【監督たちの想い出 (2)】
鈴木清順監督と田中陽造脚本のコンビはテレビ『恐怖劇場アンバランス』(1969)の「木乃伊の恋」、映画『ツィゴイネルワイゼン』(1980)、『陽炎座』(1981)、『夢二』(1991)などを送り出した。
田中「「木乃伊の恋」ってぼくが生まれて初めて書いた脚本ですよ。29か30くらいですね」
黒沢「もっとお金をかけて撮ってればもっと素晴らしい作品になったのにって、考えませんでした?」
田中「そんな生意気なことは考えません(一同笑)。主人公が(脚本家の)大和屋(大和屋竺)さんで、顔が変だから役者として使っちゃった弱さっていうか、それはぬぐい切れない。やっぱり役者はプロを使わないと」
黒沢「大和屋さんは『殺しの烙印』(1967)にも出ていらっしゃいますね」
田中「ギャングならいい(笑)。
『ツィゴイネルワイゼン』はよかったですね。『陽炎座』の次くらいから…。『夢二』は、タブー(一同笑)」
- 作者:田中陽造
- 出版社/メーカー: 文遊社
- 発売日: 2017/04/28
- メディア: 単行本
黒沢「角川春樹さんに対して怒りをこめた文章を書いていらっしゃいますね」
田中「角川さんは偉い人だからね(一同笑)。多少喧嘩売っても相手にしないしね。罵倒して傷つくような相手じゃやばいでしょ。角川さん、天才だからね。ぼくが何を言っても、笑ってると思うよ。
ホン書いて渡して、見たらすごいなっていうのは武田(武田一成)演出。『青い獣 ひそかな愉しみ』(1978)は好きですね。一成さんは助監督歴が長くて、日活の中で偉いんですよ。相米なんかよりずっと偉い(一同笑)。監督になるときに、どれをやりたい?って言われてぼくのホンを選んだのがつき合いの始まり」
黒沢「最初のころは、この人才能ないって思われていたとか?」
田中「最後まで思ってますよ(一同笑)。はまると怖い」
榎戸「一成さんとの『おんなの細道 濡れた海峡』(1980)は大好きでした。田中陽造節も効いてるし。自分でもソフト買って持ってるくらいで。その『青い獣』はぜひ見たいですね」
黒沢「田中さんの言葉を借りると、才能がないって言われるような人がホン通りに撮るのがいちばんいいということでしょうか」
田中「そりゃそうです。ホンをいじる能力がない(一同笑)」
榎戸「陽造さんのでぼくが見た中では『魚影の群れ』(1983)はいちばん好きで、ホンを読んだときから泣いたし、相米さんもよく撮り切ったと思うんですが。『雪の断章』(1985)は相米節に直してるじゃないですか。『セーラー服と機関銃』(1981)はホンのまま撮ってましたけど、このあたりとか『光る女』(1987)になると演出家としてのしるしを遺したいというか。監督は、そのまま撮るのは何もしてない気になってしまうのかな」
黒沢「田中陽造は監督にとっては、ファム・ファタールみたいな存在だと思うんですよ。出会いがしらの作品は傑作になるんですが、やっていくうちに脚本の世界に引きずり込まれ怪作になって、そういう道筋をたどってしまう」
榎戸「『ツィゴイネルワイゼン』はホンの通りで、あまり鈴木さんもいろんなことはやってないんですよ。ホン通りにすんなり撮っているから面白かった。いろいろこねくり回し始めたら、田中さんのいいところがなくなってる感じがしますね。田中さんのホンはちょっと怖いです。監督にとっては、これ撮ってみろと突きつけられてる。挑発されても抑えられるかが監督の力量だったりするのかな。陽造さん、どうなの? 34人の監督の顔を思い出すと」
田中「34人、女郎になったようだな(一同笑)」
神代辰巳監督とは『やくざ観音・情女仁義』(1973)、奇作『地獄』(1979)などがあった。
田中「神代さんとは合わなかったですね」
黒沢「『やくざ観音・情女仁義』は傑作じゃないですか」
田中「映画としては失敗してますけど。試写で見てダメだなと思って、小屋で午前中に見て、午後にもう1回見ましたね。ずるずると引きずられる映画ですね。神代さんもぼくも失敗作だと思ってんだけど、映画の力が強いですね」
黒沢「それが『地獄』につながったと」
田中「『地獄』は大失敗ですね(一同笑)」
黒沢「『地獄』の初稿は『やくざ観音』と構造がいっしょですよね」
田中「きょうは、昔の話はしないって約束じゃない?(一同笑)」
榎戸「『地獄』は歌舞伎の「桜姫東文章」を取り入れたんだって、陽造さん前におっしゃってたことがあって。ただ神代さんがいじっちゃうと」
田中「教養ないんだよ(一同笑)。「桜姫東文章」は頽廃の極みみたいな作品なんですけど、その話を神代さんにしてやろうよって言ってやったら、全然。玉三郎(坂東玉三郎)に恥ずかしくて、おわびしなきゃ(一同笑)」
黒沢「でもすごい熱量を持った作品ですよね」
田中「きみは荒井(荒井晴彦)の弟子なのに、おれのファンなのか?(一同笑)」