同笑)」

寺田「手に取って感動したのは、1ページ目を見てほしいんだけど監督順になってて、最初の監督が哀川翔(一同笑)。この人が最初ですよ。ぼくはものすごく嬉しくなって、山根さんは本気で取り組んだんだと。哀川翔が映画つくったなんて、ほとんどの人は知らないもん」

山根「ぼく見てますけど結構いい映画でしたよ。作品がいい悪いじゃなくて、監督でアイウエオ順に並べようと。哀川さんにぼくも肩入れしてるわけじゃなくて「あ・い」ですからね。最初がほんとに哀川翔でいいのかなとは一瞬思ったけど(一同笑)。プロの監督からすればよくないって言う人もいるかもしれないけど、一切配慮しない」

寺田「だからこそ大事典だね。そこに好みが入っちゃうと事典にならないからね」

山根「さっきの『博士と狂人』の話でぎくっとしたんだけど、私は博士なのか狂人なのか」

寺田「両方ですよ(一同笑)」

山根「ぼくはメル・ギブソンのほうだと思ってた」

寺田ショーン・ペンでもあるわけです。狂人じゃないとこういう仕事はできませんよ」

山根「自意識はないですね。それが狂人?(一同笑)」

 

【事典制作の裏側 (1)】

岡島朝日新聞の連載で山根さんの映画と人生が載りましたけど、事典づくりが大変でいい加減でもいいじゃないかみたいなことに対して、三省堂の担当者の方が「事典ですから」とおっしゃったと。事典をつくるというのは『舟を編む』(光文社文庫)じゃないですけど、大変なことですよね」

山根「冗談ではなく10年目ぐらいからくたばるわけですね。「いつ出ますか」っていろんな人に訊かれて来年かなって言うと「去年も同じこと言ってましたよ」と必ず言われる。事典をつくってて編集部の人に、この監督のこの作品を入れるかどうかで、ぼくがちょっとでも首かしげて「これは入れなくていいかな?」って言うと編集部の人が釘をさす。映画評論家としての価値基準でもって事典をつくったらダメですって言うわけです。価値判断ではなくてもう少し広いものを持たないとダメですという意味」

寺田「事典に1万9500本収録されていて、山根さんは原稿を読まれているのがすごい」

山根「仕事だからそりゃ。執筆者は50人近くいて誰に何を頼むかだけど、まず五所平之助フィルモグラフィーをリストアップしないといけない。すると話をもとに戻すけど、日本映画を全部入れようって言っても何本あるんだと。実は事典に全部は入ってない。資料がないっていうのもあって、残念ながら劇映画の7割ぐらい」

岡島「2000年くらいの時点で、必要があって日本でつくられた数を可能な限り数えようとしたんですけど、戦前戦後合わせてだいたい3万本くらいじゃないかと」(つづく

 

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