私の中の見えない炎

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石橋蓮司 × タナダユキ トークショー レポート・『四十九日のレシピ』(1)

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 竜馬暗殺』(1974)、『赫い髪の女』(1979)などでの名演で知られ、近年も『アウトレイジ』(2010)、『大鹿村騒動記』(2011)など1年に5、6本もの映画に出演する精力的なベテラン俳優・石橋蓮司。今年も5本が公開されたほか、朝のテレビ小説『花子とアン』(2014)にも出演している。

 子役でデビューした石橋は今年で俳優生活60年を迎え、それを記念して8月に池袋の “文芸坐” にて “石橋蓮司映画祭” が開催された。出演作20本が上映され、『赫い髪の女』と『四十九日のレシピ』(2013)の上映後には2回のトークが行われている。『赫い髪の女』も傑作なのだが筆者はその日の都合がつかず、『四十九日』のトークのみ観覧できた。

 『四十九日のレシピ』では妻を失ったばかりの寡黙な熟年男性役。妻は、自分の死後の “レシピ” を残していた。夫(原田泰造)と別れて実家へ戻ってきた娘(永作博美)とともに、立ち直るべく奮闘する。

 トークでは、石橋さんとタナダユキ監督が登場。

 タナダユキ監督は、この他に『赤い文化住宅の初子』(2007)、『百万円と苦虫女』(2008)などの監督映画や小説『ロマンスドール』(文藝春秋)といった作品がある(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りなので、実際の発言とは異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承下さい)。  

【『四十九日のレシピ』をめぐって (1)】

石橋「最初に(映画祭の)話を聞いたとき、特集できるほど作品があるかなと。ちょっとずつ出てるのはあっても、たくさん出てるのはそんなにあったかな。でもこれ(ラインアップ)を見て、印象に残ってるものは、全部入ってますね」

 

 タナダ監督と石橋さんは今回が初顔合わせだった。

 

タナダ「自分が映画を始めたときに見たのは『竜馬暗殺』でした。大体の人が思うことと同じですけど、石橋さんは怖い人かな、怒られたりするかな(笑)」

石橋「若いときからそうですね。いつのまにか、悪役を振られるようになって。普通の役をもらっても、いじってひねってしまって変態的になってしまったところもあります。素直にやればいいのに」

タナダ「『四十九日のレシピ』の役はひねりにくい。蓮司さんと永作さんは受けの芝居ですから。二階堂ふみちゃんの役だったら、ひねることもできるけど」

 

 ちなみにメインのひとりである二階堂ふみさんは素晴らしい好演であった。

 

タナダ「自分で見ていても、受けの芝居は難しいですね。受けがないと周りの人も引き立たない。

 私以外の監督もそうだと思うんですけど、俳優さんとお仕事していて他にないお芝居を見たい。今回のお父さんは頑固ですけど昔の頑固親父でなく、いまを生きる普通のお父さんの石橋さんを見てみたいと」

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石橋「脚本の黒沢久子っていう女性は前から知っていて、これどうすればいいですか、と訊いたり。

 ぼくは終戦のときが4歳で60年安保、70年安保があった。そんな時代の中をぼくらの世代はいろいろと選択しながら生きてきた。あの親父は何をしてきたのかな、組合運動はしなかったのかな、とか。あの親父のように70〜80%の方は淡々と生きていらっしゃる。おれたちは役者だから、つい劇的に生きてしまうけど…。

 岐阜のロケでは淡々としなきゃいけないんだけど、つい(劇的に)やりたくなっちゃう。難しかったですね。永作さんは繊細なお芝居をなさるので、こちらは大変苦しかった」

 

 超ベテランの石橋さんも、女性監督と組むのは今回が初であったという。

 

石橋「撮影をやっていると、冷たい眼で見られてるなって感じるとタナダ監督(笑)。現場に(永作さんと)娘がふたりいる、みたいな。

 深作欣二監督や恩地日出夫さん、神代辰巳さんにしても、飲みながら論争することができました。でもタナダ監督とは、意見が違ったらどうすればいいかなと。大きな声も出せないし、黙って言うことを聞いておこう(一同笑)。

 昔のメジャーな映画は天気待ちを2、3日平気でやる。イメージに合う天気まで待つとか、そういうゴージャスなことをやってました。いまは(映画界に余裕がなくて)雨が降ったら雨のシーンに変えたり、監督さんは大変ですね。それだけ想像力を使って突破していくということにもなりますけど」

タナダ「私はフィルムにあこがれて、でも映画をやってみたらデジタルになっていたという世代です。厳しい条件の現場ばかりでしたね。縛りや制約は、受け入れるしかないい。撮るかストップするか、腹の底でぐっと(笑)。核となる部分、これがないなら撮らないという部分は譲らないですけど、例えば春に撮りたいのを冬にするとか…」(つづく)