私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

塚本晋也 × 黒沢あすか トークショー レポート・『六月の蛇』(3)

【現場の想い出 (2)】

塚本「デパートでの撮影が終わって出てきたら、2001年の9.11でした。ニューヨークの貿易センタービルが倒れていてびっくりしました。ぼくは一生懸命、エスカレーターでりん子さんの脚を撮ってたんですが。

 雨のシーンで駅から出てくるところも、大勢いますけどみんなエキストラですね。ものすごい数のエキストラさんが傘を」

黒沢「りん子が浴槽の中で膝抱えて上を見ていると、天井がガラス窓になってますね。あそこはロケ地のお宅に入ったときに、監督もスタッフのみなさんもわちゃわちゃしてたんです。「あそこに機材倒れちゃって、ひびいかせちゃったんですよ。どうしよう。お金がものすごくかかるかもしれない」って騒動が」

塚本「大丈夫じゃなかったんですけど。繊細な建築家のお宅を借りたんで、神経質にやってたところああなって絶望したんですけど(笑)。建築家の方も「まあいいよ」みたいなことで解決したと」

 

神足裕司氏】

 夫役はコラムニストの神足裕司氏。

 

塚本「神足さんは風貌で。インテリジェンスのある雰囲気で白黒の映像のムードに合うので、ぜひお願いしますと。メイクテストのときに来ていただいて、髪の毛に赤いペンでまっすぐに線を引かせていただいて「こっからこっち綺麗に剃ってください」って。(劇中で神足さんの受ける仕打ちは)自分も含めて男なんですが、ぼくの中にある男、父性への反感があそこに現れちゃったんですね。いまはもう父も亡くなったんですが」

黒沢「真剣に向き合ってました。神足さんの考えてこられたキャラクターで台詞を投げかけてくださるので、私はキャッチしてお答えするだけですよね」

 

 神足氏が暴力を振るわれるシーンでは、塚本氏の演じる人物から機械が飛び出す。

 

塚本「1回うまくいかなくて撮り直した記憶があるんですけど。ひもで吊ったら細かい演技ができなくて、ぼくのほうはいいんですけど、神足さんにからむほうが。パペットふうに中に手が入ってたんだったかな。

 あのシーンは構想のときからずっとやろうと決めてて、撮った後に、最初の構想にこだわりすぎるのはあれかなとも思ったんですが(笑)。きょう見たら、まあいいかなと。あんな妄想が見えたということで」

【作品の反響】

塚本ヴェネチア映画祭に持ってったときに受け入れられるか判らなくて、黒沢さんにも「もしかしたらスクリーンに石を投げられて罵倒されるかもしれない。覚悟しといてください」って言ったんですけど。反応は違っていて、審査委員長は女性だったんですけどその方が喜んでくれて。イタリアのいろんな女性の方が救われたみたいに言ってくれて。

 イメージでイタリア女性というのがあって、なんか太ももが太いほうが(一同笑)。あんまり細いんじゃちょっとな。そのイメージにぴったりの方がいらして、もうほんとにひれ伏したい。その前は土下座したいって言ってて、何で謝らなきゃいけないんだと。なんか違うなこのニュアンス、ああひれ伏したいんだって。やっと行きつきました」

黒沢「(笑)『六月の蛇』(2002)以降では映画のお仕事が特に増えてますね。『でらしね』(2004)とか必要としていただけました。必ず裸がつきもので、でも私は人と同じでは生き残れないと思っていたので、塚本監督が誉めてくださったところを活かすと自分が目指すところへ歩みを進められるんじゃないかと。あえて裸一本に絞って行けるところまで行っちゃおう。裸があって演技をするというのは当時空いているポストで、多分いまでもそうだと思うんですね。何のつてもない、トラック運転手の娘で田舎育ちの人間が結果を出すってなったら、何だっていいって思ったんですね。当時から50歳までに何とかしたいと突き進みましたね」

 最後にメッセージ。

 

黒沢「私はこの『六月の蛇』で人生を再スタートすることができました。自分が出演した作品を見ると負け犬になったような気持ちになるので、ずっと見ていなかったんです。監督がちょっと離れた席で見られていて、私も20年ぶりに見て映画っていいな、50歳になって30歳の自分を客観視できるって素敵だな。あきらめずにやってきてよかった。もう肩の力抜いていいかなって思いましたね。監督、ありがとうございます」

塚本「20年たってますけど、黒沢さんに拍手したくなっちゃって(笑)。果敢に挑んでいただいて感謝しています。お客さんが集まってくださったのにも驚いています」