――(引用者註:映画『グッドモーニングショー』〈2016〉)澄田キャスターを取り巻く環境はもちろん、そのほかの番組スタッフたちの番組作りにかける姿勢も、みんな真剣に取り組んでいるのだけど、真剣だからこそ可笑しかったです。
君塚:澄田がいじめられるというのもそこですよね。知らないうちに巻き込まれていって、自分の意思に反してどんどん大事になっていく。他のキャラクターも特に意識していないのに、客観的に見るとクスッと笑える。
――中井(引用者註:中井貴一)さんには「いじめられる」というテーマは伝えられたんですか?
君塚:そういう言い方はしませんでしたけどね。テイクが終わる毎に「ウディ・アレンみたいで格好良いですね!」とか言っていました。でも、後半になるとだんだんわかってきたみたいですよ。どうも俺はそういうリアクションを求められているなって。それで中井さんはやっていけちゃう方だからすごい。日本を代表する役者さんだけど、喜劇で思いっきりやっていただけて嬉しいですよね。
――話題は大きく変わるのですが、東日本大震災を経て『遺体 明日への十日間』を作られた際に「エンターテインメント作品を作っている場合ではないと感じた」と仰っていました。そこから、この作品を手掛けるにあたり、何か新たな思いがあったのでしょうか?
君塚:この作品を手掛けるまでに3年かかったのはそこにあります。今でも3月11日やお盆の時期になると東北では上映されている劇場がありますし、上映会などもやってくれています。これはセルフプロデュースの問題なのですが、震災があったから『遺体』という映画を作ったのだけど、その後すぐに犯罪モノを作りますというのは僕の中であり得なかったんです。それは取材をした遺族の方や被災者の方に「素材として面白いから作った」と誤解されるのだけは避けたかった。それを解決するのは時間しかなかった。一方で、新しい作品を作ろうと思うと、来るオファーは震災や原発をテーマにしたモノばかりだった。もちろん僕は生涯をかけてあの作品に責任を持っていくのだけど、それをまたやるのもどうなのかと考えているうちに、リーディングプロデューサーチームが「もちろんあるところの社会は見つめつつも、今度はパッと楽しいモノを作りましょうよ」と言ってくれた。それが2年経った頃で、きっと時間が経ったことも手伝って、今回の作品に挑むことができました。
――この作品が完成されたときはどのような思いでしたか?
君塚:実は、僕の監督作品として喜劇は初めてなんです。いつもは本広(引用者註:本広克行)監督とかが僕の本を上手く描いて笑わせてくれていたのだけど、お笑いの演出というのは難しかったですね。できあがってゼロ号試写や初号試写をやってもウケやしないんです(笑)。みんなある種の品定めをしているし、スタッフは自分のパートを観ていますから。本当に一般観客の前に出したときに笑ってもらわなくちゃいけないから、未だに感触は掴めていないです。
――喜劇としてどのようなことを意識して作られたのですか?
君塚:本広克行監督にいろいろなアドバイスをもらいました。現場でスタッフがウケていても劇場で必ずしもウケるとは限らないと聞いていたわけです。それはどうしてかというと、スタッフはリハーサルを重ねているから本番を迎えるわけですが、何度かリハーサルして、3回目に偶然テーブルなどに膝をぶつけたらスタッフは笑うんです。それは前の2回がフリになっているから。最初からそのシーンで膝をぶつけて「イテテ」とやってもウケない。そういった間違いがコメディでは起きがちだと。それで本広監督に相談すると「いろんなパターンを撮っておいて、編集マンに初めて見てもらって、一番面白いヤツを使ってもらう」と言うんですよ。それは監督としてどうなのかなと思ったけど、本広監督は「僕は『踊る』(引用者註:『踊る大捜査線』)では絶対にウケなくちゃいけないところはそうやっていた」と言う。それで、そういうやり方もアリなんだと考え直しました。
――俳優さんたちにとっても難易度が高そうですね。
君塚:中井さんとも話していたのですが「こういう喜劇みたいな作品の塩梅が一番難しい」と。実際に一生懸命生きている人がちょっと間違えたり、ちょっと考え方がずれていたりするという、そのリアリティを出すのは中井さんも苦労されていましたね。ただ、中井さんは腕のある方だから、何パターンも撮っていないんです。彼はスクリーンに映ったときにどれくらいの塩梅になるかわかっているから。それも中井さんが自分の中で考えてきて、このシーンはやり過ぎない、このシーンは顔を作り込む、このシーンはオーバーに、何もしなくても空気が面白いとか、そういうのを全て判断されていて流石だなと思いました。
――中井さんに君塚監督の印象を仰っていて、今作で監督としてやっていくと宣言されたのかなと仰っていました。
君塚:君塚組はこの3~4作品がほとんど同じスタッフなんです。だから僕がどうしたいのかというのが全部わかっているので、僕は全体的なことを言うだけで、カット割りも撮影監督がやるし、照明もやってくれるし、何も言わなくてやってくれる。いろんな出演者の方々も「良いチームですね」と言ってくれました。きっと、中井さんは、スタッフやキャストに任せられる監督になったということを仰っていたのかもしれないですね。
というのは、監督として自分の色を出したくなるけど、それぞれのプロの才能に任せてやっていくことも大事だということが徐々にわかってきました。だから、今回はマネージメントみたいな感じなんです。スタッフ、キャストにできる限り良い環境を作ってあげて、そこで才能を発揮してもらう。中井さんはいろんな巨匠やベテラン監督などの元でやってこられていますから、それができて本当の意味で監督と言っているのかもしれない。本当に優れたスタッフに出会えて、こうやって参加してくれてありがたいです。
――最後にメッセージをお願いします。
君塚:今回は身近なワイドショーを舞台にして、とにかく笑えて、ハラハラドキドキできるモノにしたいと思いました。それは映画の原点だと思うんです。映画を観ている間は、この映画の世界に振り回されて、出演者の人たちと一緒に笑ったり泣いたりして、心から楽しんでいただきたい。それで見終わったあとに「テレビというメディアって何だろう?」「マスメディアって何だろう?」とか、そういうことを少し感じて貰えたらありがたいかなと思います。