私の中の見えない炎

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佐藤優 × パスカル・ペリノー × ヤン=ヴェルナー・ミュラー × コリン・ウッダード トークショー “台頭するポピュリズム、危機に瀕する民主主義” レポート (4)

【パネルトーク (1)】

西村政党政治の疲弊というのは、何が原因なのでしょうか?」

ペリノー「第2次大戦の後で代表制民主主義がつくり直された。さまざまな政党や組合、団体がつくられてきました。中間団体と呼ばれる、草の根と国家との仲介を行うものです。20年くらい前から、すべての民主主義では、このような団体は危機に瀕しています。フランス国民の92パーセントがいかなる政党に信頼を置かないと言う。92パーセントですよ。数多くの民主主義国家では、市民とシステムとの間に空隙がある。そのスペースにポピュリストが進出してきています。

 ヨーロッパでの最初のポピュリストはジャン=マリー・ル・ペンでした。現在の国民戦線のマリーヌ・ル・ペンの父親です。ジャン=マリー・ル・ペンは80年代に“私はフランス国民が心の中で思っていることをはっきり声に出して言ってるだけだ”と言っていました。つまり国民の考えを伝えているわけだから、中間組織はいらないということです。政党が危機に瀕しているか、その危機をポピュリストがいかに活用しているかをこの発言は示しています。

 いままでの多元主義に意味を与えてきたものが、大きく分断されました。フランスでは左派と右派の分断が弱まっています。フランス革命で右と左という考えがつくり出され、2世紀生きてきました。しかし現在、保守とか革新が有益な概念で、政治的な概念を使えば政治的な課題が理解できるかと問えば4人に3人のフランス国民はノーと答えます。欧州連合や環境、移民の問題はもはや左派と右派という図式を通じては理解できないと考えている。いまは別の対立軸が生まれています。90年代に開かれた社会ということが言われ始めました。国家的に閉じこもるか否か、EUにイエスだろうとノーだろうと右か左かということは言えないのです。開かれた社会を支持するか、閉ざされた社会を好むかという新しい対立の構図が出てきている。

 中間層と上流層、下層という分断もある。ウッダードさんの話は興味深く聴きました。アメリカの政治的な対立の裏には、歴史的な文化の違いがあり、人口学的な違いもある。領土にそれが書き込まれている。ヨーロッパでも全く同じことが起きているのです。都市部はモビリティが高く先端的なサービス業などがあり、オープンな社会を支持しています。しかし田舎や古い産業地帯の都市では光景が変わってくる。ますますナショナル・ポピュリズムが支配的です。いままでと違う分断が生まれ、ナショナル・ポピュリズムの力となっています」

西村「外国人嫌い、移民・難民排斥がある。ドイツでは難民排斥を訴える極右政党が最大与党になりましたし、スウェーデンの総選挙では移民・難民の受入れ制限を訴える党が躍進しました。イギリスのEU離脱にも移民・難民への反撥がある。差別的なポピュリズム反グローバリズムや反EUに簡単に結びついてしまう」

ミュラー「われわれは複雑な問いかけに簡単な解決策を求めているのではないでしょうか。何故ポピュリズムが台頭しているのか、何故成功しているのか。経済だとか難民だとか回答がひとつであればいいかもしれません。しかし世界で通用する有効なひとつの答えというのはないと思っています。国内の文脈を捉える必要がある。ポピュリズム政党の台頭した背景はそれぞれ違います。オーストリアもトランプ氏勝利もハンガリーもそれぞれ違っていて、精査する必要がある。ただポピュリストの後押しとなっているのは経済でなく、文化的な紛争・衝突です。真の国民と排除される国民との対立が既にあるのならば、ポピュリズムが進行する余地はあります。他のパネリストにも問いかけますが、分断の背景を理解することが重要です。

 民主主義は分断に対応するためのものです。いろんな政党がいても合法であると認めるために民主主義という枠組みがある。分断に対応するアプローチはできると思っています。

 ポピュリストの台頭だけを見極めるのではなく、さらなる分断を引きおこすかもしれないことに注目すべきです。ポピュリストのビジネスモデルは政治的・文化的分断を深めることです。それに対抗しなければいけません。いい政治家はそれに対抗できます」

ウッダード「健全な民主主義なら文化的衝突に対処することができる。ただ民主主義が崩壊するとポピュリズムが台頭し、分断をてことして進化する。実際に北米で起きています。

 アメリカにはつなぎの部分がさほどないんです。リンカーンの提唱した価値観以外に、われわれをつなぎ合わせる、のりとなる部分は限られている。われわれこそがアングロサクソンの優等生であるという主張が、1910〜20年代パラダイムとなりました。危険な思想で、ユーゴスラビアのように国の崩壊を招きかねません。ここにトランプは目をつけていて、彼の根底にあります。1924年の移民法にも盛り込まれている発想で、暗黒の時代が到来したと言っていいかもしれません」(つづく)