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山根貞男 × 寺田農 × 岡島尚志 トークショー レポート・『日本映画作品大事典』(5)

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【映画の定義】

山根「本当は10年前に出てるとよかったと思うんですね。20年くらいの間に映画ってどういうものだという規定が揺らいできてる。

 前はフィルムで撮ったもの、上映するものだったんですがいまはビデオで撮ったものも上映されてる。ビデオ専用映画、Vシネマは映画なのかというとぼくは映画だと思うんだけど、映画館にかかってる場合とかかってない場合がある。かかった作品は劇場映画ですとして売るんだけど、かからないでビデオだけで売るのは映画なのか」

寺田TSUTAYAとかでは、DVDに「劇場公開作品」と書いてありますね。1週間でも上映されたら」

山根「いまはNetflixなどの配信もありますね。劇場公開することもあるけれど、配信だけのこともあって、それでもちゃんとした映画です。そもそも映画って何なんだと。

 岡島さんが館長をなさっている国立映画アーカイブは、以前はフィルムセンターだったんですが名前が変わるときに “映像” にするか “映画” にするか。“映像” だとものすごく広くなって判らなくなる。でも “映画” でも規定があいまいです」

岡島「定義ができなくなってきましたね。広い範囲のものをどう対象していくか。責任の範囲がどこまでか示す言葉が必要だったんですね。だから映画のアーカイブになったんです。映像も扱うんですがわれわれの対象はあくまで映画です、その後で映像ですと言わないと。最初から映像アーカイブと言ったら例えばスマホの日常的な映像も対象になりますので無理だと」

寺田「映画館という名前がなくなりましたね。上映館と書いてあってシネマコンプレックスと。映像をかけるところなんですね」

山根「どっかで線引きしないといけない。

 今年の6月に刊行されたんですけど2021年の本が2010年までの作品しか書いてないと古いから2018年までは入れようと。そこが区切りというわけではないですが、ちょうど110年前に牧野省三が撮っていたのでそこにしようと。われわれの言いわけみたいなものですけど」

寺田「こないだ見た映画は全部が携帯の画面か防犯カメラの画面。全編がそれのミステリー。アメリカの作品でしたけど、世の中がそうなっちゃってる。ほんとに携帯で撮ったのかカメラで撮って携帯の動画ふうに見せているのか判りませんけど。映画って動画とどう違うのか、問題が出てくる。のちの大事典をつくるのはもっと大変なことになるでしょう」

山根「どこまでねばるかというのはあって、戦前の映画で資料が確認できなくて(入れるのを)やめた監督は何人もいるんですよ。残念でしたけどこだわってやってたら、あと10年ぐらいかかっちゃう。私は死んでしまう(笑)。こういうのが出るにはぎりぎり、いろんな偶然があってここだよなっていう落としどころかな。三省堂の方に決めていただきました」

 

【その他の発言】

寺田「若い人で石原裕次郎は歌手だと思っているとか三船敏郎勝新太郎萬屋錦之介市川雷蔵も知らない。これで役者としてやっていける。文学を志してる人で森鴎外夏目漱石辻原登神奈川近代文学館館長)を知らないわけはない。音楽家ならモーツァルトブラームス、ベートーベンを知ってる。何故、私らの業界は先人が認められないのか」

山根「寺田さんはそれでどうするんですか」

寺田「そのマネージャーがどういうの見たらいいですかって言うから、リストアップしてあげたの。そうしたらそれっきり。いまテレビに出ている人とかでないと興味が湧かないのね」

山根「するとこの事典は役に立ちませんね(一同笑)」

寺田猫に小判で、バカな役者にとっては意味がない」

山根「ぼくが日本映画を見てあの女優いいなと思っても、その人には全く積み重ねがないということもあるわけですね。ぼくは市川雷蔵が大好きなんですけど、雷蔵を見てないからじゃあこの女優はダメだというわけにもいかない(笑)。

 寺田さんはちょっと変わってて、こういう発言をされる役者さんってあんまりいないんじゃないですか」

寺田「私はこないだ79になりましたからね、どこでも言いたいことを言います。役者がこの事典を読んで面白いと思えなければ、あなたは役者としてレベルが低いということです(一同笑)」

 

 日ごろ、演技される際に心がけていることは?という質問が寺田氏にあった。

 

寺田「私はものごとを深く考えるほうではないですから、ただいちばん大事だと思うのは現場のカメラの前で元気でいるかですね。精神も体力も。どっかで高揚してないとダメです。うきうきっていうか、心がけて。普段からうきうきしてますけども(笑)もっとうきうきした状態で撮影に臨みます」

 

 最後にメッセージ。

 

寺田無人島に行かれる方、帰省される方も正月休みにはぜひ(笑)。退屈しません。本当に素晴らしい仕事を山根さんはおやりになった」

岡島「山根さんのおっしゃった、可能な限り平等に扱いたいという精神は辞書・事典の持っているものだと思います。ヨーロッパでわれわれと同じような仕事をしているアーキュレイターの人たちは新歴史主義にもとづいて、歴史は英雄や大事件によって書かれるものではなくてあらゆる文化現象を平等かつ批判的に眺めることによって書かれるべきという考えでアーキュレーションをしている。そういう人たちはデジタルを使うんですね。デジタルだと平等に扱えて、すぐに横や縦に飛べます。彼らは「デジタルを抱きしめる」と言うんですが、そのためには映画の情報がコンパクトに集積されていなくてはいけない。それを三省堂と山根さんが22年間かけておやりになった。図書館は年間の予算が決まってますから、まずご自身でお買いになって4月になりましたらお近くの図書館で買うように主張していただけたら(笑)」

山根「知り合いのカメラマンが、貧乏なので小平市の図書館に申し込んだよって電話してきたんですね。1か月くらいしてまた電話かかってきて「山根さん、入った入った!」って(笑)。市民から要望があったらやってくださるんですね。

 紙の事典でこんなものはもう出ないだろうと思うんですね。もし出るとしたらデジタルになるだろうと。紙だと面になる。面の中でついでに読んじゃうとか発見もあって、それがいいから紙でよかったと思います。

 編集過程で、戦前の映画を見ていないけど調べるうちに素晴らしいという思いを強くするんですね。戦前に大変多くのフィルムが失われた。事典はできても見合うフィルムが残っていない。日本は映画を軽視してきた。ただどっかに残っている可能性もないではないです。ぼくは絶望視しているわけではないですが、事典をつくって思い知ったのはいかに貴重なフィルムが失われたか。もし知り合いでフィルムを持ってる人がいたら、岡島さんのアーカイブスにすぐ送ってください。いまそういう本を書いてるんですが、フィルムコレクターの人がいて死んだらフィルムがどっか行っちゃう。国立映画アーカイブスは引き取ってくれると思います」