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山田洋次監督 トークショー レポート・『二階の他人』(2)

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【『二階の他人』と自らの個性 (2)】

 『二階の他人』(1961)の導入部は、雨降りの夕どき、妻(葵京子)が傘を持って最寄り駅に夫(小坂一也)を迎えに来るシーンで始まる。ここには、山田洋次監督自身の記憶が投影されているという。

 

山田「映画の出だしをどうするか。ファーストカットは、いちばん大事な問題ですね。どんなふうに始まってどう終わるか。こんな始まり方の映画をつくりたい、こんなラストの映画をつくりたいと思うことすらある。

 (舞台となった)あのへんは造成中で(雨が降ると)道がどろどろで長靴じゃないと歩けない。(当時は)傘も簡単に手に入らないから、長靴と傘を持って行ってあげなきゃいけない。あそこ(導入部)で、あとあと出てくる部長(須賀不二男)も出せて、紹介できる。

 ぼくが少年時代を過ごしたのは戦前ですが、おやじは残業もないし、電話もないから、だいたいの(帰る)時刻を奥さんが判ってる。5時半ごろ、ぼくはおふくろに命じられて郊外の駅へおやじを迎えに行く。同じように友達も(自分の父親を)迎えに来ていて、みんなで待っていると、親父が難しい顔で帰って来る」 

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 原作小説では主人公が置き引きの被害にあって借金しなければならなくなるのだが、映画では家を増築するための借金という設定に改変されている。また、母親(高橋とよ)の面倒を兄弟(小坂、野々浩介、穂積隆信)の誰が見るかで揉める件りは、原作にはないらしい。

 

山田「実際に家族の中でいろいろあったし、地方から出てきて東京で生活するとなると親をどうするか、そういう問題がこれから始まるなという思いがありましたね。あの小坂くんの世代には、いまは孫がいますね」 

 

 現在の山田監督は松竹の本流のように捉えられているけれども、若き日には小津安二郎などには関心がなかったという。

 

山田 「松竹大船(撮影所)は小さい世界を描くのが得意だった。ぼくはスタートからして、ああいう小さな狭い世界を描いている。よくも悪くも松竹大船で育ってきたんだなあと思いますね。

 このころは大船調くそくらえと思ってました。小津安二郎は認めない、既成の観念は認めないと思ってた時代です。でも振り返ってみると、大船調の作品をつくってきましたね」 

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【映画と時代】

山田「映画は、その向こうに時代が映ってしまう。

 『家族』は1970年ですけど、(『家族』を撮るにあたって)キャメラの高羽哲夫さんと“ぼくたちは俳優の芝居を写す。でも手持ちキャメラで写していけば、いろいろな日本の現実も写るだろう。写るってことを信頼して、写そうとしないようにしよう”って話をしました。

 寅さんシリーズでも、時代劇で江戸時代の物語でも、(映画を製作した)2001年とか2005年とかが画面のどこかに漂っているんじゃないかな。

 ぼくは50年も映画をつくってきていまもつくっていられるのは、たまたま健康だったからですけど、(自分の映画の)画面のどこかに時代がちらちら写ってるからじゃないかなとも思います」

 

 山田監督は『二階の他人』から一貫して松竹大船で映画を撮り、2000年に大船が閉鎖されると松竹京都や東宝撮影所に拠点を移した。撮影所が少なくなり、現場の衰弱を感じると発言したこともある。

 

山田「かつては撮影所の時代があったんですけど、いま撮影所はなくなって、ぼくは最後の世代ですね。

 キャメラの高羽(高羽哲夫)さんとかは、若いときからずっといっしょでね。(組みたいと言っても)会社がなかなかうんと言わなくて、いっしょにできたのは3作目から。素材とスタッフとキャストが揃えば、その映画は8割できたようなものですね」 

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【新作『小さいおうち』】

 『二階の他人』の冒頭のタイトルバックは、主人公の小坂一也が趣味でつくっているレゴブロックの家である。レゴの家は劇中にも登場する。

 

山田「小坂くんが“何だこんな家”ってレゴの家を壊すシーンがありますけど、『小さいおうち』(2014)はあのレゴみたいな家が舞台です。小坂くんの家は野暮ったいけど、彼らは赤い三角屋根の(瀟洒な)家が夢だった。(『小さいおうち』は)この家を具現化できた人のお話です。1940年代にはモダンな家がたくさんあったんですね」

 

 山田監督は驚くべき多作家で、デビューから『おとうと』(2010)まで作品の間隔が2年以上開いたことがなく、『東京家族』(2013)で初めて3年の空白があったわけだが(東日本大震災の発生によりシナリオの練り直しを余儀なくされたゆえ)、『小さいおうち』は前作からわずか1年で公開されることになる。 

 今回の回顧上映“映画監督 山田洋次”について、「何といっても大変な名誉でぼくは嬉しいし、ありがたいと思っています」と山田監督は謙虚に言っておられたが、腰は低くともどことなくギラギラしたオーラをいまだに感じさせた。  

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