1960年代の江ノ島。水泳の得意な小学生のなぎさ(松田まどか)は叔母(根岸季衣)の働く海の家でバイトしたり、初めてパーマをかけたり、裕福な友人(稲坂亜里沙)にからかわれたり毎日が忙しい。あるとき海岸で病弱な少年(佐々木和徳)に出会い、水泳を教えて初めてのキスを交わす。
団鬼六原作『花と蛇』(1974)、『生贄夫人』(1974)、『箱の中の女』(1985)などのにっかつロマンポルノ作品を手がけた小沼勝監督が初めて撮った児童映画『NAGISA』(2000)。青春の入り口に立った主人公を軽やかに描いた佳作で、生き生きと泳いだり駆け出したりする役者さんを見つめる映像にはロマンポルノ作品の躍動と共通する視線がある。
筆者は『NAGISA』を公開の翌年(2001年)にいまはなき映画館(吉祥寺バウスシアター)にて見ているのだけれども、以後なかなか再上映の機会がなかったらしい。この10月から渋谷で小沼勝監督作品の特集上映が行われ、初日に『NAGISA』がかかり、小沼監督と主演・松田まどか氏のトークショーがあった。小沼監督と松田氏は午前の回をごらんになっていて、筆者が来たときには、ちょうど見終えて久々の対面で挨拶をされているところだった(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。
上映後に、司会を務める評論家の上野昂志氏が「当時、あの小沼さんがこういうのを」と水を向けてトークが始まった。
小沼「忘れた…(一同笑)。速いですね、最近忘れるのが。(前作から12年ぶりの空白があり)そんなにあった?」
松田「きょうの朝11時の回に間に合って、監督といっしょに見ていて(主人公・なぎさは)私であって私でない感じ。この作品はほんとにいい作品です」
松田氏は『NAGISA』にてデビューし、キネマ旬報ベスト・テン新人女優賞・報知映画新人賞受賞。映画『スウィングガールズ』(2004)、『夜のピクニック』(2006)、『きみとみる風景』(2015)、テレビ『花ざかりの君たちへ』(2007)などに出演している。
【出会いのエピソード】
松田「撮影前に2週間みっちり稽古して、監督とすごく長い時間いっしょにいて。それでスクリーンの中で松田まどかとしてでなく、なぎさとしていられたのかな」
小沼「それまであった方はオーディションずれしていて、入ってくるときに「おはようございます」ってあいさつばかり上手だった。何と言って入ってきた?」
松田「おはようございますは言えなかったです。初めてのオーディションで、どうして夕方におはようって言うのかなって。ぼけっと入っていったんじゃないかな(笑)。
お芝居は経験ゼロ。オーディションでは新宿御苑でひたすら走ったことも。走る姿だけは日本の女優の3本の指に入ると言っていただきました(一同笑)」
小沼「おれも記憶にあるもん。この人、割と天狗になるタイプなんだよ(一同笑)。だから天狗の時間がいいって、早い時期に判った。
いろんなお芝居のリハーサルは、先輩たちの(現場)とか見てきたから見当はつく。人によっては何でそういう手垢のついた芝居して、さっきの○○さんと同じだとか。はい次の人って言うと「おはようございます」ってどこで練習したのかって気取った人も多いわけさ。そういうところから、ぼくの人生は始まってる。ぼくは下手な芝居をつけるのが難しい」
松田「私の事務所の先輩で『××』とかに出てる子もオーディションに来てるんですけど、私は挨拶もできない。監督は選んだ理由を記者の人に訊かれて「昭和のにおいがして海が似合う」って言われていて、私は複雑で(笑)。でも私も昭和生まれですけど、いまはお仕事してると平成生まれの人も成人してて平成!?って。
オーディションには水泳もあって、私はスイミングスクールに行ってたけど岐阜の生まれで海水浴に行ったのは2回だけ。でもきょう改めて見て、江の島育ちっぽいなって(笑)」
【撮影現場でのふたり(1)】
撮影が行われたのは1999年の夏(公開は2000年)。
小沼「事務所で多少練習して媚びたりするけど、この人はそういうのなくて。現場でも「まどかーっ」って怒鳴ってた。耳に残ってるでしょ?「どこ行った、まどか」ってちょっといなくなるとさがして」
松田「厳しいと言われる小沼組ですけど、私はすべてが初めてで映画ってこういう世界なんだなって感覚が強くて。小沼組の後の現場は全部らく(笑)。ありがたいことに鍛えていただきました。私はにっかつ時代を知らないですけど、小沼監督には愛があってそこまで厳しいとは…」
小沼「愛なんて、そんな難しいこと…(一同笑)」
泳ぐシーンも多い。
松田「泳いでるのは江の島じゃなくて下田です」
小沼「けっこう荒いところだよね」
松田「撮影の合間に海に残されてて「大丈夫?」って言われて、でも大丈夫じゃないって言っても助けられないなって」
前半に主人公と友人(吉木誉絵)が砂浜で「恋のバカンス」を唄って踊るシーンは印象的。
松田「ゲリラ撮影みたいに、いっぱいの海水浴客の方々に混じって、カメラは引きで遠くにいて、私とのりちゃんが取り残されて唄う。けっこうはずかしかった記憶があります」
小沼「(周囲の)みんなに見てもらいたかったんですよ、寄ってくるとか。意外と気にしてくれなかった。あれを撮った場所は江の島の表通りというか」(つづく)
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