【キアロスタミ監督の人物像 (2)】
ショーレ「キアロスタミさんは検閲に引っかからないのを撮っていて、政治的な苦労はなかったと思います。そういう題材を選んでない」
野上「パナヒ(ジャファール・パナヒ)なんかに比べると、よその国でも仕事ができて。イタリーにもフランスにも、あちこちに彼女がいて」
おすぎ「そういうこと言わない(一同笑)」
ショーレ「イランの人で初めて(世界に)出て、他の監督が外へ出る道筋をつくりましたね。映画の父として尊敬されてました。素人を使って少ない予算でもつくれると示してもくれましたね」
野上「感心したのは、いろんな若い人がビデオ見てくれって持ってくると、帰ってそれを見る」
ショーレ「映画(と映画)の間は、ワークショップをやって、あとはイラン中を旅して写真を撮って展覧会をやって」
おすぎ「写真、もらったことあるよ」
ショーレ「写真が上手で、詩も書いてました。美術の大学を出たけど絵は下手って言ってて。監督はインスタグラムで、モネの絵の上でコラージュをやったりしたいって。最後はモネにまで手を伸ばしていたんですね」
2004年に来日したときは、毎回レッドカーペットがあって、ハイヤーの運転手にもサービスされた。
ショーレ「これに慣れてしまって、他の国で誰もこうしないとき、自分が不満を持つのが怖いって。何て謙虚な…。偉大な監督ってもっと威張っていいのに。
日本で撮った『ライク・サムワン・イン・ラブ』(2012)が最後で、中国で1本撮ろうとしていて、病気になって手術して亡くなりました」
ショーレ「脚本なしで現場へ行って、キアロスタミさんはアウトラインのストーリーをいろんな人に話して、その反応によって膨らませていく」
野上「『クローズ・アップ』(1990)は盗み撮りみたいだけど、全部再現で。次の映画を撮るときにこのニュースが入って、やりかけのをばらしてこれをやろうと。
しつこいまでに再現する。ニュース撮ってるみたいで、おしまいの花買って行くところで音が途切れるのもわざとつくってるんだから。全部つくりもの。車を撮るのもうまいよね」
おすぎ「やりたかったことっていうのがスクリーン見てると判るじゃない? すごく明快な人よね、キアロスタミさんは。
『友だちのうちはどこ?』(1987)を見てると、すごく自然だよね」
野上「意地悪だけどね。ほんとにノートを隠したり」
ショーレ「『友だち』のふたりはお葬式に来てましたね。もう40くらい」
野上「しつこさ、隅々までつくるっていうのは黒澤さんもそうですよ。自然に見えるけど、全部つくってる。自分の意思通りにならないと、気に入らない。
『桜桃の味』(1997)ではプロ(の俳優)を使いましたね。キアちゃんは、素人かほんとにうまい玄人を使うって言ってましたよ」
ショーレ「『オリーブの林をぬけて』(1994)のときは、車の中にいた建築家に“キアロスタミです。映画に出ませんか”って車の窓を叩いて」
野上「信号で停まってたときに」
ショーレ「彼はその後、俳優になりました。魔法使いみたいでしたね。現地で人を見つけて、“出ない?”って」
野上「イランにはそういう素地があるよね」
おすぎ「キャラもあるんじゃない?」
ショーレ「キアロスタミさんはマエストロですけど、イランは映画が好きで、ロケの現場でもよく貸してくれたり、道を止めるのにも喜んで協力してくれたり。キアロスタミさんは日本で撮るのは苦労したんですよ」
野上「まあイランは特別ですよ。マフマルバフがあんなに偉いんだから(笑)」
おすぎ「亡くなったと聞いて思ったのは、人間の細かい感情をすっと描いちゃう監督はもう出てこないなって」
野上「キアちゃんは自然じゃないものは受け入れないから、素人を使う。俳優も素人っぽくなればいいけど。素人をあんなにうまく使うのはキアちゃんくらい。イランは映画を尊敬しているから、それができる」
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ショーレ「『シーリーン』(2008)では、たくさんの(プロの)女優さんが出ていて。いろんな人が使ってくださいって言ってくるんで、一気に使った。女優さんはみんな1分だけで、お年寄りから若い人まで」
映画が上映中という設定で、それを見ている女性たちの感動している顔を次々映す。そのメイキングを見ると、女優の前には映画などなく、キアロスタミ監督たちと紙があるだけだったという…。
ショーレ「あとで“あの女優さん、下手だね”って言ってました(笑)」
野上「いつもそばにいる女が違ってたね」
おすぎ「そんな感覚なかったよ」
野上「彼も女が好きだけど、女も彼が好きだよね」(つづく)
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