『友だちのうちはどこ?』(1987)や『そして人生はつづく』(1992)などで知られ、今年7月に逝去したアッバス・キアロスタミ監督。1990年代から2000年代初頭にかけてイラン映画が日本でも次々と紹介され、そのさきがけとなったのがキアロスタミ作品であった。
お盆明けに渋谷で追悼特集が行われており、『クローズ・アップ』(1990)の上映とトークショーがあった。
『クローズ・アップ』は、実際にあったイランの有名監督モフセン・マフマルバフのなりすまし事件に材を取った異色作。マフマルバフになりすました容疑者など事件の当事者たちを俳優に使って、経緯を再現しており、そこに裁判の映像も差し挟まれる。ドラマ部分と隠し撮りを繋げているのかと思ったら、本物かと思った映像も実はつくったものなのだとか…。
トークには映画評論家のおすぎ、スクリプターの野上照代、翻訳家のショーレ・ゴルパリアンの各氏が登場。
黒澤明監督の側近として知られる野上氏はキアロスタミ監督の追悼文を読売新聞に寄稿していたが、おすぎ氏とキアロスタミ監督とに親交があったとは知らなかった。
ゴルパリアン氏は、イラン映画がブームだった時期には通訳や翻訳として活躍し、メディアにも登場していた。今回のトークでは、日本語の巧みさに驚嘆させられた(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。
まずはおすぎ氏が、「こんばんは、おすぎです」と登場。
野上「みなさんごらんになった『クローズ・アップ』。私が見た最初の(キアロスタミの)作品です。香港の映画祭で見て、言葉も判らなかったけどショックで。山形でも見て、すごい映画だと。ユーロ(ユーロスペース)でも上映してたんでしょ。
マフマルバフは日本で言えば黒澤さん。イランって素晴らしいね。偽者が出るほど、映画監督を尊敬してる(笑)。日本ではできないですね。映画に対する愛情がない」
おすぎ「『友だち』を見て、初々しいじゃない?って。会ってみたらおじさんだったけど(笑)」
ショーレ「日本でのアシスタントをやっていて、もう23年。想い出があって、ちょっと喋ると泣き出してしまいそう」
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【キアロスタミ監督の人物像 (1)】
ショーレ「『友だち』『そして』はユーロで公開されて、字幕を手伝ったんですけど、通訳もしてくださいと。渋谷のホテルに泊まっていて。イランで見ていて知ってましたけど、本人に会うのは初めて。挨拶したとき“××の妹でしょ”って。はいそうですって言ったら“目が似てるね”と。でも私と兄の目は全然似てない(笑)。緊張を和らげるためだったのかな」
おすぎ「すごく気を遣う人だったわね。私も好きだったよ、愉しい人だもん。ときどき××の話も。イランでできなかったのかな。日本にいるとき嬉しそうで、そういう感じでつき合わせてもらいましたね」
野上「カンヌ(映画祭)で受賞したとき、背広がなくて。イランは背広着ないからさ。車で長い時間、後ろを振り向きっぱなしで背広を調達する話してた」
ショーレ「ロッセリーニ賞ですね。カンヌは背広着てないと入れない。監督ですって言ってもダメ。日曜日だから店はみんな休みで、中に人が見えたらトントン叩いて。派手な背広しかなくて、仕方なくいちばん地味なのを買って、それでも真っ赤(一同笑)。お金払って、終わった後に戻して、お金を返してもらいました」
おすぎ「あ、借りてたのね(一同笑)」
野上「話が毎回ちょっと違うね」
おすぎ「彼はそういう人。おもしろくしようとする」
野上「通訳がうまくて、いないみたいに話して、いつもいつも(笑)」
おすぎ「キアちゃんはいつも笑ってたよね」
野上「撮影のときじゃないからさ」
ショーレ「おすぎさんからもらった鞄、(派手で)はずかしいからスーツケースに入れて帰りましたね」
おすぎ「そういうところもやっぱしかわいい。っていうか厭な想い出ないよね、キアちゃんについては。監督の中には厭なやつもいるじゃない?」
野上「映画撮るときはけっこう大変だったようですよ」
おすぎ「現場はどこでも大変ですね。一心不乱というか」
ショーレ「日本ではハッピーですごく喋っていて、みんな家族みたいだって。他の国にいたときと違いましたね」
野上「日本では旭日章もらって、5000万円。その割りに高いところじゃなかった」
ショーレ「ロイヤルホストのカレー食べましたね。けちだから(一同笑)」
おすぎ「イタリア料理では喜んでたね」
野上「いつもファミレスだったよね」
ショーレ「イランでごはんにいらっしゃいって言われて行ったら、自分のとこだけごはんをセットして、私には紅茶だけ。それで“食べないね”って(一同笑)」
おすぎ「何が言いたいの。そんな話、みんな聞きたくない(一同笑)」
野上「普通けちですよ。監督はお金ないもん。みんな貧乏ですよ」
おすぎ「お金あったら映画につぎこむよね」(つづく)
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