私の中の見えない炎

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風祭ゆき × 中田秀夫 トークショー(小沼勝監督特集)レポート・『妻たちの性体験 夫の眼の前で、今…』『サディスティック&マゾヒスティック』(1)

 午睡の最中に、家に侵入してきたふたりの男に乱暴された人妻(風祭ゆき)。だがそれは罠にはめられた夫(宇南山宏)の公認する事態であった。夫婦の周囲にはさまざまな思惑が渦巻いていた。

 巨匠・小沼勝監督のにっかつロマンポルノ作品『妻たちの性体験 夫の眼の前で、今…』(1980)は過激なシーンに加えて、凝った演出と二転三転するシナリオ(脚本:小水一男)が面白い快作。前半のサスペンスタッチもいいが、主人公と若い学生たちがすれ違う際に浮かぶ妄想シーンやクライマックスの襲撃などユニーク画面設計は強い印象を残す。

 渋谷にて小沼監督の特集上映が行われており、『妻たちの性体験』の上映と主演・風祭ゆき氏と、小沼監督に師事した中田秀夫監督とのトークショーが行われた。

 風祭氏は『女教師 汚れた放課後』(1981)、『性的犯罪』(1983)などロマンポルノ作品に主演し、ほかに『セーラー服と機関銃』(1981)、『キル・ビル』(2003)、『アキレスと亀』(2008)などの一般映画にも多数出演。『妻たちの性体験』『セーラー服』では、いまの筆者などより若いのだが、何だか年上の女性のような大人びた色香をふりまいている。 司会は映画評論家の高崎俊夫氏が務める(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます)。 

風祭「大きい画面で久しぶりに見られて、ニュープリントにしていただいて幸せです。何年経っても、みなさんにいちばんいい時期を見てもらえる。幸せな仕事をしてるなって思いますね」

中田「(にっかつに)入ったのは1985年。ぼくは80年に大学に入って『妻たちの性体験』を亀有名画座で拝見して。(ポルノを)朝9時台から夕方まで見ていて(笑)。ぼくがにっかつに入って3年くらいでロマンポルノは終わった。(助監督として)ついた7本のうち3本が小沼さん」

 

【『妻たちの性体験 夫の眼の前で、今…』(1)】

風祭「当時テレビを何本かやっていました。朝ドラのオーディションはいいところまで行っても、最後まで残れない。そのころ「週刊プレイボーイ」のグラビアでグアムへ行けるっていうので、母親をマネージャーにして行ったら(それを見た)にっかつの人からお話があって。

 もう25、6歳。18、9ならともかく。「私はできません」って言ったら、当時、大島渚さんの関連事務所にいたんですが「何言ってんだ。役者は土方、肉体労働者だよ。体操だと思ってやりなさい」と言われて「はい」と納得(笑)。いまはいい映画学校に行ったなって。

 主演の女優さんが決まっていたけど降りられて、私に白羽の矢が立って。いま見るとハードですね。見てて疲れちゃいました(笑)。

 小沼監督は自分でやってみせて、リハーサルもちゃんとやる」

中田「監督は、助監督も役者も家へ呼んでリハーサルをする。最後はパーティになります」

風祭「(劇中で)チャーハンをつくった記憶があるけど、見たら卵焼きでしたね。監督の自宅でリハーサルしました。私がブスッと悩んでいる顔すると「きみは悩んでる顔怖いから、口角上げて」って監督に言われて。「ぼくは新人をいっぱい育ててるから。映画は主演にかかってるから、綺麗に撮らなきゃいけない。きみの場合は口角上げて」って。それが私の座右の銘になっています。

 小沼さんは、ご自分でやってみせてくれるから面白い。主演女優に必要なのはこうだ!って。船の中のシーンでも「7回太ももが痙攣するようにやって。大人の女はそうだ」(笑)。前の日に練習したけど、うまくいかない。撮影で「こうですかね」「うーん」って。自分で考えるのが面白かったですね。何年か経って「監督は女を知ってるなって思いました」って言ったら「いやあ」(一同笑)」

中田「ぼくがついた監督で(自分で)やってみせるのは小沼さんと澤井(澤井信一郎)さん。女形型で(女性役も)自分がやってみせないと気が済まない。自分のことですみませんが、(11月放送の)『世にも奇妙な物語』を中谷美紀さん主演で撮ったんですが、娘の名前を呼ぶ演技をやってみせたら快感で、美紀さんに笑われてスマホで撮られた。自分でやりたい、自分も女優になって出たいという倒錯した欲求がある(笑)」

風祭「これを監督がやったんだと思って見ます(笑)」

 

 ロマンポルノはオールアフレコ。

 

風祭「最近テレビを見ていて(同録だと)リアルさがない。アフレコだからこそ、ぼそぼそ喋るシーンもちゃんと(音が)入ってて、けっこうリアリティがあるなって」

中田「(『妻たちの性体験』の)録音は橋本文雄さん。『羅生門』(1950)にも助手でついていた方です。那須那須博之)さんの『ビーバップハイスクール』(1985)、ぼくの『リング』もアフレコ。俳優さんに現場を思い出してもらって、やる。小沼監督はアフレコで喘ぎもやる」

 湘南の海の明るさは印象的。別荘の上の空や、学生たちが主人公を何度となく盗み見るシーンの空は突き抜けるようである。

 

風祭「湘南の青空がスコーンと抜けてて、青春映画のにっかつでしかありえないですね」

中田「風祭さんと学生がすれ違うシーンでは、幾何学的な道路がありますね。あまり開発が進んでいない」

風祭「また行ってみたいと思ってたら、もう造成されてないらしいんですが、いい場所でしたね」(つづく

 

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