私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

山根貞男 × 鈴木一誌 × 瀧本多加志 トークショー レポート・『日本映画作品大事典』(4)

【シリーズ物の扱い】

瀧本「プログラムピクチャーのシリーズものはすごく重要で、しかし監督インデックスで扱っても作品の五十音順の配列にしても、どっちにしてもシリーズはバラバラになっちゃうと。どういうふうにシリーズが判るようにするかで議論しました。結局、巻末にシリーズ名の索引をつけるということで処理しました」

山根「それしかなかった」

鈴木「『日本侠客伝』シリーズがどういう順番だったか知りたいという需要もある」

山根「そういうふうにはなってないですね。だからシリーズだけの事典もこしらえようと思えばできる。

 駅前シリーズというのがたくさんあって、第1作の『駅前旅館』(1958)は井伏鱒二の小説が原作です。次の第2作『喜劇駅前団地』(1961)で、第1作には喜劇がないから(五十音順で)離れちゃうわけです。そこも索引で判るようになってます。そういう映画のええ加減な…(一同笑)。その場その場で題名もつけてるわけで」

鈴木「それで10年かかった(笑)」

瀧本「シリーズは結構大変で、公開年順に並べると抜けてるのもあって、その監督が収録されてないから。また見直ししてということもありました」

山根「出演者は最低でも2名、できたら4名入れようとなるわけですが忠臣蔵になると主要人物だけで10人くらいいる。『仁義なき戦い』(1973)だって群像劇ですから菅原文太金子信雄、梅宮辰夫とあとひとりで収めるわけにもいかない。寅さんシリーズもマドンナは当然入れるにしても、マドンナが実は本当に好きな誰かは入れるべきかとか。限定するときにどこまで入れるか。寅さんでこうやったからこっちも、と波及するわけですね。東映の時代劇で、大物としてほんのちょっと出てくる片岡千恵蔵は入れるのか。広告にはだーんと書いてある。出演者を選ぶだけでも、この人は入れなくていいんじゃないかとかいちいち諮る。こんなアホな話はいくらでもあります」

 

【本文レイアウト(1)】

山根「映画の事典をつくろうと思ったときに、B5で横書きというのは最初から決まってたんですか」

瀧本「1999年1月の刊行決定稟議の社内文書によるとB5ですね。四六判を考えたときもあったんですが」

鈴木「横組みは仕様がないのかな。数字も入るし。2000年当時に組版のソフトをどうしようかはかなり悩んだんですね。Quark社のQuarkXPressがいいのか、Adobe社のInDesignがいいのか。2000年のころは分岐点でした。2002年の『昭和の劇』(太田出版)、山根さんの2003年の『映画監督 深作欣二』(ワイズ出版)はQuarkXPressなんですよ。2004年の『遊撃の美学』(ワイズ出版)はQuarkですが、同じ2004年の『映画の呼吸』(ワイズ出版)はInDesignが射程に入ってきた。詰め打ちの性能が変わってきたり、どっちにしようか迷いの時期です。2000年に戸田ツトムさんとデザイン批評誌を創刊しようとして、彼と来たるべき組版はどういうシステムがいいのか話し合ったんです。この事典は7、8年かかるだろうから長期的な視野に立ったときに、どっちのソフトがいいのか。InDesignのよさは半自動化。かぎかっこで挟まれた部分だけ書体が変わって小さくなるみたいな自動化ができて、手でやる必要がなくなった。1000ページもの事典なので自動化はかなりのポイントになりました。文字同士を詰めたいというのがあって、このためにInDesignと筑紫明朝というフォントが必要でした。InDesignと筑紫明朝の開発に戸田さんが携わっていて、戸田さんがソフトとフォントを決める後押しになったという」 

鈴木「2000年当時ではパソコンで事典をつくるというのは怖いことでしたね。情報量が多いんで全体が1000ページだとすると50ページくらいずつに分けなければいけない。ジョブを切るというんですが。あいうえおの音別に編集して校了になったら合体させる。片ページ起こしなのか見開き起こしなのかで白ページが出てくるので、これの処理も厄介。印刷会社に頼んでたんだけど、だんだんパソコンの性能が上がってダウンサイジングしていった結果、三省堂印刷でできるようになっていったと。高山さんという方の奮闘もあって」

瀧本組版は、最終的に三省堂印刷でなくて三省堂の辞書編集室の高山がやりました。出版社の社内で、鈴木さんのご指導のもとで組版をやっちゃったんですね。そういうことは2000年当時は考えられなかったです」

山根「ぼくが編集の中身でじたばたしてるときに、そういうことも変わっていったと」

鈴木「行数を増やしたり、文字数容量を増やすのを、編集部は締め上げるって言ってましたね(笑)」

瀧本「事典と言えどもあまりに文字数を詰め込み過ぎると可読性が下がって、読みづらくなる。誌面が真っ黒になってしまうんですが、鈴木さんの組版は締め上げれば締め上げるほど読みやすくなった気がします。どういうマジックなのかと」

山根「鈴木さんを締め上げてるの(一同笑)」

瀧本「本文を締め上げるんですね」

鈴木「(笑)ひらがなの “り” は縦長で “へ” は横長で、形が違うかなをどう詰めるか。時代とともに文字や組版の性能が上がって、文字の詰まり方が違ってくる。どこまで締め上げるかも時代によって違う」(つづく