私の中の見えない炎

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なべおさみ トークショー レポート『喜劇 右むけェ左!』(1)

 女性用下着メーカー外国課の5名(堺正章、犬塚弘、なべおさみ、田辺靖雄、大橋壮多)が自衛隊に体験入隊することになった。原野に埋蔵金が眠っていることを知った面々は、獲得のために奔走する。

 前田陽一監督『喜劇 右むけェ左!』(1970)は渡辺プロのタレントが総出演する軽いコメディでありながら、犬塚弘演じる課長が元軍人で戦争の記憶が色濃いなど、毒もそこはかとなく感じさせる。

 2024年4月にリバイバル上映と出演したなべおさみ氏のトークがあった。聞き手は北里宇一郎氏が務める(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。

【『喜劇 右むけェ左!』】

なべ「ぼくはいま初めて見たんですよ。映画に出ると、自分の映画を一切見ません。山田洋次さんの『吹けば飛ぶよな男だが』(1968)だけ、女房とふたりで映画館で見ましたけど。自分のビデオとかを手にして保管はしてるんですけど、見たことないですね。

 前田先生とね、番匠(番匠義彰)監督と山田洋次さんが松竹の中でいちばんいいですね。東宝でもいっしょにやりましたけど、かわいがってもらいましたね。前田先生と気が合うところがあったので、いろんなことを話し合いながら、その場で台本を変えたり。臨機応変で「あ、それいいアイディアだな」って。前田先生がご自分でホンを書いてますからね。他の作家が書いていたら監督としてそんなことはできなかったでしょうけど。ぼくもわりと意見の具申をして、採用してくださいましたね。。アドリブが多かったですね。

 自衛隊の駐屯地に2週間、通いつめたんです。映画の中でぼくらが実際に訓練してる模様がありましたけど、もっともっと訓練したんですよ。落下傘のたたみ方とか。高いぐるぐる回るところに引っ張り上げられるのは(劇中では)犬塚さんだけがやってますけど、ほんとはぼくら全員が引っ張り上げられて、いちばん怖かったですね。ぐるぐる回りながら80メートルまで上がって。

 監督さんっていうのは映画の支配者で、その上にプロデューサーや重役がいる。縦社会がきちんとあって、映画の作品の中でいちばんは監督で絶対の存在だと思っていて、ぼくは先生と呼んでいます。テレビの世界の演出家はさんづけ。でもテレビにも何人かすごい人はいましたね。

 前田先生は文芸映画を撮ってないけど、文芸物をやるとランクが少し上っていうのは「キネマ旬報」あたりがいけないのかな。おれは「キネマ旬報」が大嫌い。うちの玄関に「キネマ旬報」が8巻から戦争で発行禁止されるまでの号が全冊あるけど、1回も開いて読んだことがない(一同笑)。『吹けば飛ぶよな』は「キネマ旬報」のベストテンで第10位。あの年の他の作品を見ていて、第3位ぐらいにしなきゃいけないと思ってます。「キネマ旬報」はダメです(一同笑)」

 本作の主演・堺正章とは前田監督の『起きて転んでまた起きて』(1971)などで共演した。

 

なべ「堺正章の映画を見ていて思うんですけど、映画の中でマチャアキが面白いときってないんですよ。だけどぼくは芸能界で67年ぐらいいましたけど、天才だなと思うのは堺正章ですね。

 あの人のお父さんの堺駿二さんは、小学生のころにものすごく好きでした。タレントになって堺駿二さんにごいっしょしたときは夢みたいに嬉しかったですね。「台本通りやるのが役者の基本だ」っておっしゃってました。つまりこの人は決められた通りのことをやって、それでもみんなにアピールするってことは…。普段は喜劇人のきの字も感じさせない、生真面目な人。

 その息子の堺正章さんとは3本ぐらいやりました。自衛隊でほとんど撮ったのが今回の映画で、箱根へ行って一生懸命やりました。

 堺正章は集中力がすごい。テーブルクロスを引き抜く芸がありますけど、マチャアキもそれをやりたいって言って半年間、仕事以外は引っ張るの(練習)をやって(結果的に)やってみせたんですね。それだけで天才だと思いましたね」(つづく