私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

岡留安則 × 花田紀凱 × 中田美香 “「噂の真相」元編集長に休刊の〈真相〉を聞いた”(2004)(2)

「噂真」休刊。編集長の食指が動くネタというと…。

花田「辞めた(休刊の)原因は、やっぱり裁判とかが理由だったんですか?」

岡留「ここ4、5年かな、判決がとても厳しくなってきたんですよね。それから政治家が簡単に訴えてくるようになったんですよね。きっかけは前総理大臣の森(引用者註:森喜朗さん。こちらとしては真実の証明は出来ていると思うんですけれど、裁判上は引き分けになっちゃったんですよね。多分向こうの訴え勝ちということなんでしょうけれども。なんとも裁判所が及び腰になっちゃって」

中田「でもこれだけの情報がある中で、これだったらっていうネタを扱う扱わないの選択のポリシーというのは何なんですか?」

岡留「うちの雑誌の場合は、公人か見なし公人か。もっと言えば公的目的公益性があるか。名誉棄損いうのは三つ条件をクリアーすればOKなんですけど。公的目的公益性、なおかつ事実、真実性があれば良い。当初からうちは、前二つの条件をクリアしてればいい、うちの場合は有名人か権力者しか取り上げない。例えば「週刊文春」の田中真紀子の長女という人を、「噂の真相」ではどう捉えるかというと、扱ったとしてもコラム、なおかつイニシャル扱いにすると思うんですね。なぜなら彼女は私人ではないし、かといって公人でもない、その中間のグレイ・ゾーンなわけなんだけれど、名誉棄損で損害賠償を求められた場合、今の裁判では負けちゃうんですよ。そうするとイニシャルで、コラムが無難かと。僕の場合、なるべく派手ネタで、なるべく権力・地位の高い人だと食指が動くと…」

花田「でも(「噂の真相」は)ネタの入り方がすごいよね。文壇系のことは新潮、文春は書けないし、そういうの書けるのは「噂真」だけだったからね」

岡留「これから文壇のゴシップって、きっと出てこないですよね」

中田「それも含めて、雑誌の中でのタブーってけっこうあるもんなんですか?」

岡留「自主規制ですよね。ギリギリにどこまで書けるかっていう」

花田「でもコラムはすごい充実していましたよね「噂真」は。斉藤美奈子筒井康隆田中康夫アラーキー(引用者註:荒木経惟…と、これは岡留さんの人徳ですね」

中田「筒井さんなんかは、断筆してもまた戻ってきましたからね」

岡留「勝手に断筆宣言しちゃって、それから4,5年かかったかな。また「やりましょうよ」と口説き続けて書いてくれたんですけどね。でもコラムっていうのは、大事なんですよね、固定読者をつかんでおくためには(引用者註:筒井の連載コラムは『笑犬樓よりの眺望』〈新潮文庫〉に収録)

中田「でもこれでなくなってしまうと、マスコミの人たちは岡留さんの情報が欲しくってしょうがないんじゃないですか?」

岡留「情報のノウハウ、人脈っていうのはみんな欲しいんでしょうね(笑)」

中田「今回の事件ももちろん、みんなが危機感を感じているのは、“言論の自由” が規制されてきているのではないかということですよね?」

岡留「んー。それも「噂の真相」休刊の大きな理由になっていますよね。多分来年から個人情報保護法という法律が施行されると思いますが、これはひどい法律で、公人と私人に等しく、個人情報を守るべきだとという法律だから、一番得するのは公人なんですよ。何かどさくさにまぎれて、公人政治家たちが個人情報は開示しないぞというために作った法律ですから、まあ僕は分かりやすく “政治家スキャンダル報道禁止法” という言い方をしているんですね」

花田「 “個人情報保護法” っていう名前が悪いんですよ」

岡留「やっぱり官僚って頭良いですよ。“盗聴法案” ていうのを、“通信傍受法案” と言われちゃうと何か違うもののように思えちゃう。それから “住基ネット” というより 国民総背番号制って言ったほうが分かりやすいじゃないですか。だからメディアは独自の表現をするべきなんですけど、役所が言ったとおりに書くから、あっという間に国民に浸透しないままに通ってしまうですよね」

「噂真」休刊。沖縄移住化計画…?そして今後「噂真」は…。

中田「このあと沖縄に移住されると。今後発したいメッセージはホームページを通してやることになるんですか?」

岡留「「噂の真相」の残務処理として、裁判があと二つ残っているんですけど、この結果報告だけは読者にすべきだと。だからホームページだけ残して、わたしは沖縄に行っちゃおうと」

中田「でも「噂の真相」はあくまで休刊なんで、今後復刊なんていうことになったら、今度は花田さんが…」

花田「いやいや僕は駄目なんだ。岡留さんは編集者としての能力、プラス経営者としての能力もあるじゃない。僕は経営者としての能力はないからさ」

中田「じゃあ経営者は岡留さんが(笑)」

岡留「そうだよね」

花田「僕は岡留さんみたいな、乱暴なこと出来ないから。僕は事実の裏を取ったことしか書けませんから(笑)」

中田「でもそのタブーに挑戦していくっていう、エネルギーの源は何なんですか?」

岡留「多分花田さんも一緒だと思うんですけど、雑誌作るの好きだし、で、面白がりだしっていう部分ですよ。社会的使命感だけでは出来ないですよ。面白いと思ったら、やっぱりやってみようと。止められない」

 

 “反権力、反権威” という旗をかかげ、時代を見つけめてきた「噂の真相」。その編集長は、なんとも物腰の柔らかな紳士だった。女性に持てるということが何となくわかる気がする。目下、復帰は最低2年はないそうだ。岡留元編集長の夢は沖縄にゴールデン街を作ること。本誌が出来上がっている頃には、沖縄に移り住んでいることだろう。

 以上、JFNジャパンエフエムネットワーク)のサイトより引用。