私の中の見えない炎

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荒井晴彦 × 足立正生 × 白石和彌 × 森達也 × 井上淳一 トークショー レポート・『濡れた賽の目』(1)

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 冬の港町で飲み屋を営む主人公(司美智子)。愛人である議員の秘書になった昔の男(国分二郎)やシベリア行きを夢見る若い男女(根津甚八、長田恵子)が現れる。

 若松孝二監督の映画『濡れた賽の目』(1974)は、脚本家・荒井晴彦のデビュー作(出口出名義)。若松監督の命日(10月17日)にリバイバル上映と荒井、足立正生白石和彌森達也の各氏のトークショーが行われた。司会は井上淳一監督が務める。荒井氏は47年ぶりに見直したという。完成後に日活に売り込まれたそうで、日活ロマンポルノの1本として公開されている。当時の併映は名作として名高い『(秘)色情めす市場』(1974)だった(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。

荒井「お恥ずかしい。おれが書いたとは思えないね。別人じゃないか(笑)。若松さんは悪くない、おれが悪い(一同笑)」

白石「見ると若松映画になってるし、いろいろあるんですけど面白かったですよ」

荒井「若松さんにしてはさ、いやらしく撮ってるよね」

白石「ガイラ(小水一男)さんがカメラですよね」

荒井「そう、でも途中で若松さんがどけどけって言って自分で回してたね」

白石「伊東(伊東英男)さんのときと入り方が違ってたんで、ラブシーンも含めて。若松さんっぽくない」

荒井「普通は淡泊だよね。実生活は知らないけど(笑)」

白石「芝居でもいつもよりワンカット多い感じがする」

荒井「おれがうるさかったからね。現場にいたよ。いじめられてた(一同笑)。何でシベリアなんだろうと(一同笑)」

井上「こっちが聞きたいですよ」

荒井「京都の仲居さんにおふくろから電話してもらって、少し居候してたんだ。ぶらぶらして、内灘闘争の世代が五木寛之で『内灘夫人』(新潮文庫)を書いてるけど、内灘砂丘に行ってみたいと。(内灘闘争の発端になった)観測所に入ったら「海の向こうはシベリアだ」って書いてあったんだよ。これはいいと思って。後で『あらかじめ失われた恋人たちよ』(1971)を見たら、ただの落書きじゃなくて映画用の(装飾)だったんだ。その落書きに乗っかって、この脚本を書いてしまった(一同笑)」

「うすうす感づいてたけど、荒井さんって暴力的なほどロマンチストだなと実感したし。シベリアについては神代(神代辰巳)さんの『アフリカの光』(1975)を思い出しました。根拠もないんだけど、とにかく行くんだというのがオーバーラップしたというか」

荒井「足立さんに行こうって誘われたのはこの後だね」

足立「あたりかまわず、全員誘ってた(一同笑)」

荒井「お前は、映画の才能ないのはこれで判ったろ、だから行こうと。理論派がいない。お前は、議論はしっかりしてるからと。うまいこと言って」

足立「行ってたら、こんなろくでもない巨匠にならないで済んだ。長い出張から帰ってきて、日本映画をダメにした三悪人に荒井晴彦を挙げておいたけど公表はしてない」

荒井「足立さんが帰ってきたとき、歓迎パーティーを仕切ったのはおれだよ(一同笑)」

足立「若い荒井さんが書いただけあるというか。何でシベリアなのかとか若いふたりが行こうとするのかとかは、森さんが言ったようにさ、本質的にロマンチストであるわけだよね。いまはみんなが撮りたくなるような脚本を書くんだけど、このホンじゃ誰も撮らない。そのぐらい落差があるんだけど、長い間やってたら成長するんだね(一同笑)。

 ホンを読んだ記憶も全くない。若松プロはがさ入れに遭ったときのためによそに事務所借りてやり始めたころだよね。映画班と運動班とで分かれて」

 

 準主役はやくざ(国分二郎)。

 

荒井「若松さんもやくざだよね(笑)。(劇中のやくざ役は)やくざなのに寅さんみたいな恰好するんじゃねえよって(一同笑)」

足立「やくざを描きたくないというのが若松さんの持論。そういう意味では珍しい」

荒井「若松さんといっしょにドイツの映画祭に行ったときに、飛行機で映画見てて「荒井、これ面白いな」って言うから見たら『仁義なき戦い』(1973)なんですよ。「えっ、いまごろ見てるの。深作(深作欣二)さんも友だちじゃないの?」って言ったら「おれ、やくざ嫌いだもん」と(笑)」(つづく

 

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