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山田洋次 トークショー レポート・『二階の他人』(1)

 映画『男はつらいよ』シリーズ(1969~1995)などで知られる山田洋次監督は、日本の映画監督としては最も知名度が高いひとりであろう。昨2012年には文化勲章受章。現在は新作『小さいおうち』(2014)の公開直前である。

 12月から東京国立近代美術館フィルムセンターにて回顧上映 “映画監督 山田洋次” が開催され、54本の作品が上映される。12月3日にはデビュー作『二階の他人』(1961)の上映に合わせて山田監督のトークショーが行われた。『二階の他人』はSP(シスターピクチャー)という形式(2本立ての1本)で制作された中篇映画。

 借金をして家を建てた若い夫婦(小坂一也、葵京子)が二階を人に貸すが、最初の下宿人(平尾昌晃、関千恵子)はいっこうに部屋代を払おうとしない。彼らを追い出して今度は羽振りの良さそうな下宿人(永井秀明、瞳麗子)を迎える。

 『二階の他人』は、処女作とは思えないつくりが巧みで老成している。後半のクリスマスパーティーのシーンでの、

「私ってばかみたい」

「人間はみんなばかだ」

という台詞のやりとりには達観が感じられる(原作にあったものか映画オリジナルかは不明だが)。

 上映後に壇上に現れた山田洋次監督はしっかりとした足取りと高い声が年齢を感じさせない(メモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや、整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。

 

山田「50年前のささやかな映画に大勢の方が見に来てくださって、びっくりしています。想い出はいっぱいありますね、うーん…。

 SPは新人俳優の力量を試すもので、それを(他の作品の)併映として上映していて、そうやって(映画づくりを)勉強できたんですからいい時代でした。SPでいちばん有名なのは大島渚くんの(デビュー作の)『愛と希望の街』(1959)ですね」 

【『二階の他人』制作の経緯】

山田「ぼくの師匠の野村芳太郎さんが「いい推理小説があるよ。これをひねると喜劇になるぜ。ぼくが脚本を書くよ」って言ってくれて」

 

 原作(多岐川恭)は推理小説。脚本は山田監督と師匠格の野村芳太郎監督の連名になっている。

 

山田「いろいろな制約があって。予算はこれくらいでって言われて、だから地方の長期ロケはダメですね。制作(期間)も1か月くらいかな。フィルムの使用量の制限もあって(この映画は)全部で6000フィートで(撮影に)1万フィートくらい使ったかな。フィルムを制限すると費用が安くなると映画会社は思ってた。撮ってて、カットをかけた後も少し写したりするし、NGもあるし、ケチケチしながら撮りましたね。

 (映画の舞台になった住宅地は)上大岡っていう、いまは立派になってますけど、このころはまだ宅地造成中です。この時代、東京郊外はああでしたね。(外観は)実際にあった家のロケーション、室内はセットですね」

 

 『二階の他人』のスタッフはみなベテランであったという。

  

山田「同世代のスタッフとやりたいんだけど、会社は許さない。新人監督に新人キャメラマンではあぶなっかしい。それでキャメラも技術もベテランの人で、助監督ですらぼくの先輩です。みんなm洋ちゃん洋ちゃんって言うんで「洋ちゃん、こうしなさいよ」って(笑)。(撮影現場で)ふと気づくと、みんながぼくの顔を見てる。するとキャメラマンが助けてくれて、ああ、こうすればいいかって。

 みんなの言うことを聞いて撮ったんだけど、20年くらい前にビデオになったときに見てみたら、画面のどこかにぼくがいる感じがあって、それが強烈でしたね」

 

 俳優陣は後年の山田作品とは異なる面々。

 

山田「小坂(小坂一也)くんはすでにロカビリーのスターだったけど、新妻の葵京子さんは新人で、京都で(見かけて)かわいいなって印象に残ってたんで、思い切って(ヒロイン役は)葵さんでって言いました。

 俳優の指導が監督としてはいちばんしんどい。助監督をしていたときには、監督を批評したり悪口言ったりしてたんだけど(監督になって)撮影が近づくと夜も眠れないくらいドキドキしたもんですね」

 

【『二階の他人』と自らの個性 (1)】

山田「俳優の芝居を見ていると、それは違うんじゃないか、もっと違う動きはないか。それでだんだんぼくの納得できる形になっていった。ああしろ、こうしろと言ったことはない。そうじゃない、こうでもないと言ってるうちにぼくの映画になっていく。

 どこが自分かってうまく言えない。何となくスクリーンの後ろに(自分の)姿が写っているというか。俳優の仕草やキャメラアングル、それぞれにぼくの思いが出てる。あそこがおれだ、みたいなのじゃなくて、何となく味がするんですね」(つづく

 

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二階の他人

二階の他人

  • 小坂一也
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