【『ロケーション』について(2)】
森崎東監督『ロケーション』(1984)でのロケ隊は新宿を出発して、あちこち経由して福島へ。
山根「新宿から、場所を転々としてますね。群馬県とか」
柄本「(後半の)崖みたいなシーンだと、シナリオと離れてた気がします。どっちがほんとのロケ隊だみたいな」
山根「画面見ててもそんな感じです。ぼくは撮影現場を何日か見に行ったんですが、九十九里浜かな」
柄本「そうです。大変だったなあ」
山根「案内されて、浜辺に立ってロケ隊を見たら、森崎監督がふたりいるんですよ。近づいていくと、加藤武さんが映画の中での監督役で。そこからもうおかしい(笑)」
劇中の監督役・加藤武は森崎監督とそっくりの扮装をしている。柄本氏は、その後も森崎作品に出演した。
柄本「松坂(松坂慶子)さんの『女咲かせます』(1987)にちょこっと出てます。中井貴一さんの『ラブ・レター』(1998)にもちょこっと出てます。それぐらい? あ、『ニワトリはハダシだ』(2004)にもちょこっと(一同笑)。そんなにたくさんは出てない」
山根「『ニワトリ』はほんとにちょっとですけど、重要な役です」
柄本「舞鶴に行って撮りました」
山根「わざわざ行ったんですか。事務所のシーンだから、どこで撮ってもいいような感じなのに」
柄本「制作が志摩(志摩敏樹)さんで舞鶴の方なんで、それで行ったのかな」
山根「ここは絶対、柄本さんに出てもらおうと監督が言うのかな」
柄本「それだったら嬉しいですけどね」
山根「キャスティングを監督がどこまでやるのかは判らないですけど」
森崎監督はテレビドラマも多数撮っており、テレビの仕事にも言及された。
山根「今回は上映しないんですが、テレビの作品にも2本出ていらっしゃいますね。『喜劇・ああ出産』(1986)と『喜劇・ああ未亡人』(1988)。『ああ未亡人』は大原麗子さんが未亡人で、柄本さんがやもめで再婚するかという話です。ラストシーンで、大原さんと柄本さんがスナックで会って、これも三角関係で、大原麗子の亡くなった旦那と柄本さんが学生時代の友だちです。学生時代に映画を見に行ったと。その話をして、歌を歌い出す」
柄本「監督に「ここのところ、きみ考えろ」と言われて、見に行った映画や俳優の名前出して。誰の名前だったか、タイロン・パワーだったか」
柄本「ああ、タイロン・パワーじゃなかった(笑)」
山根「『荒野の決闘』の主題歌を歌ってましたね。西部劇ファンとしてはおおっと思いましたけど、ところが途中から歌が変わるんです。あれは何の歌なんですか(一同笑)」
柄本「覚えてないですね、さすがに」
山根「長い歌なんですよ。最初はカウンターにすわっていて、そこから立って。森崎映画には歌がいっぱい出てきますけど。ここを考えろと言われるのは、やってる柄本さんとしては面白いですか」
柄本「面白い、つまらないは考えないですけど。みんなでつくってるわけですから、ぼくだけじゃなく、スタッフにも「ここどうする?」と言ってるんじゃないかという気がします」
山根「それでとんでもない方向に行くこともありますね。『ロケーション』も」
柄本「大いにあるんじゃないですか。小道具の人に、何がいいか考えろとか言って、持って来たらそれで全然変わるとか」
【相米慎二の想い出】
柄本「相米慎二が森崎さんのこと大好きだったみたいですね。湯布院映画祭で森崎さんの特集があって、ぼくも、相米の最後の『風花』(2001)でいて。森崎さんが来たら、相米さんが出迎えるんですよ。普段はえらそうな男が森崎さんの鞄を持って「監督、こちらです。どうぞ」と。あんな相米見たの初めてです(一同笑)。
ぼくは、相米の『ションベン・ライダー』(1983)は森崎映画を盗ってるなあと思いますね。最初のところとか。『ションベン』では倍賞(倍賞美津子)さんがちょっと出てきますよね。そのときは、森崎映画見てるのかなって気になる」
山根「空気がそうなっちゃう」
柄本「藤竜也さんもいましたけど、後ろからだけなんですね。それより倍賞さんを撮るのに一生懸命(笑)」
【その他の発言】
柄本「『ロケーション』には殿山(殿山泰司)さんが出てますけど、ぼく大好きなんです」
山根「森崎さんはテレビドラマでも、近代映画協会の仕事が多いですね。それで(近代映画協会の常連の)乙羽信子さんや殿山さんが出ています。『喜劇 特出しヒモ天国』(1975)でも殿山さんがちらちら出てきますね」
柄本「殿山さんとぼくの親父が小学校で同級生なんですよ。『三文役者ああなきい伝』(ちくま文庫)なんか読むと、親父の話がちょっと出てきます。仕事の度に「親父、元気か」って言われたりして。かっこいいんですよ。ジーパンに草履で歩いてくるんですけど。
生まれはいまの東銀座で。5つくらいまでですけど歌舞伎座の裏の2階に間借りしてて、その家はまだ建ってます。築90年とかかな」
最後にメッセージ。
柄本「『ロケーション』は若いときの映画ですけど、ほんとに壊れてる映画です。頭がごちゃごちゃになります。ぼくは森崎映画の大ファンですので、愉しんでいただければと思います」