家族ぐるみでつき合っているふた組の夫婦。だがホームパーティーの最中に片方の夫婦の夫(石橋蓮司)が逮捕され、警察・マスコミの攻勢や近所のいやがらせが始まった。妻(酒井和歌子)は狂気にとらわれていく。
映画『青春の蹉跌』(1974)、『赫い髪の女』(1979)などで知られる神代辰巳監督はテレビドラマでも傑作を撮っており、火曜サスペンス劇場『死角関係 隣人夫婦男女四人のからみ合い』(1987)はとりわけカルト度の高い異色作。
2019年10月に渋谷でリバイバル上映があり、主演・酒井和歌子のトークショーが行われた。聞き手は編集者・映画評論家の高崎俊夫氏が務める(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。
酒井「(イベントの出席は)何十年ぶりかもしれません(笑)。神代作品は5本くらい出てるんですけど、見るのも何十年ぶりです。映画の画面で見るのは初めてですし、うちのテレビでは見ましたけど、あのころはテレビも小さかったですし。大きな画面だと迫力もあって、自分の作品なんで面白くって言うと変かもしれませんけど感慨深かったです」
【神代監督との出会い】
初めての顔合わせは土曜ワイド劇場『悪女の仮面 扉の陰に誰かが』(1980)。悪の姉妹(酒井、浅野温子)が主人公(いしだあゆみ)を翻弄する。
高崎「酒井さんを最初に2時間ドラマで使いたいと思ったのは、豊田四郎監督の『妻と女の間』(1976)を見たからだと監督はおっしゃっています」
酒井「(『妻と女』は)20代後半でしたね。『悪女の仮面』は奥さんがいしだあゆみさんですね。その奥さん役でってお話があったとき、私はちょうど30だったんですけど、この悪女の役がやりたいって言ったんです。いままで意思表示をしたことがなかったんですけど、受け入れてくださって。それまでは普通の女学生とかOLとか奥さんだったりで、ひとつの線をまっすぐ走っていました。あのころは清純派と悪女とで(役者は)分かれていました。いまはみなさん、いろんな役をおやりになるけど。あれがきっかけで、私もそういう役をやるようになりました」
高崎「いしだあゆみさんの友人役の宮井えりなさんの部屋は、宮下順子さんのずっと住んでた家らしいんです。神代さんが麻雀か何かやってて、ちょっとここを使いたいと(笑)。
宮下さんは、あのドラマでの神代さんは自分につけないような演出をしていると。くやしいっておっしゃってました(一同笑)」
酒井「そうですか(笑)。私にとってはまだ1本目ですからね。右向いて、左向いてくださいみたいに言われるままにやっていて、もちろん自分が納得いかないと動けないですけどね。
放映されたら評判が良くて、監督から次にお声がかかって、喜んで出演させていただきました。
(ロマンポルノは)あまり見てないですね。ただ女性が豹変する、そういうエキセントリックなところは自分にないものですから、逆にやってて面白い。入っていけるところはありましたね。東宝にああいう監督はいませんでしたし。年代的に青春映画でしたけど30になるとまた違いますから。東宝は清く正しく美しくみたいな(笑)」
高崎「あの時代だと、東宝は大人の女性の映画というのがなくなってましたね。東宝の田中収さんも清く正しく美しくみたいなのが好きじゃなくて、神代さんを是非ということで『青春の蹉跌』(1974)や『櫛の火』(1975)などをつくって『死角関係』でもプロデューサーをやられてますね」
【『死角関係』(1)】
高崎「冒頭で石橋さんが連行されるんですが、その後で酒井さんが息子とプロレスを始めます」
酒井「神代作品は普通の感覚と違いますね。監督と感性が合えばいいんですけど、合わないとやりにくいかもしれません」
高崎「酒井さんはプロレスをしながら、森本レオさんとちゃんと会話をされていますね」
酒井「長回しでやるんですね。役者が変な芝居をすると使われないかなって不安感はありました。スイッチではそんなこと思いませんけど。
ワンシーンワンカットが当たり前で、玄関から2階へ上がってまた戻ってくるとか。カメラマンも大変だったですよね。
こうしてああしてって言われても、納得いかないと動けない部分はありますね。ある人のところで食べながら喋ってくれと言われて、ちょっとできないって言うと、監督のあきらめが速い(笑)」(つづく)