私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

飯島敏宏 × 小倉一郎 × 仲雅美 トークショー(2018)レポート・『衝動殺人 息子よ』『ウルトラQ』(5)

f:id:namerukarada:20190118234047j:plain

木下惠介監督の想い出 (2)】

小倉「木下監督を偲んで、松原信吾と三村晴彦と何故か小倉一郎で「キネマ旬報」で鼎談したんですよ。そのとき聞いたのは、ロケハンで木下さんはベンツに乗って、助監督は他の車で県道と国道を勘違いして迷っちゃった。それで木下巨匠をさがしたけどいないんで、どっか入ってビール飲んでた。そこへちょうど木下さんが来て怒られるかと思ったら、いっしょに酒飲み始めて怒られなかったって(笑)」

飯島「夕方4時ごろになると、撮影が速くなって「おいしいもの食べに行こう」って。世代なのかな。4時半ごろには終わる」

小倉「食通だったですね」

飯島「おさんどんも上手で、女中さんは大変だった」

小倉「おきぬさんっていって『冬の雲』(1971)でも馬渕晴子さんの女中さんの役名はおきぬさん。(劇中の)かかりつけのお医者さんの名前も実際かかってた先生」

 

【『衝動殺人 息子よ』】

 テレビに携わっていた木下惠介は『衝動殺人 息子よ』(1979)で映画に復帰する。飯島氏がプロデュースした。

 

飯島「木下さんが “木下惠介劇場” と “木下惠介 人間の歌シリーズ” と7年やったので、当時のTBS社長がご褒美に撮りたい映画をとっていいと。当時テレビはもうかってたから、お金がある。5億円、返ってこなくていいと。そんなことを言われたのは初めて。松竹は『喜びも悲しみも幾年月』(1957)みたいなものをやらせたかっただろうけど。お金が戻んなくていいってことなんで、プロデューサーとしては気が楽でした」

「もう使っちゃえって感じで」

飯島「そういうお金が大きくなって返ってくる。これ当たったの。ぼくも絶対当たらないと思ったけど。

 木下さんは “衝動殺人” というだけのタイトルにしたかったけど、松竹の大谷信義さんに頼むよって言われて無理やり “息子よ” ってつけた」

 

 主役の息子を殺された父親は若山富三郎

 

飯島「ぼくはミスキャストだと思ったの。新宿の芝居の稽古場に行って「プロデューサーでございます。これはあなたの役じゃないと思います」と。怒られると思ったんだけど、本読みが終わって来て「監督がおれだって言うんだよな。出るしかないじゃねえか」って。ぼくは困ったなって(笑)。

 大船(撮影所)へ行って、9時開始だから9時半くらいに行きゃいいかと思って行ったら、ステージから若山さんの河内弁の怒鳴り声が聞こえて。喧嘩したかなと思ったら、若山さんが助監督をみんな集めて、裁判所の廊下のシーンで通行人の通るタイミングがいつまで経っても合わないと。助監督が合図を出すんだけどそれが合わない。小坂(小坂一也)くんがこっちから出てくるんだけど、そのタイミングが難しい。怒鳴り声を聞いて、思わず走ったよ。監督と揉めたかと思った。現場はピーンとしてました。

 小坂くんの出番はあれだけ。いいタイミングだから役として立ってる。木下さんはかわいがっていたから。木下アワーに出た人たちがみんなこの映画に出てるよね」

小倉「木下先生は「小坂一也と会う? 会ったらあたしのところに来るように言っといて。お小遣いあげるから」って(笑)」

「小坂さんは辛いものが好きで、舞台でお会いしたとき、マイ唐辛子を持っててカレーうどんにかけてた(笑)」

飯島「このシーンの廊下は、木下さんのイメージではずっと長かったの。撮り終えてほっとしたところで「飯島くん、きみ予算値切ったでしょ」(一同笑)。そんなけちなことしませんよ。裁判所のセットも汚しをちゃんとやってるね」

「(劇中では懲役の年数について)相場って言ってますけど、過去の判例ってことですよね」

飯島「終わりのほうで若山さんのお父さんが駅の階段を落っこちる。あそこも怒られたの」

「吹き替えなしでやったんですよね」

飯島「用意したんだけど、それがばれちゃった。時代劇役者には落ちるのも芸の内なの。おれができないとでも思ったか、なめてるっていうことだよね。フレーム上ここで止まってほしいというところまで落っこって、カメラの方をちゃんと向く。自分のいちばんいいアングルで止まってるね。カメラもフォローしないで済む」

「地味な映画ですけど、若山さんはブルーリボン賞とか賞を総なめでしたね」

飯島「若山さんは(弟の)勝新太郎さんに「お前には主演男優賞はないだろ」と。この後の若山さんは、月に1本くらい「これやりてえんだけど」って企画を持ってきてた(笑)。

 吉永小百合さんが少し出てるでしょ。木下さんが『戦場の女たち』というシナリオを書いて、中国と合作で吉永さん主演でつくる予定だったの。それが北京からNGが出て」

「それは政治的なことで?」

飯島「うん。吉永さんは監督の映画に必ず出ますって言ってて、それでこのお母さん役。

 いまも行き当たりばったりの殺人はよくあるけど、このころはちょっと多かった。木下さんが本当に撮りたいのはこれだっていうのは、ぼくはよく判らなかったけど。「映画ってのは、世の中を啓蒙するものじゃなきゃいけないよ」っておっしゃってた。

 初日、新宿松竹に重役が集まるけど、ぼくは当たらないと思ったんで行かなかった。すると電話かかってきて「つっかけてるよ」って。当時は舞台挨拶を満席にするために、老人施設とかから人を引っ張って満席にする。でもそうじゃないのに「つっかけてる」っていうのは、当日券を買うお客が並んだの。大事件ですよって電話だった」 

【4Kについて】

 かつて飯島氏は、円谷プロで『ウルトラQ』(1966)や『ウルトラマン』(1966)の脚本・監督を務めた。その『ウルトラQ』の4Kリマスター版がNHKで最近放送された。

 

「最近は4K、8Kになって映りすぎちゃうって。時代劇だと網の部分を極力減らすとか。特殊メイクみたいになっちゃうって」

飯島「4Kになるとドラマは大変だね。こないだNHKに呼ばれて行って『ウルトラQ』を4Kにすると。東宝撮影所に行ったら大きな機械があって、第1話「ゴメスを倒せ」の脚本を書いて監督したんだけど、その(4K版を見て)感想をっていう。関係者はみんな亡くなってるんだよね。(スタッフが)苦労して、特撮のミニチェアの石のトンネルをつくったんだけど、4Kだと石に見えない。袋に砂を詰めた土嚢だって判る。その編み目まで見えちゃう。怪獣の眼が光るでしょ。4Kで見るとその目玉に、照らしてる照明機材が映っちゃう」

小倉アメリカで、スーパーに強盗が来て店員さんの目に犯人の顔が映ってた。それで逮捕されたっていうニュースがありました」

飯島「それは有効だけど、ドラマはね。4Kだと、怪獣の卵は発泡スチロールにペンキを塗ったんだと判っちゃう。白黒のフィルムだと岩にスプレー吹きつけたって粒まで判っちゃう。いまは逆にそういうのぼかす作業をお願いしてる」

小倉「きのう船越(船越英一郎)くんの『赤ひげ』(2017)を再放送で見たんだけど、網が見えちゃってましたね」

飯島「いま35ミリで撮る監督は山田洋次くらいじゃないの。35ミリは日本では生産してないから」

小倉コダックも8ミリをつくんなくなった」

飯島山田洋次さんはぼくのひとつ上で、いつまで撮るか判らないけど、彼が撮る分くらいのストックはまだあるんですよ」

 飯島氏は、自伝的な小説を現在執筆中(『あの日、ぼくたちは』〈角川文庫〉)。

 

飯島「脚本は書いたことあるけど小説は初めてなんで、いま毎日初々しい気持ちで書いてるんだよね」

小倉直木賞ですか?」

飯島直木賞より本屋大賞のほうがいいかな(笑)。出版にこぎつけられるといいなあと思っています」

 

 映画監督の河崎実氏も来られていて、最後に河崎氏も交えて記念撮影。

f:id:namerukarada:20190118234733j:plain