【木下惠介監督の想い出 (2)】
小倉「木下監督を偲んで、松原信吾と三村晴彦と何故か小倉一郎で「キネマ旬報」で鼎談したんですよ。そのとき聞いたのは、ロケハンで木下さんはベンツに乗って、助監督は他の車で県道と国道を勘違いして迷っちゃった。それで木下巨匠をさがしたけどいないんで、どっか入ってビール飲んでた。そこへちょうど木下さんが来て怒られるかと思ったら、いっしょに酒飲み始めて怒られなかったって(笑)」
飯島「夕方4時ごろになると、撮影が速くなって“おいしいもの食べに行こう”って。世代なのかな。4時半ごろには終わる」
小倉「食通だったですね」
飯島「おさんどんも上手で、女中さんは大変だった」
小倉「おきぬさんっていって、『冬の雲』(1971)でも馬渕晴子さんの女中さんの役名はおきぬさん。(劇中の)かかりつけのお医者さんの名前も、実際かかってた先生」
【『衝動殺人 息子よ』】
テレビに携わっていた木下惠介は、『衝動殺人 息子よ』(1979)で映画に復帰する。飯島氏がプロデュースした。
飯島「木下さんが“木下惠介劇場”と“木下惠介 人間の歌シリーズ”と7年やったので、当時のTBS社長がご褒美に撮りたい映画をとっていいと。当時テレビはもうかってたから、お金がある。5億円、返ってこなくていいと。そんなことを言われたのは初めて。松竹は『喜びも悲しみも幾年月』(1957)みたいなものをやらせたかっただろうけど。お金が戻んなくていいってことなんで、プロデューサーとしては気が楽でした」
仲「もう使っちゃえって感じで」
飯島「そういうお金が大きくなって返ってくる。これ当たったの。ぼくも絶対当たらないと思ったけど。
木下さんは“衝動殺人”というだけのタイトルにしたかったけど、松竹の大谷信義さんに頼むよって言われて無理やり、“息子よ”ってつけた」
主役の息子を殺された父親は、若山富三郎。
飯島「ぼくはミスキャストだと思ったの。新宿の芝居の稽古場に行って“プロデューサーでございます。これはあなたの役じゃないと思います”と。怒られると思ったんだけど、本読みが終わって来て“監督がおれだって言うんだよな。出るしかないじゃねえか”って。ぼくは困ったなって(笑)。
大船(撮影所)へ行って、9時開始だから9時半くらいに行きゃいいかと思って行ったら、ステージから若山さんの河内弁の怒鳴り声が聞こえて。喧嘩したかなと思ったら、若山さんが助監督をみんな集めて、裁判所の廊下のシーンで通行人の通るタイミングがいつまで経っても合わないと。助監督が合図を出すんだけど、それが合わない。小坂(小坂一也)くんがこっちから出てくるんだけど、そのタイミングが難しい。怒鳴り声を聞いて、思わず走ったよ。監督と揉めたかと思った。現場はピーンとしてました。
小坂くんの出番はあれだけ。いいタイミングだから役として立ってる。木下さんは、かわいがっていたから。木下アワーに出た人たちが、みんなこの映画に出てるよね」
小倉「木下先生は“小坂一也と会う? 会ったらあたしのところに来るように言っといて。お小遣いあげるから”って(笑)」
仲「小坂さんは辛いものが好きで、舞台でお会いしたとき、マイ唐辛子を持っててカレーうどんにかけてた(笑)」
飯島「このシーンの廊下は、木下さんのイメージではずっと長かったの。撮り終えてほっとしたところで、“飯島くん、きみ予算値切ったでしょ” (一同笑)。そんなけちなことしませんよ。裁判所のセットも、汚しをちゃんとやってるね」
仲「(劇中では懲役の年数について)相場って言ってますけど、過去の判例ってことですよね」
飯島「終わりのほうで、若山さんのお父さんが駅の階段を落っこちる。あそこも怒られたの」
仲「吹き替えなしでやったんですよね」
飯島「用意したんだけど、それがばれちゃった。時代劇役者には、落ちるのも芸の内なの。おれができないとでも思ったか、なめてるっていうことだよね。フレーム上ここで止まってほしいというところまで落っこって、カメラの方をちゃんと向く。自分のいちばんいいアングルで止まってるね。カメラもフォローしないで済む」
仲「地味な映画ですけど、若山さんはブルーリボン賞とか賞を総なめでしたね」
飯島「若山さんは(弟の)勝新太郎さんに“お前には主演男優賞はないだろ”と。この後の若山さんは、月に1本くらい“これやりてえんだけど”って企画を持ってきてた(笑)。
吉永小百合さんが少し出てるでしょ。木下さんが『戦場の女たち』というシナリオを書いて、中国と合作で吉永さん主演でつくる予定だったの。それが北京からNGが出て」
仲「それは政治的なことで?」
飯島「うん。吉永さんは監督の映画に必ず出ますって言ってて、それでこのお母さん役。
いまも行き当たりばったりの殺人はよくあるけど、このころはちょっと多かった。木下さんが本当に撮りたいのはこれだっていうのは、ぼくはよく判らなかったけど。“映画ってのは、世の中を啓蒙するものじゃなきゃいけないよ”っておっしゃってた。
初日、新宿松竹に重役が集まるけど、ぼくは当たらないと思ったんで行かなかった。すると電話かかってきて“つっかけてるよ” って。当時は舞台挨拶を満席にするために、老人施設とかから人を引っ張って満席にする。でもそうじゃないのに“つっかけてる”っていうのは、当日券を買うお客が並んだの。大事件ですよって電話だった」
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【4Kについて】
かつて飯島氏は、円谷プロで『ウルトラQ』(1966)や『ウルトラマン』(1966)の脚本・監督を務めた。その『ウルトラQ』の4Kリマスター版がNHKで最近放送された。
仲「最近は4K、8Kになって映りすぎちゃうって。時代劇だと網の部分を極力減らすとか。特殊メイクみたいになっちゃうって」
飯島「4Kになるとドラマは大変だね。こないだNHKに呼ばれて行って、『ウルトラQ』を4Kにすると。東宝撮影所に行ったら大きな機械があって、第1話「ゴメスを倒せ」の脚本を書いて監督したんだけど、その(4K版を見て)感想をっていう。関係者はみんな亡くなってるんだよね。(スタッフが)苦労して、特撮のミニチェアの石のトンネルをつくったんだけど、4Kだと石に見えない。袋に砂を詰めた土嚢だって判る。その編み目まで見えちゃう。怪獣の眼が光るでしょ。4Kで見るとその目玉に、照らしてる照明機材が映っちゃう」
小倉「アメリカで、スーパーに強盗が来て、店員さんの目に犯人の顔が映ってた。それで逮捕されたっていうニュースがありました」
飯島「それは有効だけど、ドラマはね。4Kだと、怪獣の卵は発泡スチロールにペンキを塗ったんだと判っちゃう。白黒のフィルムだと岩にスプレー吹きつけたって粒まで判っちゃう。いまは逆にそういうのぼかす作業をお願いしてる」
小倉「きのう船越(船越英一郎)くんの『赤ひげ』(2017)を再放送で見たんだけど、網が見えちゃってましたね」
飯島「いま35ミリで撮る監督は山田洋次くらいじゃないの。35ミリは日本では生産してないから」
小倉「コダックも8ミリをつくんなくなった」
飯島「山田洋次さんはぼくのひとつ上で、いつまで撮るか判らないけど、彼が撮る分くらいのストックはまだあるんですよ」

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飯島氏は、自伝的な小説を現在執筆中。
飯島「脚本は書いたことあるけど、小説は初めてなんで、いま毎日初々しい気持ちで書いてるんだよね」
小倉「直木賞ですか?」
飯島「直木賞より本屋大賞のほうがいいかな(笑)。出版にこぎつけられるといいなあと思っています」
映画監督の河崎実氏も来られていて、最後に河崎氏も交えて記念撮影。

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