私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

国際派と大河ドラマ・島田陽子(2)

 ガイド本『NHK大河ドラマストーリー 花の乱』(NHK出版)には『花の乱』(1994)の出演俳優のインタビューが多数掲載されている。三田佳子など主演級は自身の役柄について所見を述べているけれども、あまりなじみのない室町時代が舞台ということもあってドラマと直接的に関係なく各々が興味を持っていることに関する話題も目立つ。佐野史郎は音楽活動、せんだみつおはダイエットなどだが降板前の島田陽子は海外での仕事について語っていた。

 

テレビ映画『将軍』の仕事が終わって、約三年間、アメリカとヨーロッパへ。この期間は、仕事よりも基本的な演技の勉強を優先させていました。尊敬するジョン・マルコビッチの演技指導を学んだりもしました。内容は、気持のあり方、空間の埋め方など、演技的テクニック以前のことでしたね(…)

 私、俳優として歩いていきたい方向が明確にあるんです。それは、かばん一つ、身一つでアメリカ、フランス、イタリア、中国…など地球サイズで回る。そして小さな映画のオーディションを受けてでも、ポンポン自由に仕事をこなしていく。政治・経済はボーダーレス。一流のモデルも世界を飛び回っています。俳優にやれないことはない」(『NHK大河ドラマストーリー 花の乱』)

 

 このインタビューが示するように、自他ともに認める国際派の島田は「地球サイズ」での軽やかな活躍という目標・セルフイメージが頭を大きく占めていた。『SHŌGUN』(1980)に出演した80年代ほどでなくとも、90年代初頭では欧米へのリスペクトはいまより根強い。アメリカ映画と日本のドラマとが重なってしまったとき、後者の収録直前で混乱を引き起こすことが想定されても、かねてからのつき合いである市川森一や村上佑二を裏切ることになったとしても、前者を選ぶのは島田にとって自明のことだったのかもしれない。代償は大きく、マスコミのバッシングは強まりNHKからも締め出される形となった。

 大河を降りて登板した映画『ハンテッド』(1995)は現代日本で忍者が戦うというトンデモ映画である。

 

名古屋から逃げようとするランバート(引用者註:クリストファー・ランバートを追った忍者たちは、なんと新幹線ジャックをし、しかも乗客を皆殺しにしようとする。そこへ乗客とランバートの命を守ろうと立ち上がったのが現代に生きる剣豪、原田芳雄とその妻の島田陽子原田芳雄が刀で、島田陽子が弓で忍者たちを殺す新幹線でのチャンバラシーンは圧巻だ。また、この2人がこんな荒唐無稽なシナリオを大マジメに演じてくれるものだから、嬉しくて涙がチョチョ切れる」(快楽亭ブラック『日本映画に愛の鞭とロウソクを』〈イーハトーブ出版〉)

 

 快楽亭ブラックの言う通り『ハンテッド』はカルト的で見ていて面白いのは確かだけれども、大河ドラマを蹴ってまで出演する価値があったのかどうか。

 NHKから追放されて以後の島田は迷走する。「噂の真相」1997年10月号は島田のバッシングへの反論を掲載しつつも苦言を呈している。

 

借金未払い騒動をみても、真相はどうであれ、実は団鬼六や長谷川安弘が島田陽子をダシに使っているだけのようにも思える。だが、もちろん島田陽子自身にも問題はあるのだ。よく言えば無邪気、世間知らずであるがゆえ他人をすぐに信用する。たとえば借金未払い騒動で問題なのは、社会人たる44歳の女性が、重要な契約の場に専門家も同席させず、言われるまま公正証書にサイン、捺印をするだろうか。その意味では、数々のトラブルは彼女の「無邪気さ」に起因している面もある」(「噂の真相」)

 

 キャリア後期に映画プロデューサーと揉めて逮捕された萩原健一は『どこにもない国』(2018)や『不惑スクラム』(2018)、大河ドラマ『いだてん』(2019)などNHKドラマには出演をつづけ、また萩原の復帰のために市川森一が尽力したという。島田も『花の乱』で市川やNHKの信頼を裏切っていなければ、21世紀に入ってもまだ再起のチャンスはあったかもしれない。マイナスイメージの肥大化により晩年の島田に国際派の惹句が与えられることはあまりなかった。

 ちなみに筆者は島田と言えば山田太一脚本『丘の上の向日葵』(1993)での丘の上に住む謎の女性役、『刑事野呂盆六 殺意のマリア』(1994)の犯人役などの印象が強い。島田は美しさを取りざたされることが多いが、本人もジョン・マルコビッチに指導されたと豪語するように、演技面でも堅固な安定感が備わっていた。

 その仕事歴を概観すると、個人の資質は大きいにしても欧米崇拝の時代に飲み込まれて道を誤った犠牲者のように思えなくもないのだった。