日本列島が震撼した地下鉄サリン事件(オウム真理教事件)から、もうすぐ21年。
2月、オウムを追ったドキュメンタリー映画『A2』(2002)のリバイバル上映と森逹也監督、ジャーナリストの田原総一朗氏のトークショーが高円寺で行われた。当日、元教祖・麻原彰晃(松本智津夫)死刑囚の三女の松本麗華氏、安岡卓治プロデューサーも飛び入り参加。
森逹也監督は、オウムを扱った映画『A』(1998)、『A2』のほか、ノンフィクション『放送禁止歌』(知恵の森文庫)、『職業欄はエスパー』(角川文庫)、『世界はもっと豊かだし、人はもっと優しい』(ちくま文庫)といった執筆活動も多い(筆者は学生時代によく読んでいたのでなつかしい)。
安岡卓治氏は、伝説的な映画『追悼のざわめき』(1988)や『パレスチナ1948・NAKBA』(2008)の製作、『遺言 原発さえなければ』(2014)の編集など多彩な作品歴がある。
松本麗華氏は、実名でメディアに登場することが近年増えており、昨2015年に著書『止まった時計』(講談社)を刊行。ニコニコ生放送では田原総一朗氏と対談した。『A2』の画面に出てきた松本氏がトークに登場したので、かなり驚いた。
田原氏は、『朝まで生テレビ』の強面ぶりの印象が強いが、今回は穏やかな口調が目立った(そして意外と小柄だった)。
【『A2』と森監督 (1)】
(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)
田原「よくあんなにしつこく撮ったな(一同笑)。何か所行ったんですか」
森「15、6か所かな」
田原「行って拒絶されなかったですか」
森「温度差はあっても拒絶はされなかったですね」
田原「スタッフ間で揉めたって聞きましたけど」
安岡「森さんは、『A』の後で(オウムは)撮らないと宣言した。見た人はご存じでしょうけど、『A』の終盤で森さんが荒木(荒木浩)さんに“20〜30年後、どうしますか”って訊いてて。これだと20〜30年、森さんはやらなきゃいけないんじゃないかなって」
森「『A』は動員はさほどじゃなかったけど、映画祭に呼ばれたりして評価された。でもそれはフロックで、ぼくの力量じゃなくて、みんながやらないことをやったから。次につくったら、底の浅さがばれてしまう」
田原「でも言われて、やる気になった?」
森「『A2』の足立区のシーン、あれが最初で、取材してたらむらむらと…」
田原「むらむら?(笑)」
森「住民もマスコミもいっぱい来てて、あれ見たら撮りますよね。すると形にしたいなって。いや、現場に行った段階で、撮ろうと思っていたのかな」
今回の完全版と公開版の違いは、松本麗華氏の出演シーンの有無である(公開版ではカットされている)。
安岡「山形国際ドキュメンタリー映画祭でこのバージョンを公開して、BOX東中野もやる気まんまん。麗華ちゃんは見た? 当時17、8歳かな」
松本「まだ17歳でした」
安岡「麗華ちゃんだけでなく、弁護士さんも挟んでけっこう揉めた」
森「進学に差し障ると強硬に言われて。その後、和光大学とかから彼女は入学拒否される。(弁護士の言うことは)正しかったと思うけど、だったら(映画に)出てても出てなくてもいっしょだろ(一同笑)」
田原「麗華ちゃんは(『A2』を)どう思った?」
松本「面白くないなって(一同笑)。私にとっては日常で、ホームビデオの面白くないものみたいな、すみません」
森「オウムの信者はみなそう言います」
『A2』では、住民の反対運動に遭遇するシーンが多い。そんな一触即発のような場面でも酔っぱらい?のじいさんが近づいてくるなど、笑ってしまう箇所もある。
森「ギャグは意識的に入れていて、笑いって大事。映画でも演劇でも」
田原「取材して何を感じたんですか? 地元の人も、出てけ出てけと」
森「藤岡の施設の周りで(オウムに)親和性を示す住民と反感を持つ住民がいました。反感を持つ人は近づかない。親和性があった人はアウトロー。退職した人とか元やくざとか。最初は過激に詰め寄るけど、後で相手も普通だと気がつく。右翼もそうですね」
右翼がオウムと話させろとやって来るが、警察は中へ入れない(警官は内心で動揺しているらしく、しきりに瞬きしている)。
森「オウムには天皇暗殺計画があったらしい。ほんとか嘘か判らないけど。でも話を聞こうとしたグループがいて」
田原「(映画の中で右翼は)話を聞きたいと言うけど、警察は中に入れさせない」
森「上祐(上祐史浩)は(右翼に)会うと言ってるけど警察は会わせないから、彼らも激昂する。でも何かあったら警察の責任だから」
安岡「右翼のリーダーのひとりが、森さんの「週刊朝日」の記事を読んでて」
森「藤岡のロケがあった後で、親和性を示す住民がいたって話を書きました。何で右翼が「週刊朝日」を読むのか判らないけど(一同笑)。あの右翼はいろんな組織のリーダーが集まってるグループでした」
田原「もっと静かに来りゃ入れたのに(笑)」
森「右翼が上祐さんと電話で話すシーンもあったけど、外しました。右翼で話した人の半分は、電話切るとき“がんばってください”って言ってた。
映画の後で右翼から電話があって、ひとり逮捕されたって。日韓のワールドカップのときにロシアのサッカーチームが来てるんで、北方領土を返せって言って、執行猶予中だったんでパクられた。何でそんなことを?って言ったら、こっちにも立場があるんだって(一同笑)」(つづく)
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