私の中の見えない炎

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高橋洋 インタビュー(2008)・『狂気の海』(1)

 日本を “普通の国” にするべく憲法改正に着手する首相(田口トモロヲ)は、憲法9条を愛する夫人(中原翔子)と対立していた。緊迫する情況下で、アメリカ大統領が何者かに呪い殺される。

 脚本を手がけた『リング』シリーズをヒットさせ、その後は映画『ソドムの市』(2004)や『旧支配者のキャロル』(2011)、『霊的ボリシェビキ』(2019)などの脚本・監督を担当した高橋洋。2020年にはコロナ禍を逆手に取ったネットムービー『彼方より』を発表した。

 その高橋が、講師を務める映画美学校の学生と制作したのが短篇『狂気の海』(2008)。低廉な予算でスケールの大きなパニック映画に挑戦していて、そのシュールっぷりに笑ってしまう(シナリオは『地獄は実在する』〈幻戯書房〉に収録)。

 高橋氏のインタビューを「映画芸術」誌のサイトより以下に引用したい(明らかな誤字は訂正し、高橋氏の発言には “高橋” と付した )。

 『女優霊』(96)や『リング』(98)の脚本家として、『呪怨』シリーズ(00~03)の監修としてJホラーブームを牽引する一方で、『蛇の道』(98)や『発狂する唇』(00)などの野心作を手がけ、2004年にはホラー番長シリーズの一篇『ソドムの市』を監督した高橋洋。その最新作『狂気の海』が6月28日から渋谷ユーロスペースで公開される。メジャーとインディーズの枠を越え、ジャンルの垣根を横断しながら精力的な活動を展開する作家が見据える「映画」とは何なのか。その答えを探るべく、高橋洋さんへのロングインタビューを敢行しました。

 

 この作業を通り抜けた時に普段の授業では伝えられないことが伝えられる

 

――この『狂気の海』は映画美学校の企画として製作されたそうですね。

 

高橋:フィクション高等科のカリキュラムで講師とのコラボレーションというのを毎年やっていて、高等科を担当した講師がゼミ生と組んで映画を撮るんです。撮影も録音も技術講師の方が入って、その下に助手としてゼミ生が付いて経験を積ませるというシステムでやっています。

 

――学生が参加するということも、この作品を企画する時に何か影響を与えたんでしょうか。

 

高橋:企画原案はこっちから出したんですけどね。まだ漠然としたプロット・レベルのものをゼミ生に提示して「君たちはここからどんなシナリオを発想する?」と投げることから始めました。コラボレーションは全工程をそういうやり方で進めるので、要するに二度手間なんですけど(笑)、とにかく一回投げる。それで上がってきたものが面白かったら取り入れるということをくり返しました。それから、この企画を発想したきっかけの一つは、2006年の夏に観た樋口真嗣さんの『日本沈没』なんです。あの映画で日本が沈没しないのを見て、どういうことなの?!と思ったわけです。民族が国土を失うって話なのに、なんでそこで起こるべきことが起こらないんだと。そういう鬱憤はありました。

――前作の『ソドムの市』も映画美学校の企画「ホラー番長」の一篇として撮られたわけですけど、その時と比べて何か変化はありましたか。

 

高橋:やっぱり今回は撮影日数が5日間しかないですから、その条件にシナリオも落とし込んでいかなきゃいけない。『ソドムの市』の時はもっと撮影体制も自主映画に近かったので、カッチリ芝居を決めて撮るというやり方は今回が初めてだったんです。最初はそれがすごく不安だったけど、やってみたら新鮮な体験でした。

 

――たしかに今回は、語りの明確な狙いがあったうえで、そのために俳優を動かしてる印象がありました。『ソドムの市』の時は、俳優を自由に動かしてみて、面白いところをピックアップして使っている印象でしたけど。

 

高橋:でも芝居に関しては『ソドムの市』のほうが、僕が好きな昔の特撮ドラマのような、型の芝居をしてもらってたんですよ。今回は逆に、メインとなる3人の役者さんは自分で動ける人たちだから、シナリオの段階で動きまでは考えてなかったし、セリフをどんなトーンで言うかも考えていなかった。今回、ホン読みというものを初めてやったんだけど、その時に役者さんたちに読んでもらって、どういう調子がいいのか探りながら作っていく感じでした。その後にリハーサルも初めてやったんだけど(笑)、もっと慣れていればリハーサルでいろんな芝居の発見ができたのかなと思います。でも、役者さんに動いてもらってだいぶ形が見えてきたので、その後はカメラ位置とかを考えるほうに頭がいってしまって(笑)、あれはよくなかったなぁと。でも基本的には、芝居もキャメラも初めから決めないという姿勢でやっていました。

 

――『ソドムの市』では戦略的に素人の方を役者として起用している印象がありましたが、今回プロフェッショナルな役者さんを使ったのは監督の中でどういう変化があったからなんですか。

 

高橋:結局いろんな条件が重なり合ってくるなかで見えてくる形ですよね。5日間で撮りきらなきゃいけないってことは、ロケ場所の数も限定して、あまり仕掛けのないものにならざるをえない。かつ、今までと違うことをやりたいという思いもあったから、これまでやったことのないセリフ芝居中心のものを1回自分に課してみようという。つづく

 以上、「映画芸術」のサイトより引用。

 

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