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長谷川和彦監督 トークショー レポート・『にっぽん戦後史 マダムおんぼろの生活』 (2)

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【『神々の深き欲望』(2)】

長谷川「(沖縄ロケは)2年目で、1年目のこと知らないまま現場へ行って、制作部でなくて総務。若い衆と雑魚寝した。でも逃げたり金策行ったりで(スタッフが)いないから、おれが制作部のトップ。何千万ドルの制作費を持って、みんな逃げないようにパスポートをガジュマルの木の下に埋めた。おれがしっかりしないとこの映画できないなって。

 ちょうど20違うんだ。今平さんが42で、おれが22。いや、このころに戻りたいね。

 『神々』(『神々の深き欲望』〈1968〉)は独立プロでつくって、評価はそこそこあったけど、普通の人が3、4か月で撮るものを足かけ2年かけてつくって、当然赤字。賞は取ったけど、あの人は取り飽きてた。“賞は金にならない”って言ってたよ」

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【『にっぽん戦後史 マダムおんぼろの生活』】

 集大成的な大作『神々の深き欲望』の公開後、ドキュメンタリー『にっぽん戦後史 マダムおんぼろの生活』(1970)がスタート。東宝系列のニュース映画会社・日映新社の製作であった。

 

長谷川「『神々』は68年で、『マダム』は70年。取りかかったのはすぐ(後)だろう。おれはその年の後半に(今村プロを)逃げ出してにっかつへ行く。

山崎「おれも声かけられた。Bカメに来ないかと、ゴジから電話があったんだよ。今平さんが撮影の生意気なの呼んでこいと言ってた、と。スケジュールが合わなくて」

長谷川「今平さんは山のこと気にしてたよ。イエスマンより一家言ある人のほうが好きなんだ。

 きょう初めて見た方で、おもしろかったという人? じゃあ、つまんねえなって人?

 おれは、スタッフなのにつまんねえなって思った。やろうとしてトライしたことがうまくいかなかった。

 今平さんとおれは同族嫌悪。ともに末っ子で甘ったれのガキ。日本の教師を題材にドキュメンタリーをやるぞと、教員を集めて一席設けて。今平さんのお兄さんが小石川高校の先生やってて、お兄さんは今平さんをひと回り大きくしたみたいで、“おい、昌平。酒つげ!”今平さんが“うん”。こいつ、おれじゃんって。

 末っ子のいばりんぼうなのは似てるけど、彼は家父長志向に走って、おれは家父長逃亡者。おれは子どもにパパって言われるのも厭でゴジって呼ばせた」

山崎「今平さん(の作品)は強い女が必死に生きてる。女性の主人公が多い。ゴジは男しか撮ってない」

長谷川「彼は学校(日本映画学校)をつくることも含めて、家父長であることを貫徹したんだな。おれが逃げまくってた世界をやった。

 『人間蒸発』(1967)では失踪者をさがすというコンセプトで、これはフィクション。ドキュメンタリーをまとった今平世界で、豪腕でやるなこの親父と思って見てたが、大学2、3年だったかな。ATGとしては興行的に成功だった。露口さんは道具に使われた。『にっぽん戦後史』ではおれを露口にしようとして、“母親はおれが行くから、娘はお前行け”と。今村プロのライトバンじゃ雰囲気出ないから(レンタカーを)借りていいかって言ったら、今平がバカにして“やれないのか”って。だが、今平は行かなくて、おれは娘とやったのに。おれはテープ引きちぎって棄てた。よくその後もつきあったよな。甘えんぼうの今平くんが家父長づらしてるけど、あれが限界」

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長谷川「おれが抵抗感あるのは、古い言葉だと社会派だから。『にっぽん戦後史』でも冒頭に屠殺場が出てくるけど、若い人は意味判らないかな。被差別部落が屠殺業者に関わってるということ。被差別の末裔であるという意味なんだが、東宝だからあれ以上のことに突っ込めないし、突っ込まない。

 最初はニュースの再編集の仕事で、おいらのギャラも日映からもらう。今平は(額を)決めようとしやがった。今村プロは3万と言ってたのに、おれは8万とった。それくらい当然なんだ。今平の家父長制は不愉快だったな、うちの若い者はぼくの言うことなんでもきくんですよって。

 “ドキュメンタリーってのはゴジ、面白い素材さえ見つかければ、誰が撮っても面白くなるんだよ”って。おれが面白いって思うことは正しいぜって言ってるのがある。ただ(屠殺場のシーンは)生理的にダメだよな。あのときおれ、現場にいたんだよ。キャメラが回ってなかろうが、ああいう現実は存在する。だが、おれはダメだな。あの屠殺場をを見たら、肉は食えんぞ。こんなことして肉食ってんだって思うもんな。劇映画でも動物が本当に死ぬなら撮らないな。『太陽を盗んだ男』(1979)でもネコ1匹死んでるけど、あれはまたたびで死んだふり。助監督の相米相米慎二)に命じて。人間の役者にもあれくらいの芝居してほしいもんだが」(つづく) 

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