【パネルトーク (3)】
ウッダード「11月のアメリカ中間選挙には、多くのものがかかっています。トランプ政権が発足してから、共和党は法に基づいての役割を担っていない。民主党が下院の議席を伸ばすことができれば、さまざまな法案を阻止することも可能でしょう。上院か下院か判りませんが、いずれにしても、2020年以降に民主党が影響力を拡大することができるかと思います。トランプ政権を支持する人びとが徐々にマイノリティーになりつつある。人口分布的に多いミレニアム世代、ベビーブーマーと呼ばれる人たちが成人を迎えますが、彼らもトランプには懐疑的です。
トランプ2.0がもし誕生するのなら悪夢です。彼自身に規律がない、チェック機能がないというのが逆に規律、チェック機能になってきた。結果的にFBI捜査のきっかけになり、国営放送に放言したのが規律になってきた。もしトランプが、2.0として賢く生まれ変わるとしたら、その“チェック機能”もなくなってしまいます」
佐藤「私もトランプ2.0になることはないと思います。ただ1.5くらいになる可能性はある(一同笑)。いままでの共和党は個人が主体、アトム(原子)的な世界観を持っていました。それに対してトランプはモナド的な考え方。モナドは微分法を発明したライプニッツののもので、神さま以外につくることも消すこともできないという。トランプは、生まれる前から自分は選ばれた人間だという意識を強く持っています。こういう人が権力をとれたのは、混乱の原因ではなく結果です。アメリカが揺れて変わっていて、個体重視から共同体重視へと振り子のように揺れている。
外交においては、縮小傾向に向かっていくと思う。さっきのニュースで米朝の第2回首脳会談があるって言ってましたけど、米朝関係が正常化するのは時間の問題でしょう。防衛線も変わります。38度線が防衛線だったのが、朝鮮戦争の法的終結によって在韓米軍の撤退が視野に入ってくる。対馬海峡が防衛線になってくる可能性もある。安全保障だけでなく経済においても、日本とアメリカとの関係が緊張してくる。古典的なモデルの帝国主義的な勢力均衡、それぞれの国の力関係で均衡点が決まってくるという厭な時代になってくるんじゃないか。力の論理だけで解決すると東アジアは混乱します」
ペリノー「代表制民主主義というものは、もう一度つくり直さなければいけないかもしれません。いまあるものを再生するのでなくて、イマジネーションが必要です。選挙を中心としたもののほかに、民主主義を別の形に生かす。政党や議会と参加型民主主義とを結びつけなければいけない。
第2次大戦の後に、多元的民主主義に抗議がなかったとすれば、効果的だったからです。ヨーロッパは平和で経済成長を遂げましたが、何十年前からリベラル・デモクラシーは平和や経済成長をもたらせなくなってきている。制度の効率が悪くなってきて、抗議や異議申し立てが起こり、ポピュリストがあるのです」
ミュラー「代表制民主主義自体は危機ではないと思います。本当の危機は、市民と政治とをつなぐ制度がないことです。
私は懐疑的ですが、イタリアの“五つ星運動”のような新しいものが出てくるかもしれません」
佐藤「ペリノーさんのお話に代表制民主主義を改善するヒントがあると思います。それは中間団体の強化です。モンテスキューの『法の精神』(岩波文庫)の中にある考え方ですが、日本の中間団体的なものと言えば沖縄です。独自な考え方があって、個人でもなければ国家でもない。宗教団体なら創価学会。あるいは農協。朝日新聞や産経新聞も中間団体ではないかと思っています(一同笑)。産経新聞は特殊な政治的・歴史的認識を持った閉ざされた集団です。朝日新聞は、慰安婦問題であれだけ叩かれても生き残っている。半ば閉ざされた集団だからです。朝日が閉ざされているというのは、いい意味で言ってる。外交官だったときの仕事は、記者と親しくなって懇談メモを手に入れること。朝日は内部規律が厳しくて、一度もメモを手に入れることができなかったんですよ。朝日新聞が、中では議論してると思うんですが、外に開かれてる部分とそうじゃない部分がある。これは中間団体で、そういうのが強くならないと国家権力の情報・マネーの力に勝てない。そういう思いがあるから朝日の会合に出てきたんです(一同笑)」
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