【現場でのエピソード (3)】
石橋「(撮影)場所は覚えてないですね。多分、千葉のほうだったかと思うんですけど、素晴らしい風景ですよね。
(アパートは)めずらしくセットで、お金がかかってるんじゃないですか」
宮下「ラブシーンやってるときに、窓ガラスかふすまか蹴っちゃったんですよ。カットがかからなくて、フィルム代がもったいないんでカットかかるまでやめないというのが当たり前で、蹴っちゃったと思いながらそのままやったんですよ。窓の外で雨降らしていて」
石橋「ラストのところですね」
宮下「荒井晴彦さんのホンにはなくて、たまたまああなっちゃった(笑)」
【お互いの印象】
石橋「あのころの男が、こういう女が現れてくれたらなと思っていたような、ひとつのつくりやすい女というか。本人がつくるんでなく、こっちがつくっていける魅力。
トンネルの向こうの部落から入ってくるトップシーン。入って来てから悶々としている存在感。順子の存在感は、過去も引きずり出せる。現象的に一生懸命やる人だけど、その奥に何か過去を吐き出すような雰囲気も醸し出している。現象だけじゃなく本質ものぞきたくなるような存在でしたね」
宮下「判った?(笑) 何も考えてなくて。前のシーンと次とのつながりとか、全く考えてなくて気持ちのままやっていて。誉めていただいてなんですけど意識してなかったですね」
石橋「知ってるよ(一同笑)。
まだ隠してるものを、もうちょっと引っ張り出せねえか。失礼だけど、男から見ると道具というか、掘りがいがある。掘り当てると、悲しくなってくる。おふくろか妹か。そういう存在でした。度胸もよく、衒いがない。ちょっと待ってくださいっていうのがない。行きましょ、いいですよ、どうぞ~って」
宮下「バカみたいじゃない?」
石橋「バカなんだな(一同笑)」
宮下「撮影所でもロケでもくっついてましたからね。生理的に合わない人もいるんですよ。そういう人と肌をくっつけるってのは厭ですよ。蓮司さんでよかったです。肌が合うっていうか合わせてあげたっていうか(笑)」
【完成後】
脚本の荒井晴彦氏は、打ち上げで神代辰巳監督に「蓮司、ダスティン・ホフマンにはまだだな」と言われていたのを思い出すという。
石橋「覚えてないですね。ポール・ニューマンじゃなかったかな(笑)。神代さんはヴィスコンティが好きって言ってましたね。意外だったんですけど。飲みながら映画の話をよくしてました。
ぼく自身は中上(中上健次)さんと面識はありましたけど、いっしょに話すことはなかったです。監督には感想を言うことがあったかもしれません」
宮下「私も中上さんとは飲み屋でよく会ってたんですが、何にも言われませんでした。
映画館へ見に行ったんだったかな…? 40年も経ってるでしょ(笑)。にっかつロマンポルノを何回か映画館に行ったことはあるんですけど、入りづらいんですね。上映する前に試写はやってるんで、多分それで見たと思います。見たか見てないかも覚えていないけど」
石橋「上映が終わってしばらくして、若い女の子によく声かけられたんですよ。女性もああいう映画を見に行くんだって知ったし、光造が好きって人もいて、お手紙もらったことがありますね。女の裸を見る映画なのに、女性が見に行って男を見てくれるってすごいなって、びっくりしました。そういうことは『赫い髪の女』(1979)だけですけどね」
荒井氏はこの日、台湾に行っていたそうで不在。
石橋「ああ、よかった。ホンもしっくりくるものになってましたからね。荒井晴彦を誉めたくないけど(笑)」
宮下「台本読んで、何がいいんだかさっぱりわかんなかった。なんじゃこりゃと(一同笑)」
石橋「お前の解釈入れてたら、壊れてたよ。お前がぼけっとしてたからよかった(一同笑)」
宮下「(笑)」
最後にメッセージ。
石橋「たくさんの人に来ていただいてびっくりしてます。もう忘れられてるかと思っていたので、大変うれしく思っています。これからも手を抜かずにやらなあかんなということで、順子に強く言っておきます(一同笑)」
宮下「きのうは台風で、お客さん来てくれるのかしらと思ってましたけど、こんなにたくさん来てくださいましてありがとうございました(拍手)」