私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

黒沢清 × 高橋洋 トークショー レポート・『蛇の道』(2)

【監禁と拷問】

黒沢「ぼく自身、復讐する物語はいろいろ撮りましたし、古今東西に名作がありますが、監禁拷問物についてはあまり知らないんですよ。そんなに見てないし、ジャンルの歴史もよく知らないんです」

高橋「ぼくも監禁映画がいかにあるべきかは考えてないです(笑)」

黒沢「『SAW』シリーズとか、ぼくはあんまり見ていない」

高橋「あまり好きじゃないです。肉体的にきついことを映像でやるよりは、目の前で食べ物をべちゃっとやるとかトイレに行かせないとか水をかけるとか屈辱を与えつづける。そっちのほうが映像にしたときに面白いかなと」

黒沢「あ、高橋くんにもそういう計算が。血まみれになったりするのは、ぼくも見たいと思わないんですが。この映画(蛇の道』〈2024〉)もそんなに血まみれになってなくて、撮っていて気楽と言うと変ですけど。拷問と言ってもいじめ程度で、高橋くんもそれを考えながら書いていたと」

高橋「そうです。むしろ血まみれ担当は、追ってくる刺客のコメットさん(笑)」

 

 オリジナル版『蛇の道』(1998)では不気味な女性・コメットさん(砂田薫)が哀川翔を襲う。

蛇の道

蛇の道

  • 哀川翔
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【敵の集団】

黒沢「オリジナル版は枷もありまして、やくざの人たちがつかまって、追いかけてくるのもやくざの人たちで組織と戦うという構造があったんですけど。今回フランスでやるときに、フランスに置き換えるとマフィアになるんですが出したいと思わなかったんですね。日本でも、ぼくはあんまりステレオタイプなやくざがぞろぞろ出てくる映画が、俳優もメイクや衣装でそれらしくはなるんですけど、基本的に好きではない。少し外すというか、オリジナル版でも下元史朗さんはいかにもやくざ然としてるんですが、ふたり目の怖い組長は柳憂怜さんで、衣装も含めておよそやくざには見えない。普通のやくざ像をひっくり返してみたんですけど。フランスでやるとき、典型的なマフィアっぽい人は出せるかもしれませんけど、その普通のマフィア像をひねってみることは難しいだろうと。だからやめたんですけど。冒頭のマチュー・アマルリックさんにしても、ふたり目のグレゴワール・コランさんにしても見るからに悪い人ではない、というふうにしたんですが。その分、悪くなさそうな人たちをひどい目に遭わせて余計ひどい感じがしたという意見もあるんですけど」

高橋「ヨーロッパの犯罪小説とかを調べると大概、移民系の問題が入ってくる。クローネンバーグの『イースタン・プロミス』(2007)はイギリスを舞台にしたロシアンマフィアの話ですけど、トルコ人が床屋をやっててその床屋が実は殺し屋。ああいうの面白いですけど、ぼくたちが真似しても多分ダメだな」

イースタン・プロミス

イースタン・プロミス

  • ヴィゴ・モーテンセン
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黒沢「ステレオタイプになるか、難しい問題に触れてしまうかですね」

高橋「移民とかはリアルなんだけどやめようと。宗教団体にしようかと(笑)」

黒沢「高橋くんに今回のリメイク版の脚本をお願いしたときに、宗教団体にしようってなったんですけど。カルト教団みたいなのは…悪者を想定するときにひとりの悪人だったら狂った奴とか凶暴な奴とかで何とかなるんですが、悪い人の集団をつくり上げるのは難しいと常々思っていたんですよ」

高橋「最初に宗教団体パターンで1回とにかく検討稿を書いてみようとなったときに感じましたね。イデオロギー集団なんだけど本当にコアなイデオロギーを持ってるのはごく少数で、金が動いてるから乗っかろうとしてる奴らもいて、中途半端にイデオロギーを持ってる人もいて、複雑なキャラクターづけが必要で描き分けられるのかなと」

黒沢「日本でドラマをつくってても似たようなところにぶつかる。多数の人が共通のイデオロギーで悪であっても、向こうにとっては善なんですね。テロリストもカルト教団も自分が悪いとは思ってなくて、向こうからするとこっちが悪い。やくざだったら(悪と描いても)いいかと言われてますけど、ぼくも実態はよく知りませんけど、かつては仁義で結ばれていましたから、それを一方的に悪としていいのかと。宇宙人だったらまあいいか(笑)」

高橋「極端にすると『仮面ライダー』(1971)のショッカーという手も」

黒沢「知識がないんですが、ショッカーは何で結ばれた悪者なんですか」

高橋「石ノ森章太郎の原作では、ショッカーの究極目的は世界平和なんですよ。人類を全部、改造人間にすれば世界は平和になると」

黒沢「彼らにとっては善なんですね。突きつめると善対善の戦いになる」

【舞台となる場所 (1)】

黒沢「オリジナル版でもフランス版でもいろいろなところに行きますけど、監禁している場所はほぼ一か所ですね。スケジュール的に低予算というか、天候に関わりなくほとんどのシーンが撮れて好都合だったんですが、それは考えたんですか」

高橋「オリジナルのときは、当時Vシネマは随分やってましたから少ない場所の数でお話をつくるっていうのはかなり叩き込まれていて。逆に予算がある映画だと、こんなに出していいのってためらっちゃう(笑)。でも一点に集約させる作劇は好きなのかもしれないですね」

黒沢「ぼくも貧乏性なのか、予算に関わりなく場所は少なくしようとしてしまいますね。今回の場所はパリ近郊のお菓子工場がたまたまつぶれていて、その中を使ってもいいということで使ったんですけど。高橋くんもご自分で監督されていて『ザ・ミソジニー』(2023)にしても『霊的ボリシェヴィキ』(2018)にしてもほぼ一か所で起こるドラマですね」(つづく