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塚本晋也監督 トークショー レポート・『塚本晋也「野火」全記録』(2)

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【『野火』のメイキング (2)】

塚本「リリー(リリー・フランキー)さんを刺す場面では、血しぶきが飛ぶ。見せるところと見せないところとの配分に気をつけました。ほんとに刺されるところは出さないけど、血しぶきは必要かなと。

 いもは、スタッフがいもに似せて他の物でつくった。ほんとのいもだと腐っちゃうからだったかな。最終的にそう見えればいい。すべての物がそうです。護送車も段ボールですし。

 肺病病み(の設定)ですから、目の周りは紫に塗って。ふと途中でこれでいいのかな、でもそうしちゃったしなって(一同笑)。全編これで、そういう気分になれると。基本自分でメイクして、ボランティアの人にもやってもらって。中村さんもリリーさんもそうですね。中村さんは子どもが泥遊びしたみたいで、真っ黒。ぼくがお母さんみたいに“達也、何やってんの”と。かっこいい顔が(一同笑)。でも俳優がやってことにあれこれ言うのも。本人は塗り方が判ってなくて、茶色じゃなくて黒ばっかり。

 日本兵(死体)の人形はなるべく少ない数で、十何体つくってその中にほんとの人も混ぜて。造形を入れて、でもそれだけじゃつくりものになってしまう。ボランティアスタッフの中に昔の日本兵みたいな顔の人がいて、他に痩せてる人もいたので、ほとんどそのふたりの顔です護送車の中にはアメリカ兵を載せて、一応人形も入れてます。

 ほんとのハエを弱らせて、接着剤で糸をくっつけて。その近くに中村さんを。ほんとにたからせるわけにはいかないので。吊ってるワイヤーをCGで消しています。引き算ですね。『ターミネーター2』(1991)で、シュワルツネッガーを吊ってるワイヤーを消したと聞いて。『野火』(2015)は、いまの映画にしてはCGを使ってない」

 

 2013年11〜12月に第二次深谷ロケが行われた。

 

塚本「(写真を見せて)金子(金子昌弘)さん、軍事指導の方です。脚本の段階から所作とかを見ていただいて。音を入れるとき、近くの音と遠くで鳴ってる音は違うと指摘してくださって、すごくリアルになりました。金子さんはフィリピンロケの後で入ったので、(フィリピンで撮ったシーンでは)上官の前で銃を下ろしてない。それを(帰国後に)気づいて、おかしいから意味づけを考える。どんな理由だったかな、疲れてるからとか(一同笑)。後で撮った病院のシーンでは、下ろしています。いつも忘れてるわけじゃないと(笑)」

 

 教会でフィリピン人の女性を殺すシーンでは、殺されるのは「現地でナンパした」人。ただし血しぶきが上がるシーンは、教会では撮れないので、深谷で撮られたという。また深谷で「初めて完全にブリッジな虹を見て、宮崎駿のアニメーションみたい」とのことで虹の写真も紹介された。

 2013年暮れには、ハワイロケへ。

 

塚本「ハワイは(規制が)ゆるいかわりに、自分の命は自分で面倒見てと。病院が爆発した後でさまよってるところも撮りました。すごい椰子の木があって、白い鳥が飛んでいて、楽園的な映像が撮れたのでまあよしとするか」

 

 予告編を流して、監督が「これフィリピン、深谷、ハワイ」と次々指摘。見事なまでに入り混じった編集に驚かされる。

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【その他の発言】

 塚本監督は、この夏に大ヒットした『シン・ゴジラ』(2016)にも科学者役で出演している。

 

岩田庵野庵野秀明)さんもiPhoneで撮ってるし、簡単に撮れるけど、いまはどう届けるかがおざなりになってる」

塚本「『ゴジラ』でiPhoneで撮ってました。いっぱいカメラまわして、その中で庵野さんがiPhoneで俳優の近くで下から撮ったり。昔だったら(下から撮るのは)机に穴開けたりしてほんとに大変。でもいまは折り鶴置いて(それで隠して)撮ったりとかね。“あ、顔は映ってません”とか言って、それがすごく使われてました(笑)」

 

 2015年6月から『野火』を携えて、塚本監督は全国の映画館行脚をスタート。

 

塚本「映画館は、シネコンだと同じですけど、ミニシアターは支配人の貌によって違って。古い映画館はすごく綺麗です。

 映写室は神聖だから入れてくれないかと思ったら、バンバン入れてくれて」

 

 広島の平和記念資料館には強い印象を受けたという。

 

塚本「広島の平和記念館で、ああ『野火』を見たお客さんはこういう気分になるのかな、と。原爆(投下)直後がどうだったかをまざまざと…。みんな、行くべきですね。本当はもっとすごくて、いま(の展示)は大人しくなってるそうです。広島の映画館の人は大人しすぎると怒ってました。

 女の子が好きな人に見てもらいたいと思っていた顔がどろっと溶けて、顔も溶けて。体から戦争に拒否反応が出るように、これを体に仕入れないといけないかな」

 

 今年8月に関東が終わって、9月になったら東北へ行く予定で、行脚は継続中だという。最後にメッセージ。

 

塚本「この本が去年の動きで、去年が戦後70年。そのちょうど10年前に、ぼくは戦争体験者の方々にインタビューしたんですけど、そういった方々が亡くなっちゃって。亡くなられた年に(日本が)戦争に向かってしまって、心配する人をバッシングする雰囲気もあっておそろしかった。でもぽつぽつ声が上がって、国会の前に大勢の人が集まって、そこに『野火』の旅がシンクロして。

 インタビューした方たちが亡くなって、戦争をどう伝えるかが大きな課題です。この映画と素晴らしい原作とで、戦争はこうだったかなと思ってくだされば。戦後71年、72年、73年も見ていただきたくて。時間が経てば経つほど戦争の意識が薄れていくんで、見ていただきたいなと」 

塚本晋也「野火」全記録

塚本晋也「野火」全記録