
【舞台となる場所 (2)】
高橋「Vシネマで鍛えた低予算作戦ですね(笑)」
黒沢「その分、場所選びで作品が決定づけられる。場所はどうやって選んでるんですか」
高橋「そんなに選択肢はないんですけど、行ってこの空間だ!と思うところがあるんですね。逆に、行ったけど空間の広さは申し分なくても、物語のとっかかりが見出せない場所もありますね」
黒沢「具体的にどこでここはダメだと思うとかあるんですか」
高橋「ぼくの話をしていいんですか。『霊的ボリシェヴィキ』(2018)で言えば、見た人でないと何のことだか判らないと思いますけど(笑)旧給食センターですね。飯を炊く大釜があったり、水が流れる水路があったり。天井が窓になって光がさんさんと降り注ぐ。ここだ!って言って、撮照(さっしょう)は頼むからやめてくれと(笑)」
黒沢「室内であるにもかかわらずロケと同じということですね。太陽光で照明のコントロールができない」
高橋「しかもステンレスだから映り込みが激しいし。密閉された空間よりは、外とのつながりがあるととっかかりになる」
黒沢「全くその通りですね。今回のフランス版(『蛇の道』〈2024〉)でも完全に密閉されたところで監禁されてますけど、実は外とつながりがあるふうにできているんですね。オリジナル版も天井から光は入るし、ちょっと行けば外に出られる。ぼくも外と妙なつながりが感じられるところを選んでました。それと高橋くんが言われたように、単なる箱みたいなところでなくかつて何かだったという。フランス版ではお菓子工場だったんですけど、ケーキを焼いた釜があったり、痕跡がある場所に惹かれますね。フランスでも日本と同じような基準で場所を選んでました。フランス人も「ここいいね」って思うんですね。外光が入ってくる感じとかカメラアングルとか。閉鎖されているけど、どこかに通じている感じ」
【主人公の日常】
黒沢「オリジナル版(『蛇の道』〈1998〉)ですと哀川(哀川翔)さんと香川照之がただ復讐する。哀川さんは数学塾の講師ですが、主人公の日常的な風景はほぼない。塾の講師とはいえ、抽象的ですね。今回の柴咲(柴咲コウ)さんはパリでこういうふうに仕事して生活しているのかと、パリでのアパートも出てきます。復讐以外の主人公の日常はどのくらいの程度、描くのが正解なんでしょうね」
高橋「哀川翔さんの場合、もしプライベートな生活空間を描こうとすると日本映画でよく見るような男所帯の映像しか思い浮かばなくて、それを撮っても仕様がないかな。柴咲さんは女性だから、プライベートな空間を出すことに意味があったんじゃないですか」
黒沢「脚本上、キャラクターの職業は難しいですね。仕事してます、って一行書けばいいけど、それはキャラクターにとって重要のような気もするし、どうでもいいような気もするし」
高橋「ぼくもいまシナリオ書いて、まさにそこで悩んだんですけど。最初は精神科医で病院に勤務していることにしたんですけど、全然面白くない。そこで職住一体型のクリニックにしてみたんですね。自宅なんだけど、そこで病院もやってますと」
黒沢「今回だとダミアン・ボナールさんの役がほぼそうですね。オリジナル版だと香川照之さんなんですけど、自宅があったかもしれないけど、復讐する場所で寝泊まりして衣食住はそこでやってる。彼の日常は復讐なんだと。ある種、判りやすいですね。日常がドラマそのものに溶け込んでしまった人。一方の柴咲さんは難しかったですね。柴咲さんの日常を入れるべきなのかどうか。入れると、パリですから日本人からすると目新しい風景に見えたかもしれないですけど、凡庸であったりあるいは物語が停滞して退屈にならないかとひやひやしたんですけど、結果としては何とかなったかな」
最後にメッセージ。
黒沢「柴咲コウさん、西島秀俊さん、青木崇高さんは日本人の俳優で日本語も喋っているんですがフランス映画の中に溶け込んでいるんじゃないかという気がします。俳優たち、特に柴咲さんのものすごい努力があったからではあるんですが。映画って簡単に国境を越えられるかもしれないな、と思いました。オリジナル版は完全に日本映画でしたから、この企画が立ち上がったときはこんなに国籍が混じってできるかなと不安があったんですが、やってみたら大丈夫だと。国境を越えると実感が湧きました」
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