大岡昇平の名作小説を映画化した、塚本晋也監督・主演『野火』(2015)。自主映画として制作され、ロードショー公開で好評を博したのちも全国行脚で上映が行われるという特異な経緯をたどった。その制作から興行を記録した『塚本晋也「野火」全記録』(洋泉社)が刊行され、8月末に塚本監督のトークショーが高円寺の書店で行われた。トークの相手役は「映画秘宝」の岩田和明編集長、編集の島津善之氏が務める。
塚本監督は「ちょっとぎっくりが…」と登場(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。
【「全記録」刊行の経緯】
岩田「今年2月13日にですね、配給宣伝のNさんからメールをもらって、64館くらいの劇場行脚をしたので、旅本をって。記録を形に残せないかなと。是非やりたいと思いましたけど」
岩田編集長は「映画秘宝」の業務が忙しいので、島津氏が編集を担当することになったという。塚本監督の代表作『鉄男』(1989)の研究書『完全鉄男』(講談社)が2010年に刊行され、島津氏は編集を担当。『完全鉄男』には、『鉄男』のカットされた幻のシーンも収録されたDVDも付属している。
完全鉄男 『鉄男』から『鉄男 THE BULLET MAN』までの軌跡
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塚本「DVDは見せるようなもんじゃない、クズみたい。本はすごいけどDVDは捨てたほうがいい(一同笑)」
岩田「鉄クズ(一同笑)」
塚本「島津さんが海獣シアター(塚本監督の会社)に来て、資料とか漁って、はずかしいものまで見つけて“これがいいですよ!”って。こっちの頭も麻痺して、それがいいかなって。自分の肛門を見せようってコンセプトですね。ぼくの覚え書きノート、はずかしいですよー」
岩田「(覚え書きによると)『鉄男』の参考映画が『フラッシュダンス』(1983)!?」
塚本「ぼくが箱に入れて鍵をかけてたマンガとかも。『鉄男』をつくって人間関係が厭になって、ひとりでできるマンガ家になりたいと。マンガ描いて持ち込んだら、“ダメ、映画がんばりなさい”と。
島津さんは資料の網羅がすごい。過去のぼくのパンフレットやカタログ、トロフィーも緻密に網羅してくださって」
岩田「『完全鉄男』のムードで、『野火』の本をつくりたかったですね」
島津「会社辞めて不安を感じてたころで、そのときメールが来て“暇じゃないですよね”って」
岩田「この映画は制作、宣伝、全国行脚など固有の道のりをたどってる。他の映画に置き換えできない。その過程だけで面白い」
塚本「最初はこの後半部分(劇場行脚)だけで本をつくろうと思ってたけど、それは「野火の道」ってタイトルでSNSに詳しく書いてあって、ぼくは厭がったんですけど、旅のお土産とかも載せた。こういう映画館にかけてもらえるとか、映画祭の出し方、識者を集めてのディスカッションとか。映画館ごとに詳細に書いてありますので、資料になると。
最初は『太平洋ひとりぼっち』(舵社)みたいな冒険物(の本)にしたいということで。あの本はヨットの絵があって、持ってったものとか洗濯ばさみとか、細かく書いてある。それで『「野火」全記録』でも「12:13 お弁当購入」とか。『あまちゃん』(2013)の特別なやつ(笑)」
岩田「映画本の皮を被った旅本(笑)」
塚本「本の前半(メイキング)は、ためになるかな? あまりに特殊なんで参考にはならない。でも逆にこんなやり方でも映画ができるんだと、勇気づけにはなるかと」
島津「つくるという意思があれば、道は開けるという」
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【『野火』のメイキング (1)】
塚本「お金がないので(当初は)ひとりでつくる自撮り映画にしようと。フィリピンへひとりで行って、三脚置いて。それで1回そういうコンテを書いて、その後ロケハンに行くんですが。
ぼく絵を描くの好きで水彩画で描いてたんですけど、印刷すると大人しくなっちゃう。iPhoneのアプリでスケッチ−ズっていうのを試してみたら、性に合って。ペンを選んで、指で描く。100円払うと上級者コースでやりやすくなるんですが、それに気づくまで何か月もかかった。でも解像度が小さくて、今度はiPadを奮発して、それで描きました。自分が田村のつもりで描いたので、自画像ではないですけど」
塚本監督が自ら描いた絵コンテも、その場で紹介された。つづいて、2013年6〜7月のフィリピンロケの写真が。
塚本「いちばん最初で、スタッフも極小で、ぼくと林(林啓史)くんっていう助監督だけ。大友(大友麻子)さんという本も書いてくださった方がフィリピンに精通してて。美術はボランティアの人です。現地コーディネーターは、現地のパン屋の人。途中で殺される女の人の隣で逃げる人で(俳優としても)出ています。映画で海外ロケは初めてです。
(巻末の)年表を見ると、安保法制が通ると『野火』の動きが速くなる。父が亡くなって遺産が入って、余裕ができる。手に汗握りますね(笑)」
島津「監督は(ロケは)地獄だった、周囲の人は愉しかったと(笑)」
塚本「ランチは道ばたの仮設的な雰囲気のところで。(料理には)ハエがたかっていて、日本ではハエに神経質ですけど。(分隊長役の)山本(山本浩司)さんはなじめなかったみたいです。大友さんがどうですかって言うと、正直に“まずいです!”と(笑)。こないだ出させてもらった『沈黙』(2016)では(ロケ地に)道路つくってましたけど、ぼくの映画ではネバー。将来もそういうことはない(一同笑)」
つづいて埼玉・深谷での撮影の後、2013年11月に沖縄ロケへ。メインキャストのリリー・フランキー、中村達也、森優作の各氏も同行。
塚本「フィリピンではイメージの画を撮って、沖縄では南国の風景があって俳優さんもいる。深谷では爆発などの仕掛けがあって、大勢のスタッフがいると」
島津「沖縄には主要キャストの方がいらっしゃる。これはエキストラの人が落ち込んでるのかと思ったら、森くんの写真ですね。監督、追い込んだんですか」
塚本「ぼくは追い込まない。でも森くんは演技経験がなかったんで。どよよーんとした状態から生きるためにこうなるという豹変がやりたい。この写真は集中してるとこですね。彼の撮影の終わりに近いところです」
うずくまっている森氏の近くで、にやにや笑う監督の写真も(笑)。(つづく)
【関連記事】塚本晋也監督 トークショー レポート・『野火』(1)
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