【『A2』と森監督 (2)】
田原「『A2』(2002)のころ、信者たちは何をしようとしていたんですか? 住民からこんなに出て行けと言われて」
森「もちろん信仰活動をしていたんです」
田原「麻原(麻原彰晃)さんは有罪なのに」
森「尊師がどれだけ裁かれようと、彼らは信仰をつづけていると。またサリン撒こうとか、麻原を奪還しようとかは全く感じませんでした。ロシアの信者にはそういう動きがあったらしいけど」
松本「森さんのことは、カメラがいるって思いました」
安岡「麗華ちゃんは、『A』(1998)ではカメラをふさぎましたね」
森「彼らには猜疑心がない。宗教家だからかな。メディアに何度もだまされてるのに」
松本「何回だまされても受け入れてましたね」
- 出版社/メーカー: マクザム
- 発売日: 2003/07/25
- メディア: DVD
- 購入: 5人 クリック: 54回
- この商品を含むブログ (100件) を見る
森氏は、『A2』から約10年を経て、ノンフィクション『A3』(集英社文庫)を上梓した。
森「『A3』は、オウムが何故撒いたか取材して書きました。麻原の目が見えてないのも、重要な要素です。裁判はカメラを持ち込めないので行かなかったんですが、麻原の最終公判で初めて傍聴して、麻原を見た瞬間にこれはダメだと。彼は正常な意識を持ってない。同じ動作を反復していて、おむつをして、それを乾かして。でもマスコミはそれを書かないで、まだ反省の色がないとか。まず麻原にびっくりして、マスコミにもびっくりした」
田原「麻原は超能力者で、最後の超能力で自分を壊したんじゃないかな」
森「田原さんは超能力信じてるの!?(一同笑)」
田原「事件の前にオウム道場へ行って、麻原と1対1で話して、空中浮遊やってみろって言ったら、こんなところでできるかって。場所を選ぶ超能力があるかって言ったら(麻原は)困っちゃった。坂本弁護士の遺体はどこにあるって言ったら、また困って、それを話したらおれたちが犯人だと決めつけるんじゃないかって。ぼくは、もしかしたら彼は坂本弁護士の遺体の場所を知らなかったんじゃないかなと。知らないって言うのははずかしいから」
森「そういうエピソードはありますね。失敗して隠そうとするところがお茶目だとか」
田原「『A3』を映像化する気はないんですか?」
安岡「『A2』が膨らんで、最初は2時間40分くらいでした。いま描かれてる対立と融和から、孤立というふうに変わってしまって」
森「あの後、千歳烏山に行くけどいろんなことがあって、それを『A3』にしようかとも思ったけど、『A2』があまり動員できなくてがっくり…」
安岡「荒木さんにも変化が見えて、疲れというか。広報担当ですごい量の取材を捌いて。それで組織は解体していく。自分の居場所を見失っているなって。荒木浩ひとりだけでなく、信者たちに同じような心象があった。民家に入っても監視されて、若い信者が孤立してく」
田原「“A4”は出る?」
森「4は、いまのアレフやひかりの輪を取材しても意味がない。サリン事件の前の不安が、事件を通じて日本社会に撹拌されてしまった。いろんな場面であぶない、怖いって。セキュリティ過剰情況はオウムによって始まった」
田原「日本もあぶなくなっていると」
森「過剰反応が強い。北朝鮮のミサイルでも、何でこんなに大騒ぎしているのか」
田原「安倍晋三のせい?」
森「安倍晋三個人よりも、みながそれを求めてる」
田原「アメリカで言えばトランプ(ドナルド・トランプ)みたいな」
森「強いリーダーを求めている」
- 作者: 森達也
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2014/11/07
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る
【松本麗華氏 (1)】
松本「厳密に言えば、いまでも(サリン事件を)理解してない。直接には知らないので。3月20日の遅い時間に噂を聞きました」
田原「新聞では、お父さんが首謀者だと」
松本「そうは全く思わなかったですね。よく母と父は喧嘩してました。母が圧倒的に強い」
田原「尻に敷かれてた。そんな人がどうしてカリスマ性を持ったのかな?」
森「どういう答えを期待しているんですか(一同笑)。でもムハンマドも恐妻家。尻に敷かれていたから大きなことができないわけじゃない」
田原「でも誰が(サリン散布を)言い出したんだろう」
松本「サリンという存在を父が知ってたとは思えない。父の自発的な発想で、サリンを知るということはない。目が見えないですので」
森「事件には謎がある。麻原は当時マスコミに頻繁に出ていて、サリンをまく理由がない。捜査の手が迫っていたからと言ってるけど、それは井上嘉浩の証言だけ。証言にマスコミが飛びついた」
田原「松本サリン事件の後で、本来ならオウムを狙っていいのに、警察は何もしなかった」
森「共同通信の○○さんは、警察はオウムをなめていたという言い方をしています」
田原「地下鉄サリン事件のときは、どんな気持ちでした?」
松本「いろんなことが起こりすぎて、よく判らなかったです。当時11歳。父の逮捕はショックだったですけど、信じられない、現実を受けとめられない気持ちでいっぱい。現実感がなかった」
田原「サリン事件をオウムがやったとは判ってたわけ?」
森「どうして撒いたかはつかめてない」
松本「判らないですね」
森「麗華ちゃんもそうだろ。ぼくらも判ってるつもりになってるだけで。当時は謀略だって言ってる信者もいたけど、さすがにいまはいないでしょうね」(つづく)
止まった時計 麻原彰晃の三女・アーチャリーの手記 (講談社+α文庫)
- 作者: 松本麗華
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2018/05/18
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る