私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

山際永三 トークショー レポート・『セクシー地帯』(2)

【新東宝時代の石井輝男 (2)】

 『セクシー地帯』(1961)は、銀座でゲリラ撮影を行ったとおぼしい。

 

山際「当時は銀座や新宿で、警察の許可をとらないのが当たり前でした。裏通りみたいなのをさがし出して、徹底的に使ったんでしょうね。カメラは手持ちでしょうね。ミッチェルじゃないかもしれない。許可をとって通行をストップしちゃうよりは、通行人の中で撮るほうが面白いというか。みんな変装して、手で合図してスタートとか。警察に追い出された記憶もあまりないですね。いまでは考えられない。『セクシー地帯』で、あれだけ銀座でうろうろしてたら目立つでしょうけどね(一同笑)。

  そういえば石井(石井輝男)さんはロケ主体でしたね。浅草も喜んでやってました。いつのまにか、いなくなったりとか」 

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 『火線地帯』(1961)は石井脚本で、監督は武部弘道。

 

山際「石井さんはもう東映に行っちゃうころですね。監督の武部さんも石井さん一派で、デビューするということで石井さんが脚本をプレゼントしたんじゃないですか。武部さんがずいぶん本を直したと思います。石井さんには了解をとらないでやってました。当時は撮影所の中も自由で、本直しは武部さんがやって、ぼくは別のことをするみたいに、仕事のやり方に流動性もありましたね。石井さんは(自分の脚本を)直されるのはどうぞどうぞと。石井さん自身が、本をどんどん直しちゃいますからね。

 石井さんは、当時の風俗をものすごく研究してましたね。石井さんが亡くなって、ぼくらがその後を継ぐことになって、石井さんの家で整理したりしたんですが、東京の裏風俗みたいな本がずらっとあるんですよ。よくこれだけ研究したなと。

 「文藝春秋」を愛読してて、ぼくは生意気だから「石井さん、文春しか読まないからダメなんだ」とか平気で言って、石井さんは「何を言ってんだ」とぼくに怒鳴ってました(笑)」 

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【新東宝の想い出 (1)】

山際「ぼくは特に大蔵(大蔵貢)が嫌いというわけでもなかったですが、大蔵は映画館をいくつも持っていて金持ちで。元はサイレント映画の弁士でしたね。社長になってから、助監督は走れ走れって言われて、用もないのに走るんじゃたまったものじゃない(笑)。そんな変な掟ができて、ぼくは反撥して裏道を歩いてました。厭な雰囲気になりましたね。

 石井さんはうまく立ち回って、きょうの『セクシー地帯』みたいなの(企画)を見せると、大蔵も乗ってくる。石井さんも中川信夫さんも、大蔵さんをだまくらかすのがうまいんです(一同笑)。目の前ではいはいって言って、裏では好きなことをやってる。そのふたりはピカイチで、あとの人はみんなダメですよ。大蔵に怒鳴られて。土居通芳さん、渡辺祐介さんなんかも石井さんの処世術を学んだんじゃないですか。土井さんは何でも言うことを聞くから(一同笑)。

 予算はどんどん苦しくなっていきました。1960年から1961年からは組合運動をやってたんで、作品づくりよりそちらが忙しくて。本社で大蔵を囲みこんで、電話線を切ったり(一同笑)。新東宝はいい時代もあったんですが10年くらいで急速に衰えて、直営の映画館がないんです。東京近辺では二流館、三流館でしかやらなくなる。東宝や松竹、東映がいい映画館を押さえたり、直営の映画館をつくったりして、新東宝はダメになっていくわけですね。映画が坂道を転げ落ちる時代に、ぼくは立ち会った気がしますね。大蔵さんは追い出されたというか、逃げ出したというか(笑)」

 

 映画の本数が足りなると、苦肉の策で昔の作品の短縮版を公開していたという。

 

山際「題名を変えて短くして公開してたので、法律違反ですよ。日本映画監督協会にひどいって文句を言われましたね。後でとってつけたように組合もそんなことしてって言ってましたけど、給料もらっている以上は組合もあんまり面と向かって言えない。日本の組合はずるいですから、自分の給料になるから知らんぷり。

 大蔵がいなくなって、中川さんも面白いものつくりましたし、三輪彰さんも看護婦のストライキの話(『胎動期 私たちは天使じゃない』〈1961〉)とか。日教組の先生のストライキ(『闘争の広場』〈1959〉)も撮って、三輪さんはすっかり左翼になっちゃって(笑)。『闘争の広場』は宮川一郎さんが脚本で、ぼくらも入ってみんなで本直しして撮っていきましたね。愉しい思い出ですね。会社が小さくなると自由も出てくる。製作本数が減って、独立プロの作品の配給だけをしたりもしてましたね」

 

 山際氏は、佐川滉のプロダクション制作による『狂熱の果て』に(1961)て監督デビュー。主演は故・藤木孝

 

山際「お客さんの入る映画をつくるという意味で石井さんは秀でていて、佐川さんと年齢も近いですし、仲良くしてましたね。佐川さんは石井さんのプロデュースも多かったですね。もとは俳優で、チャンバラやってたんですが、企画部に入って。そのころから、ふたりはいっしょにやろうという意気込みでいたんですね」(つづく 

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