【ダゲレオタイプと映画 (2)】
9月に、新井氏が『ダゲレオタイプの女』(2016)の主演のタハール・ラヒムと黒沢監督をダゲレオタイプで撮影した。
新井「ダゲレオタイプは古いんですけど、洗練されるといちばんいいとも言われておりまして」
黒沢「毛穴まで全部映されているようで。頭では写真だと判っていても、何かが向こうに行っちゃった、その分こっちは減ったような。そういう感覚はありますね。バルザックだったかが、そんなことを書いていたのを読みました。撮られると、存在の皮を1枚ずつ剥がされるような気がすると。魂を取られて、向こうが実体になっていく」
新井「前は最長20分撮ったこともあって、なんかいけないことをしているような、その人の人生を奪い取っているような。ぼくも同じだけ動かないようにして。罪の意識っていうか。
写真を撮るとき笑う瞬間もあるけど(ダゲレオタイプでは)それができない。その人の顔の構造まで戻ったところで映る。死んだ人の顔みたいで。でも鮮明でした」
ダゲレオタイプは、考案したルイ・ジャック・マンデ・ダゲール一代で終わり、時代から取り残された。
黒沢「びっくりしたのは、ダゲレオタイプは日本でそんなに有名でないと思うんですけど、フランス人もほとんど知らない。フランス人のくせに(一同笑)。聞いたことあるって人がときどきいるくらいで、フランスでも忘れられてる。ダゲールの家も残っていて、記念館みたいになってて行ったりしたんですけど、普通の人は知らないんですね」
新井「パリにはダゲール通りもありますね。アニエス・ヴァルダがポートレイト撮ったり。寿司屋で寿司ダゲールってのも(一同笑)」
黒沢「さすが、そこまで行かれたんですね」
新井「ダゲレオタイプという言葉が外から聞こえてくるとは思わなかったので(『ダゲレオタイプの女』で)興奮状態でした」
黒沢「ぼくは何となく知ってましたが、世界最古の写真と。映画好きな人は知ってるかと思ったら、関係者も知らない」
新井「写真の人もあまり知らない。みんな同時代のことを気にしてて、最初のことは知らない」
黒沢「映画ならリュミエールが気になる。最初はどうだったかなって。絵画や演劇は最初がどこか判らない。壁画とか? でも映画も写真も最初が判ってて、意識せざるを得ない」
新井「(写真の歴史)180年は意外と短い」
黒沢「何千年というほかと比べれば短いですね」
【映画と写真】
黒沢「(写真の)対象物はどういう基準で? バカみたいな質問ですけど。映画でしたら、文字の脚本があっての対象物で、こんな俳優、こんな場所はないかなと。ある根拠があってカメラを向ける物をさがすわけですが」
新井「写真はやりたい放題で、ぼくはどうかというと行き当たりばったり。ダゲレオタイプでスナップを撮ったり。自分でフレームワークを決めて、うっと思ったら撮る。『MOMENT』(フォト・ギャラリー・インターナショナル)に入ってるのは、福島の核の遺物。負の遺産。行ってみて考える感じです」
黒沢「デジカメは、とりあえず撮ってみる。でもダゲレオタイプは撮るのに手間がかかるので、撮るのに度胸がいるかな」
新井「タイムリミットがあって、準備してから1時間。それで車で行ったり。後でこれ撮ればよかったって出てきます。まさに度胸というか、あきらめの境地ですね。撮るとき、自分に自問しています。いっぱい撮れる写真でも、10枚撮ったら覚悟が10分割で、同じだと思うんですけど」
黒沢「フィルムで撮っていたころは、もったいなくてバカバカ撮れない。でもいまはデジタルでいくらでも撮れるけど、厭なんですね。テストを何回かやって、カメラを回すのは、理想は1回。シーンによっては2、3回だけど、多いのは1回でOK。ちょっと違うかなと2、3回カメラ回すと、結局1回目のを使う。もっといいのはないかなと確認のために撮ってます」
新井「1度撮った百合の花をもう1度撮ると、全然よくない。たくさん撮れても最初しかないかなと」
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最後にメッセージ。
黒沢「予告編だけ見ると、愛の映画だなという感じですか。それだけではなくて、いっぱい伏せてあります。かなりデラックスにいろいろありますので、お愉しみにしていただければ。これを機会にダゲレオタイプに限らず、古い丁寧に撮られた写真に興味を持たれる方が増えてくれれば、人間として少し豊かになれるかと思います」
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