私の中の見えない炎

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長谷川和彦 トークショー レポート・『太陽を盗んだ男』(1)

 原爆をひとりでつくった高校教師(沢田研二)が日本政府を脅迫。彼は自ら被爆しながら、刑事(菅原文太)たちと飄々と凄絶に戦う。

 日本映画史を代表する、長谷川和彦監督のサスペンス映画『太陽を盗んだ男』(1979)。国立映画アーカイブのディレクターズ・カンパニー特集で昨年10月にリバイバル上映され、長谷川監督のトークもあった。聞き手は映画評論家の三留まゆみ氏が務める(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。

長谷川「(今回の特集で)会ったのは石井聰互と根岸(根岸吉太郎)だけなんだよな。井筒(井筒和幸)のときはおれが寝過ごしたんだ。井筒だから会いたかったんだけどな。あの野郎(一同笑)」

 

【『太陽を盗んだ男』について (1)】

 長谷川氏が「初めて見た人?」と問うと、意外と多く手が上がった。封切りで見たという人もいた。

 

長谷川「文太さんの役は、最初は健(高倉健)さんだったけど断られたんだ。「監督、自分は原爆をつくるほうの役は無理ですか」って言うんだ(一同笑)。そりゃそうだよ、健さんに2番目の役を持ってく奴はいないよな。この映画はふたりが主役なんだけど、でもトップは原爆をつくる男だよ。ただ、はい判りましたともさすがに言えないよな。若い奴がふらふら原爆をつくって、その前に不動明王のように立ちはだかって阻止する役をやってほしいって言うと、結果的に断られた。健さんに断られて文太さんに声かけるおれもかなりイージーだが(一同笑)。

 文太さんは新宿で飲み仲間で、フランクないい人でね。この映画はの主演はジュリーでって言ったのも文太さんだしな。健さんに頼んで断られたけどとは、さすがに言わんよ(一同笑)。ただ何年か経ってどっかで喋ったら伝わって「おれは健さんの代役だったのか」って言われたことあるよ。

 企画を持ってったら「面白いじゃないか。主人公は誰がやるんだ?」って。そのころショーケン萩原健一)にも持ってったけど生意気言うんで「いらねえよお前は」と(一同笑)。オーディションで無名の新人をさがすかと思ってたときに、文太さんが「ゴジさん、ジュリーなんかどうだ。『悪魔のようなあいつ』(1975)を書いたんだろ。つき合い、あるんでしょ」って。沢田は『悪魔のようなあいつ』(の脚本)でつき合ってるからな。この役はもうちょっと男くさい奴じゃないかと思ってたから声かけてなかったんだけど。そうか、文太さんに言われて沢田もあるよなと。次の日に言ったらふたつ返事で乗ってくれて、いちばん売れてるころだな。マネージャーが後ろにいて。「頼むぞ」って来月にもインしたかったんだけど、それから1年半待ったよ。スケジュールが空くまで。おれの条件が3か月まるまる空けろ、だからな。歌番組に出るのはよろしい、生放送の時間だけ差し上げるけど、あとはオープンにしてくれと。文太さんともスケジュールを合わせなけりゃいけないしな」

 

 劇中でジャンプする車に乗ったスタントマンの大友千秋氏が、場内にいらしていた。

 

長谷川「実際のロケでは死んだと思った(一同笑)。跳びすぎて頭から突っ込んで、あのとき怪我したっけ?」

大友「してないです」

長谷川「おれが助監督のころからのつき合いだったマイク三石(三石千尋)というスタントマンがいて、そこのいちばんの若手の希望の星が大友だったんだよな」

大友「絶望でした」

長谷川「せっかく誉めてやろうと思ったのに(一同笑)。大友、いくつになったっけ?」

大友「75歳です。監督のふたつ下です」

長谷川「このとき31歳か。この(危険な)シーンはマイクの提案だよ。「ゴジ、面白いことやりたいから、こういうのはどうだ」って提案してくれたんだな。普通は跳ばねえよな。何で跳んだんだ?」

大友「金ですね(一同笑)。車1台分ぐらいもらいました、ぽんこつですけど」

長谷川「いま見ても迫力あるな。この後で文太さんの顔にガラスが当たるだろう。あれはよく目にガラスが入らなかったな。意図して撮ったんじゃないんだよ。紫煙の火薬であんなになっちゃったんだよ。文太さんは立派な俳優で、普通は「あぶねえ!」ってなるよな。目に入ったら大怪我だしな。偶然の産物なんだよ。映画って難しいよな。普通のうるさい役者だと「あぶねえじゃねえか。もうやらないぞ」ってなるんだけど。

 文太さんがヘリコプターの足にぶら下がるシーンは、ロングでいちばん高いところは文太さんじゃないよな。あれはスタントマンで、寄りになって飛び降りるのが文太さん。「監督、2メートル半までね」って言ってたけど、やってみたら結果7メートルぐらい(一同笑)。飛び降りて「いてて」って言うのも半分は芝居じゃないんだ。文句を言わずにつき合ってくれたね。沢田ももちろん頑張ったけど、文太さんが頑張ってくれたから完成したようなもんだな」(つづく

 

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