私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

宮下順子 × 石橋蓮司 トークショー レポート・『赫い髪の女』(2)

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【現場でのエピソード (2)】

宮下「蓮司さんと(神代辰巳)監督がああしようこうしようって進めていって、私は隣でタバコ吸って(笑)。すごくリードしてくれて。いまはこうですけど、当時はかっこよかったんですよ」

石橋「やかましい、いまもだ」

宮下「撮影中はもう惚れちゃってましたね。撮影が終わったら、またもとの生活に戻りましたけど(笑)」

石橋「あのころは、男が女性をつくっていっちゃうというような作品が多いし、女性が主体的に行動するわけでなく男次第というような。男が観念的だったりするんですが。

 あの(自分が演じた)役柄は愛という状態を知らないんだと思うんですね。好きとか相性とかでつき合っていて、いっしょにいるとほっとするとか。会話がセックスで、それで確かめ合う。昔で言う土方で、雨が降ったら仕事はない。ないときは、帰ってきて酒と女。

 順子の受け方はうまかったですね。演技してたんじゃないと思うんですけど、いじめがいがある(笑)。何言ってもついてくるというか。

 監督には、お前は同じことばっかりやってないで手はねえのかと。セックスで手と言われても限界がありますからね(笑)。困っちゃうんだけど、お前が仕掛けないと順子が反応しないからと打ち合わせで言われて。愉しくやってましたね」

宮下「感情のままついていきました。何も苦労することもなく、愉しい数日間を過ごしました」

石橋「お前考えろって言われて、考えて仕掛けていくんですけど、テストはいつも1回ぐらいなんですけど、どうでしょうかねいまのって言ったら、お前のことなんか見てねえよって(一同笑)。仕掛けさせて、順子の反応を見てたんで、お前はやりたいことやればいいんだよって言われてむかっときたことがありましたね」

宮下「私もそれ覚えてます。見てないよって言われてて、かわいそうだった(笑)。女優さんは神代監督のに出ると、いままでになかったのを引き出してもらえていいんですよね。よく見てくれているって安心感があって」

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宮下「アパートでお鍋つっついてるところで“おい、ちょっとそこで泣いてみな”って監督が言うの。え、何でここで泣くのって、とりあえずはつながりも考えるじゃない?(笑) でも泣きました。もしも泣くシーンがうまくできなかったら、笑ってみることにしたり、そういう柔軟性があって、思いもかけない演技をつけてくれるところがありました。

 

 (光造は)役としては好きじゃないんですけど、私のお友だちの男の人で何度も見たって人がいて、何であんなにセックスばっかりするんだろうって私が言ったら、お天気の関係する仕事だから雨だとやることがないんですよってこないだ言われて。何十年も経ってから教えてもらいました」

石橋「遅いよ(一同笑)」

宮下「(笑)でも判ってやってたら厭らしくなってたかもしれない、私が」

石橋「求められたからやるんで自分から求めてはいないっておっしゃりたいんでしょうけど、おれが寝てるうちに順子からおしゃぶりしてる場面もあったよ(笑)。

 われわれ役者は表現のために、いろんな語彙を使いますね。順子は別にして(笑)。自分のいまの気持ちを伝えたり。生き方をさがしてみたり、いろんな選択肢を持って選んでいくんですが、光造は与えられた仕事の中で生きていく。人生を散らすことができないっていうか、踏みとどまっているしかない。気持ちの中ではお金がほしいとかこんな町出て行きたいとか違う世界に行きたいとか、思っているんでしょうけど表現の方法がない。つるはしを打つとか後輩をいじめるとか女にあたるとかしか表現ができないだけど、いろんなものを内面的に持ってるんだと思います。それを女性にぶつけると、女性が吸収していくというか、それで許されるというか。典型的な、言葉を持たない男というか。中上(中上健次)さんの本にもありますが、ボキャブラリーが8個くらいの男性(笑)の素敵な存在感。それでいて歴史的なものを語っている。そういうのが光造の中にもあって、それが順子の赫い髪の女によって引きずり出される。順子に導かれて、おれって意外と…と気づくんですね」(つづく  

映画監督 神代辰巳

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