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私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

加藤武 × 野上照代 トークショー レポート・『蜘蛛巣城』『天国と地獄』(1)

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 巨匠・黒澤明監督の作品の常連俳優と言えば三船敏郎仲代達矢志村喬など多数いるが、加藤武もそのひとりで『蜘蛛巣城』(1957)や『隠し砦の三悪人』(1958)、『用心棒』(1961)、『乱』(1985)などに出演している。

 加藤武氏と言えば、石坂浩二主演 × 市川崑監督の金田一耕助シリーズのレギュラーで、「よし、わかった!」と早合点を繰りかえす警部役の印象が強く、『犬神家の一族』(1976)や『悪魔の手毬唄』(1977)のギラギラした演じぶりは愉しい。他に『豚と軍艦』(1961)や『仁義なき戦い 代理戦争』(1973)などの名作映画での仕事もあり、あまり知られていないが藤子・F・不二雄原作を実写ドラマ化した『キテレツ』(2001)ではCGキャラと共演するなど、数多の素晴らしい功績がある。

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 6月、池袋にて加藤武氏と野上照代氏のトークショーがあった。

 野上氏は、『生きる』(1951)以降の黒澤監督作品にスクリプターとして参加。『天気待ち 監督・黒澤明とともに』(文春文庫)やその増補版『もう一度 天気待ち』(草思社)などの優れた著作もある。6月に『黒澤明 樹海の迷宮』(小学館)が発売。

 野上氏は黒澤明Tシャツを着られて登場、加藤氏は「どうぞよろしくお願いします!」と元気に現れた(以下の発言はメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。

もう一度 天気待ち

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【黒澤監督との出会い】

野上「なつかしいな、加藤さん。加藤さんと話してると愉しいから。あなた、黒澤さんの作品にダーッと(たくさん)出てる。『蜘蛛巣城』では何秒かで斬られる逆賊ですね」

加藤黒澤明の作品に出るって、役者としては大変なことですよ。『蜘蛛巣城』では3人の番兵がいて、殿様を守ってる。最後に三船さんにブスッて。逆賊なんてひどいこと言われて」

野上「私、その役に加藤さんを推薦したんです」

加藤「推薦じゃないですよ! 通行人でも出たいから、撮影所でオーディションを受けた。黒澤監督に会えるってだけで、胸ときめかせて。黒澤さんはにこやかで、みんなに兜をかぶせて。かぶった途端に、黒澤さんがぎゅっとすごい目つきになって全身を見る」

野上「私は、加藤さんは落語もできる人ですって話して。黒澤監督は“しゃれた芝居をする”ってあなたを誉めて。『蜘蛛巣城』では転げ落ちるだけなのにどこがしゃれてるのって(一同笑)」 

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 つづいて『どん底』(1957)にもわずかに出演しているが、クレジットにない。

 

加藤「『どん底』では最後に出るお役人なんだけど、タイトルに名前がない!(一同笑) いま文句を言っても仕方がない。

 三船さん、山田五十鈴さんとかオールスターキャストの最後に出てくるのがおれなんだけど。当時、東横劇場で芝居をやってて、文学座との合同公演。染五郎、いまの松本幸四郎も出てた。その芝居とかち合ってて、間に合うわけがない。舞台って、小さな役でもひとり欠けるとダメなんです。周りは“すぐ済みますから”っておれを押さえる。でも撮影から敵前逃亡して、舞台にはタッチの差で間に合った」

野上「現場で監督は、“加藤はどうした!”って」

加藤「監督は舞台のことを知らなかったから、怒った。私のために、10分以上の長いシーンを撮り直すことになりました」

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【『悪い奴ほどよく眠る』『用心棒』(1)】

 黒澤監督の黒澤プロ設立後第1作『悪い奴ほどよく眠る』(1960)では、大役に抜擢された。

 

野上「加藤さんは、『どん底』ではラストでちらっとですけど、『蜘蛛巣城』の後は全部出てる」

加藤「演技じゃなくて“大儀”だね。『悪い奴ほどよく眠る』では、とてもいい役。でも撮影では、1日怒られっ放し。朝、うち出るのが厭になるくらい。修養道場へ行くみたいでしたね。“らくに動け”っていうんだけど、らくって何?(一同笑)。

 車のディーラー役で、いまは違うけど当時はしゃれた役。一介の研究生がいい役に抜擢されて、役と実生活の落差がありました。いつもコッペパンやうどんを食べてるのに(笑)。

 藤原釜足さんを誘拐監禁していて、ぼくは階段を上がって行ってドアを開けてチャーハンを与える。そこで監督が“緊張してる、もっと軽やかに階段を上がれ”って。最初は3段くらい上がってノック、それじゃダメ。もう少し後ろから階段を上がれって言われて、またダメ。次に外から上がれって。何度も上がってドアを開けると、ダメって言われて。30回まで数えてたけど、それ以降は意識が朦朧(笑)。三船敏郎さんは、ぼくの芝居が済んでから出てくるから、ずっと待ってるんです。おれはもう泣きそう。“リラックス!”って言われるけど、できるわけない。三十何回目、三船さんが冷たい水をそっと渡してくれて。飲んだら気持ちが落ち着いて、スーッとうまくいった。ぼくは三船さんに足向けて寝られない。こういうとき普通なら、先輩は厭な顔するよ。そういうことは何も言わない。あの思いやり、いまだに身に沁みてますね…」

野上「三船さんは初めからスターで、下積み時代がない。だからこそ、すごく気を使う人なのよ」(つづく)

 

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