私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

高橋洋 インタビュー(2008)・『狂気の海』(2)

――今回も仕掛けは多かったと思いますが。

 

高橋:まぁ、5日間というのは役者さんに出て貰うメインの撮影のことで、特撮はまた別の話だからね。今回、特撮のキャメラはゼミ生の伊藤(伊藤淳)君が回してるんですよ。撮影の技術講師で本編のキャメラを回した山田山田達也さんが、5日間のキャメラ助手経験を見ながら「おまえ回してみろ」って伊藤君にキャメラを託したんですね。今まではコラボレーションを担当する講師が普段仕事をしているキャメラマンさんを外部から呼ぶケースが多かったので、なかなかそういうことは難しかった。でも山田さんはずっと初等科から彼らを指導してきて、撮影の授業のカリキュラムとも連動して考えることができるから、撮影期間中にあるところでキャメラを渡せるんですよ。それができたのは今回の大きな収穫でしたね。

 

――高橋さんは教育者的な情熱も持っている方だなぁという印象があるんですが、今回の撮影現場も教育の場となっている一面があったんですね。

 

高橋:そりゃ授業だから(笑)。でも、コラボレーションというのは傍から見ると、きっと授業を口実にして講師が好き勝手に映画撮ってるように見えるよね(笑)。

 

――そうですね。安い労働力を酷使して(笑)。

 

高橋:美学校映画美学校も10年やってるから、試行錯誤した時期もあったんですね。講師のスタッフに付くより、ゼミ生自身に撮らせる回数を増やした方がいいんじゃないかとか。でも、定着したのはこの形だった。この作業を通り抜けた時に、普段の授業では伝えられないことが伝えられるんですね。普段のゼミで彼らがシナリオや映像作品を出してきた時、それに対してこっちはいいとか悪いとか言うんですけど、結局のところ他人事ですよね。でも自分の映画に関わることで、お互い本性が出るじゃないですか。どっちも首を絞めたいと思ってるような(笑)、そういう関係に入ってくるわけですよ。その時の人と人の向き合い方って激しいものですから、そこまでいかないと伝わらないことがある。現場では明日までに答えを出せという状況になりますからね。もの作りってそれが当たり前なんだけど、なかなか普段の授業でそのレベルまでは持っていけないですから。

 

――ゼミ生たちとの共同作業で印象に残っていることはありませんか。

 

高橋:今回は音が特に大変だったんですよ。現場は同時録音ですけど、それ以外の非現実な音がいっぱいあって、一度そういう音を録音部の人たちに全部付けてもらったんです。そうすると、例えばレーザー光線にどんな音を付けるのかということを自分たちで考えなきゃいけなくなる。やっぱり最初は「ピー」という一般的なレーザーの音を付けてくるので、「ほんとにこの音でいいの?」と聞く。それから最初は言わずにおいた「これ、人間の悲鳴みたいな音にしたいんだよね」と返すわけです(笑)。向こうも初めは何のことかわからないから、キョトンとします。だから「『スター・ウォーズ』の帝国軍の戦闘機の飛行音を思い出してみてくれ」と言うわけですよ。「あれは獣の声に聞こえるでしょう」と。そうすると、みんな「え?!」って驚くんですね。「じゃあ、家に帰ってもう一回『スター・ウォーズ』観てきて」と。それで観直してきたら、「たしかに獣が叫んでました」と。そこで初めて「じゃあ、絶叫を録音しようじゃないの」という話になっていく。やっぱり女性の声をメインに立てて、男性の声をベースに貼るのが一番いいみたいで、そういうことをゼミ生たちが発見してくる。そういうプロセスを踏むことで、自分たちは音で演出できるっていうことに気付くわけです。それに気付いたら彼らも欲が出てガンガンいろんな音を入れ込んできますから、結果的にはそういう風にやらせてよかったなぁと思いましたね。

 

――そうは言っても、最終的には高橋洋監督作品ということになるわけですから、できるだけ自分の思い通りにスタッフをコントロールしたいと思ったりはしないんですか。

 

高橋:ゼミ生たちの可能性を生かすと言っても、レーザー光線に「ピー」という音を付けてきたらオッケーにはしないわけですからね。「もっと何かないか?」と言いながら、こちらにはある程度のイメージがあるわけです。でも、それを具体的にどうするかとなると、作業するのはゼミ生たちですから。そうすることで、思いがけないアイデアが出てくるようになります。神像が倒れる時の音にしても、「ここに何か必要だよね」という話はしてたんだけど、じゃあ何の音がいいのかっていう時に僕からパッとは出なかった。でも最終的にドンピシャの音を見つけてきたんですね。何の音かって聞いたら、歯ぎしりの音だって言うんですよ。録音部の人が顎にマイクを付けて、自分の歯ぎしり録ってるんだよね。おーすごいなって思いましたよ。音の貼り付けが全部終わった段階で録音講師の臼井(臼井勝)さんに見て貰うんだけど、すごく誉めてくれましたからね。あれは嬉しかった。つづく

 以上、「映画芸術」のサイトより引用。