私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

石井岳龍 × 長谷川和彦 トークショー レポート・『逆噴射家族』(3)

【映画のラスト】

長谷川「おれもきのう久しぶりに(『逆噴射家族』〈1984〉を)DVDで見たんだ。ラストはどうなるのか忘れてた。どうなるんだよと思って見てて、逃げじゃねえかとも思うな。だけど石井の描写力だな。家族たちをしっかり捉えてるから、自分の家族のような思いで見るんだよね。間違っても長谷川の映画みたいに親を殺したりするなよと。でもこの勢いじゃ殺すみたいなもんだよなと思ってると、あのラスト。おれは救われたな、きのう。そう思って見るようにつくられてるんだ。見ていて白けないもんな。それは石井の力だと思うよ。と、誉めました(一同笑)」

石井「自分でも甘いなと思ったんですけど、ぶっ壊して終わりというのはない。そういうふうに映画を撮ってないので、そこから先というのが見えないと。地球中が家だと。

 あの後で「漂流家族」っていう千石イエスの話を…。この『逆噴射家族』の家族は次にどこ行くんだっていうことで、血のつながりでない新しい共同体としての家族っていうのが生まれるんじゃないか。でも簡単には生まれなくて、そのひとつがイエスの方舟っていう事件」

長谷川「お前、家族いるのか」

石井「います。あの親父が私の親父でもある。子どももふたりいます」

長谷川「いくつだ?」

石井「ひとりが30越えて、もうひとりが28」

長谷川「うわあ(一同笑)。おれの頭の中にいる石井聰亙じゃないんだな。きょう20年ぶりに会ったけど、おれも昔と態度が変わんないんだよ」

石井「タイムスリップしたみたい。時間が経ったと思えないですよ」

長谷川「お前の子ども、そんなにでかいのか…。お前はいい親父なのか」

石井「いや、ダメでしょ(笑)」

長谷川「笑って「ダメでしょ」って言う奴は大抵いい親父だよ(一同笑)。成功の自信が顔に出てる」

石井「反省ばっかりですよ(笑)」

長谷川「おれはガキが成人に達したときに家出したからな。息子と娘にお前らは家出する年齢だって言っても家出しないから、それじゃおれが家出してやると(一同笑)。42、43かな。ディレカンの何年目だ?」

石井「末期か、終わってるぐらいかな」

長谷川「出てから新宿でマンションひと部屋借りてたけど、来たことあったよな」

石井「行ったことあったような…」

【その他の発言】

石井「あと、いっしょに『ブレードランナー』(1982)のオールナイトを新宿ミラノ座に見に行ったんですよ。時間つぶしに」

長谷川「覚えてねえ(一同笑)」

石井「鮮烈に覚えてますね。ゲームセンターか何かで時間をつぶして、所在なくて。ああ監督って孤独だなってしみじみ思った(笑)。その思いと映画の内容とがぴったりで」

長谷川「『ブレードランナー』を何でいっしょに見ようって言ったんだ?」

石井「なんか面白いんじゃないかなって(笑)。あとドイツのファスビンダーライナー・ヴェルナー・ファスビンダー)監督が死んじゃったって朝、新聞に出てて。「ファスビンダー死にましたね」って話をした記憶もありますね。36歳だったかな」

長谷川「おれよりひとつかふたつ若いよな」

 最後に総括とメッセージ。

 

石井「ディレクターズ・カンパニーで私と黒沢清監督をデビューさせるんだってことは、ゴジ(長谷川)さんずっと言ってましたからね」

長谷川「黒沢は『太陽を盗んだ男』(1979)で制作進行やってたからな。黒沢は現場ではよくやったよ。あいつの上に現場担当はいないから、何千万のキャッシュ持ってうろうろしてね。黒沢はだいたい見当ついたけど、石井は8ミリの兄ちゃんとしか思ってなかった。よく逃げずについてきたな。ありがとう(一同笑)」

石井「こちらこそ本当に(笑)。長谷川さんのおかげでつくれたので。

 最初は面白かったんですよ。自分が子どもだったので、面白さに負けてしまっていたと思いますね。だけどすごい映画を遺せたというか。チャレンジのないところに可能性は見えない。ディレクターズ・カンパニーは人材育成というところもあって、そのスピリットは自分なりに受け継ぎたいと思います」

長谷川「自分はほんとに進歩してないと思うよ。おれは自分の命が短いと思ったときに映画を撮るんだ。30歳でデビュー作撮ったのは、30で死ぬと思ってたからね。間に合わないと思って焦ってた。神代辰巳に言われたよ。「何焦ってんだ、おれなんか監督になったのは40越えてからだよ」って。そんな時間ないんだよって。被爆者だから死ぬと勝手に思ってたんだな。2本撮って、40になっても死なないからトカトントンで調子狂って。やっと最近、もう死ぬぞって実感があるんで、年寄りの人は判ると思うが足に来たり、頭がぼけてきたりな。まだいまなら映画撮れると思ってるんで、来年はクランク・インするよ。…と言いながら企画が絞れてないんだ。石井も力貸せな」

石井「はい(一同笑)」

長谷川「じじいのためにプロデュースしてくれてもいいんだぞ」