私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

山際永三 トークショー レポート・『セクシー地帯』(3)

f:id:namerukarada:20201004182808j:plain

【新東宝の想い出 (2)】

山際「当時はひと口で言えば大蔵(大蔵貢)を追い出せ、大蔵がいなくなればいい資本家が来てくれると、そういうバカな情報が1000人くらいいる従業員に蔓延してたんですね。ぼくとか佐川(佐川滉)さんは、大蔵が辞めたらいい人が来るなんて幻想だと。資本家ってのは儲けることしか考えてないんで、もっと悪い人が来るに決まってるっていう考え方でした。縮小してでもちゃんとした映画をつくろうって主張したけど、従業員には月給さえもらえれば映画なんかどうでもいいって人が多いから、どんどん辞めていっちゃう。ぼくは辞めるなって言うんだけど、半分くらいいなくなりました」

 

 『セクシー地帯』(1961)の公開後、新東宝は左前に。

 

山際「そうこうするうちに新東宝は不渡りを出して、業務停止。制作ができなくなりました。倒産というのは正確じゃないです。新しい資本家が入って来て、社名を変更するとか、やりくりの手があるんですね。つぶれそうな会社を立て直すので有名な人で、戦後の大きなストライキがあった八幡製鉄所を再建したという。そこで新東宝の土地を売ったりして、分社化したり。新東宝国際放映って名前に落ち着いて、まだつづいています。よく判らない手で生き延びさせちゃった。

 配給系統の人たちが別の資本家を見つけてきて、大宝というのをつくって『狂熱の果て』(1961)を撮りました。

 石井(石井輝男)さんが亡くなったときに、「映画芸術」で桂千穂さんとぼくと内藤誠さんで石井さんを偲ぶ鼎談があったんですね。桂さんが「山際さんの『狂熱の果て』は石井さんのコピーだよね!」って言うから、コピーはちょっとひどいって(一同笑)。だけどね、後で考えると全くその通り。ぼくのつくり方は、石井さんの影響を受けてましたね。きょうの映画を見ててもすごいですね。東京のいろんな裏話を集めてきて、これでもかと」 

【晩年の石井監督】

 やがて石井監督は東映で作品を撮り、山際氏はテレビ作品を手がけるようになった。

 

山際東映に行かれた後は、おつき合いがなくて。どっかで顔を合わせて「やあ」とか言うくらい。

 石井さんの不思議なところで、亡くなる前に突然、東映時代の助監督ふたりと新東宝時代の助監督がぼくと青野(青野暉)さんのふたり、病院に呼ばれまして。あと1週間で死ぬんだと(笑)。ついてはフィルモグラフィーの最後にある『ねじ式』(1998)、『地獄』(1999)、『盲獣vs一寸法師』(2001)の3本で、貯めこんだお金を全部使い果たしちゃったけど3本つくった石井プロを継いでくれと。ぼくは借金があるならちょっと…ってお断りしたんだけど、借金はないと言うんで、じゃあやりますと。いまだに石井プロは存在してます。代表だったんですが、いまは東映の瀬戸(瀬戸恒雄)さんがぼくより年齢が若いんで、交代してもらいました。

 石井さんは、おれには親族はいないんだと。兄弟も子どももいないという触れ込みでぼくらはつき合ってたんですが、結婚はしてましたけど天涯孤独だと思ってました。死ぬ1週間前に呼ばれて、プロを継ぐ話の他に、いまの女房と離婚するって言い出して(一同笑)。会社を継ぐ話はともかく、離婚まで…。瀬戸さんと弁護士を呼んで、奥さんを説得して、土地や家屋の半分は奥さんで残りは石井プロってことで、奥さんもがまんしてくれたんですね。手続きをやった後は5日くらい生きてましたね。予定通り死にました(一同笑)。千代田区役所で瀬戸さんに「石井さんに言われてるけど、離婚届出すのやめようか」ってぼく言ったんだけど、瀬戸さんは「監督はあそこまで言ってるからやるしかないですよ」って。それで出しちゃった。助監督で弟子だったぼくらを、信頼はしてくれてたんですね。石井さんのことになると、不思議な話がたくさん出てきます」

 【最後に】

山際「石井さんの中にはストーリーが判りやすくて、勧善懲悪で終わるみたいなのもあるんですが、きょうの映画は次々と風俗を追っかけるだけみたいな。理屈や人間関係じゃなくて、そういうつくり方は、映画ってものを突きつめた方向へ向かっていくというか。(後年の)京都でのエログロ作品に向かっていく芽があるなあという気がして、びっくりしましたね。次へ次へっていうことになると、きりがないんだなあというか。ハードボイルド的なアメリカ映画の真似でもあるんでしょうけど。アメリカ映画をよく見てて、パクるんだって言ってましたね(一同笑)」 

 

【関連記事】リリー・フランキー × 塚本晋也 トークショー(甦る映画魂 The Legend of 石井輝男)レポート (1)