私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

佐藤優 × パスカル・ペリノー × ヤン=ヴェルナー・ミュラー × コリン・ウッダード トークショー “台頭するポピュリズム、危機に瀕する民主主義” レポート (3)

【ヤン=ヴェルナー・ミュラー氏 (2)】

ミュラー「ポピュリスト政権の特徴は、反政府勢力を排除するということです。裁判所やマスメディアが非難すると“いやいや、われわれは国民が選んだ人びとである、あなたは選ばれていない” 。賛同しない者は敵であるという見方です。中立的な主義・政策の解釈を変えていく。われわれは民に選ばれた、だからわれわれの政党が国を乗っ取っていいんだという発想です。また政府を支援する人に恩恵を与えるが、それ以外の市民を排除する独裁主義もあります。真の国民こそが恩恵を受けるべきということです。抗議が起きた場合、合法的な抗議でも、誰かが裏で支援金を出していると解釈します。CIAなどが裏にいると考えます。例えばトルコのエルドアン政権は抗議について、市民の合法的な抗議でなくドイツの航空会社・ルフトハンザが黒幕であると説明します。根底に流れているのは反多元主義です。国民から選ばれた代表者に国民が抗議するはずはない、フェイクか外の力が動いたとみなします。

 ポピュリズムを波と言ったナイジェル・ファラージは、自分ひとりでブレグジットを可能にしたわけではありません。保守派の支援が必要でした。トランプもグラスルーツの候補者ではありませんでした。怒れる労働者の代表だということに最終的にはなりましたけれども、もともとは共和党の候補者だったわけです。表面的には健全な選挙でしたが、候補者は異例だったのかもしれません。

 ポピュリズムの波に隠れたものは何でしょうか。東欧、北米で保守派エリートの力添えなく、力が浮上してきました。ひょっとしたら誰もが止められない現象なのか、水面下で誰かが力を貸しているのか。誰が力を貸して、誰が関わらなかったのかを精査する必要がある。右派のポピュリストに力を与えた人びとに説明責任を負わせるべきだと、私は考えております」

 

【コリン・ウッダード氏】

ウッダードアメリカの自由民主主義は危機に直面しております。かねてからこういう動きがありました。

 アメリカは、構造的に脆弱性があります。建国以来、近隣国との共通の倫理や共通の宗教、歴史が構築できず、祖国というものを確立できなかった。さまざまな国が集まったヨーロッパと、同じような面があります。

 独立宣言の中で自由、平等がうたわれています。自由民主主義は政府にも少数派にも担保されています。トランプニズム、ポピュリズム、どのような名前でもいいわけですが、それはアメリカの安定性に危機を及ぼしています。私たちは団結した合衆国ではありません。それぞれの意図・理想・目的のある“州”がつながったものです。

 17世紀にヨーロッパの植民地政策が展開されました。北米の植民地は、フランス、イギリス、オランダ、スペインなどからそれぞれ入植しました。それぞれ独自の宗教や政治を(このあたりからのメモを紛失)」

西村「ウッダードさんの歴史の解説は示唆に富むものです。アメリカの歴史をひもとけば、アメリカにおける対立はリベラルと保守などではなく、自由とは何かという定義をめぐる対立がアメリカの対立軸だと。ひとつは共同体の自由、もうひとつは個人の自由。ふたつの自由をめぐる対立がアメリカの対立軸で、過去の共和党民主党の対立もそこに重なっている。

 何でトランプが勝ったのかと言いますと、トランプは伝統的な共和党の候補者の主張をがらっと変えて、政府がインフラや製造業を再建するとか労働者を移民から守るべきだとか訴えた。共同体主義的な主張です。そのことによって、オバマに投票した人たちがトランプに移行してトランプが勝利した」 

11の国のアメリカ史――分断と相克の400年(上)

11の国のアメリカ史――分断と相克の400年(上)

11の国のアメリカ史――分断と相克の400年(下)

11の国のアメリカ史――分断と相克の400年(下)

佐藤優氏】

佐藤「私はちょっと下世話な話をします。日本におけるポピュリズムというと、やはり小泉純一郎政権だと思います。そして田中真紀子さんの登場。あのおかげで、私は東京地検特捜部に逮捕されました(一同笑)。やっぱりポピュリズムによって逮捕された。それを教えてくれたのは取り調べの検察官なんですよ。われわれは法律の専門家だけど、どのレベルで逮捕するか決められなくて、驚くくらいハードルが下がってると。ひと昔なら鈴木(鈴木宗男)さんの400〜500万の金は誰も問題にしなかった。しかし世の中が許さなくなった。私は、それじゃあワイドショーや週刊誌の中吊りで基準が決まるのかと言ったら、そうだと(一同笑)。そういう国なんだよって。私は運が悪かったとあきらめるしかないねと言ったら、検察官はうんそうだね。私は512日間牢獄に入れられて、最後は両隣が死刑囚ですから(一同笑)。

 よかった面もあるんですよ。当時は北方領土交渉をやってたんですが、説明しないでやったら密室外交と言われた。その後、日本の外交は変わりましたよ。ホームページですぐに交渉の内容を開示するようになった。密約についても事実を明らかにした。国民に開かれた外交というのは、鈴木宗男事件がなければなかったんですね。そして私自身がこの場にいるというのも、ポピュリズムの助けがなければなかったですよ(一同笑)。東京地検に逮捕された元官僚が、論壇に出てくる人はひとりもいなかった。マーケットで私を後押しする人が一定以上いたから、私とかホリエモン堀江貴文)さんにもチャンスが回ってきた。私はポピュリズムのおかげでひどい目にも遭ったけど、裨益した部分も大きいし、外交が開かれるようになった。ポピュリズムは必ずしも悪くない(一同笑)」(つづく)