【撮影現場のエピソード (2)】
渡邊「(『君は僕をスキになる』〈1989〉の)撮影は8月で真夏で、雪はない。この前の時代はカポックって言って発泡スチロールを雪に使ってたんですが、このころ手で溶ける泡のような雪ができて。でも公園の全面に雪を降らすのは無理だろうと。公園の階段は元町、公園はセットです。
最後の雪だるまの人形のシーン、あれもやりたいって言って、プロデューサーにやめろって言われたけど。にっかつの撮影所使って、5、600万かかりました(笑)。あれでプロデューサーに嫌われて。次の『スキ』(1990)は、とある監督に行って、でも野島(野島伸司)とその監督が喧嘩して、それで自分のところに…。プロデューサーとある程度折り合い付けてやらないとなって」
【監督としての思い】
渡邊「チャラいけど、人物設定を掘り下げてるつもり。大げさに言えばカタルシス、ドラマを感じさせるのが仕事。このテレビ的な企画に映画的要素を入れるのに必死でした。
デビュー作には監督のすべてが詰まってると言われる。これがおれか…? いろんな意味で複雑な気持ちです(一同笑)」
大江千里はボクシングのグローブを持っているシーンが前半にある。後半では、加藤雅也が山田邦子を断るシーンで、大江が加藤を殴る。
渡邊「それぞれ描かれてなくても人生の背景がある。殴るシーンはそれを一部分でも出しておこうと。由貴ちゃんのメガネやプリンは台本にあったね」
監督自身は、バーでのダンスのシーンが気に入っているという。
渡邊「前半に撮ったダンスシーン、それぞれが違う相手とカップルになる。複雑な心理があって、台詞でなく目の芝居で感情を描く。そこはがんばったかなって。画のトーンもいいし。あれは原宿のレストランバーに絵を飾って。水槽がほしいってのは、おれが言って。
スタッフは助監督のときからこの人とやりたいという人たちで、スタッフワークにはわがまま言わせてもらって。おれがもういいんじゃない?っていうようなときでも、スタッフががんばって雪を敷いて、プロデューサーに怒られたりとか。
山田邦ちゃんのスケジュールがなくて、由貴ちゃんのスケジュールもここまでと決まってて、日数が少ない。
具体的にああ動けって言わないで、最近のぼくの演出方法とは違ってて、もう1回ってしつこくテストをやって。相米(相米慎二)さんに影響されてたかな。心理背景は説明して、あとはテスト。加藤雅也は多分おれのことを恨んでた。加藤の役はチャラいけど純粋なところもある。前半はバカでやれバカでやれって言ってたら、かちんときたみたいで“そんなに言わなくていいじゃないですか”って。(山田邦子を断るシーンは)0.7秒くらい早い。瞬殺具合がちょっと甘い。それでOK出しちゃった。まだ人間観察がしきれてないと感じますね。
初日、ぼくは精神的にぼろぼろでベンチでぶっ倒れてて、それを写真に撮られて、ああこれが初日のおれか。大森(大森一樹)さんも相米さんもいい加減な監督で、監督っていいなって思ってたけど、いざ自分でやってみると…。
やっぱり日数も条件も限られてて、チーフ(助監督)だったときに“監督、やれば”って無責任に言ってたのが自分に跳ね返ってきて。隣で相米さんが『東京上空いらっしゃいませ』(1990)を撮ってて、おれが肩を落としてうなだれて歩いてたらしいんだけど、相米さんが“渡邊、監督がそんな姿をスタッフにさらしちゃダメ、スタッフは見てるから”って。なるほどな、監督はどうあるべきか、監督のたたずまいを気づかせてくれた」
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【その他の発言】
渡邊「相米組にいたら、この世界にいなかったんじゃないかな。『魚影の群れ』(1984)の助監督は、他の仕事が入ってできなかったんだけど、(ロケ地の大間へ)行ったスタッフは家庭が崩壊した(一同笑)。行ったら、大間の漁師になっていたかな。
榎戸(榎戸耕史)さんも妥協しない。榎戸組(『ふ・た・り・ぼ・っ・ち』〈1988〉)の準備中に、相米さんが電話してきて“よろしく頼む”ってひとことだけ。厭らしいね。映画が完成して、初号試写で相米さんが全員に耳打ち。“榎戸に最低でしたって言ってやろうぜ”って。面白いからみんながやると、榎戸さんは青ざめて、ああ悪いことしたなって(笑)。
(斉藤由貴とは)この後で1度仕事しました。理屈じゃないものを飲み込んで、彼女なりの表現で返してくれる。最近大人になってきた感じがあるので、また羽ばたいてもらいたいですね。
(新作は)夏から秋にかけて撮ってたWOWOWのドラマ、ぼくはテレビ映画って言ってるんですが、『荒地の恋』(2016)。できたてで、1月9日から放送です。7年越しくらいでやりたかった企画で、『君は僕を』でデビューした豊川悦司も出ていて、大人の文壇の恋模様を描いてます」
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