
シンエイ動画入社後は藤子・F・不二雄原作のテレビ『ドラえもん』(1979~)の演出を意欲的に手がけた。
原「おれはあんまりアニメを一生懸命見るような奴じゃなかった。シンエイに入って、藤子・F先生は大好きだったんだけど、シンエイの『ドラえもん』にはあまり感心しなかった。当時の『ドラえもん』は帯番組で毎日夕方に10分くらいやってて(その制作環境で)いいものがつくれるわけないんですよ。で、スタッフたちも『ドラえもん』に愛情がない。覚えてるのは、新人として紹介されて先輩のひとりが「おい。こいつ、『ドラえもん』が好きで入って来たんだってよう」。みんなが「あっはー」って笑って、何だこの会社(一同笑)。それで真面目に面白い『ドラえもん』をつくろうと思って。それで、おれの『ドラえもん』を初めて世間に広めてくれたのがこの人(小黒祐一郎氏)。なんか、うさんくさいでしょ(一同笑)」
「強いイシ」「赤いクツの思い出」など原演出のエピソードはいま見ても面白い。それら諸作に小黒氏は注目していたという。
小黒「当時、取材中に「あんた、何者ですか」って言われました(一同笑)」
原「だけど小黒さんがおれを初めて「アニメージュ」に紹介してくれた。それは忘れないよ」
小黒「ぼくからするとリアルな『ドラえもん』でしたね」
原「スタッフとも結構ぶつかったですよ。『ドラえもん』じゃないじゃんみたいに言われたこともあったし。打ち合わせでベテランの原画マンが「原さんの絵コンテじゃぼくやりたくないです」って去って行こうとしたり。その人にとってはぼくの『ドラえもん』は邪道だったんですね。ただ藤子プロから苦情は来なかったですけどね」
『ドラえもん』と同じ藤子・F原作『エスパー魔美』(1987)では20代にしてチーフディレクターに就任。
原「『エスパー魔美』は魔法少女物っていうよりも、NHKの少年ドラマシリーズ。中高生が見るようなので、それに近いものを狙おうかなと。アニメの記号的な演出処理で驚いたら後ろの背景が流れたり寄ったり、そういうのは一切やらないと。アングルもカメラを据えて撮るというやり方。それも結構言われましたよ。『エスパー魔美』は原作としてもクオリティが高くて、シンエイも満を持して藤子原作の『ドラえもん』(1979)や『怪物くん』(1980)じゃないものをつくると。パイロットフィルムはおれの演出の師匠だと勝手に思ってる芝山努さんが絵コンテを描いたんですよ。演出助手で関わって、シンエイのチーフプロデューサーに「オンエアが決まったら絶対参加したいです」って言ってた。そしたらプロデューサーにお昼食べに行こうって言われて、食べながら「チーフディレクターをやってもらいたい」と。もう嬉しかったですよ、やったーって思って。でも作業が始まったら、上がった気持ちが地面にめり込むぐらい落ちた。周りからはダメ出しで。みんな『エスパー魔美』に強い思いがあった。もっと華やかにできないかと。派手なものが求められていたんだけど、ぼくは『エスパー魔美』にそういう印象を持ってなかったんですね。ドラマをちゃんと見せる作品じゃないかなと。何やってもダメって言われて否定されて、もうやめようかと。何とか踏みとどまって、2年7か月間(ロングラン)放送されました。
途中でどんどん数字が落ちてきて、裏で刺激の強い『ミスター味っ子』(1987)が始まって数字が取られちゃう。会社でもあちこちにテレビがあって、『魔美』が始まる時間になると制作とかの連中が「『味っ子』だ。『味っ子』の始まる時間だ!」(一同笑)。おれは仕事しながら「てめえ、何で『魔美』を見ないんだ」。みんな大騒ぎして「うお、カツ丼が光ったぜ!」(一同笑)」
原「この80年代になると、日本の映像作品は映画よりもテレビドラマだったんだよね。山田太一さんのドラマとか夢中になって見てたし、ああいう作品がつくりたい。日本映画のことを意識してなかったね。角川のジャンルムービーはあったけど、テレビドラマのほうが、ぼくにとっては。山田太一さんだと『想い出づくり』(1981)が大好きだったんだけど、あれはシンエイに入る前か。その裏番組が『北の国から』(1981)ですごい時代で、おれは迷いなく『想い出づくり』を見てたけどね。『ふぞろいの林檎たち』(1983)がシンエイに入ったころで、みんな夢中になって見てた。
山田太一さんは松竹で、ぼくが尊敬してる木下恵介監督の助監督をやって、山田さんはいっしょにテレビ界に来た。当時は電気紙芝居とか「テレビだろ」とか差別されてたけど、木下さんはどんどんドラマをつくって。山田さんも脚本を書いてドラマのレベルを上げた人で、そのうちに日本映画はダメになってテレビから見下される感じになっちゃったんだよね。だけど日本映画が滅びなかったのは良かったと思うよ(笑)。あきらめずに映画に入った人がいたわけだから。ぼくよりちょっと上の世代の人、相米(相米慎二)さんとか長谷川和彦とか、黒沢清さん、周防(周防正行)さんとか。あの人たちはどうしても映画をやりたいと。素晴らしいね」

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