――料理番組ばっかり(笑)。自分でも作るんですか?
三谷 テレビを見て、これはおいしそうだと思うと作りますね。今まで意識せずに食べていたものも「ああ、こうやって作るんだ」というのがわかって面白いですよ。この前、きんぴらを作ったんですけど、あの味はこうやって出していたのかって思いました
――料理にハマって執筆が滞るなんてことは…? しつこいようですが。
三谷 ありませんね。むしろ、気分転換になっていいです。僕はホントに趣味がないし、映画とか観てても、どっか仕事につながってますから、なかなか気分転換ができない。その点、料理はいいんですよね。それにそんなに凝ったモノは作りませんから
――お得意の料理は?
三谷 グッチさんの番組を見て作ったシャケご飯はおいしかったですよ。それから、滝田栄さんの『料理バンザイ!』で覚えたトリッパの煮物みたいなものとか、筑前煮も。あと、妻に好評だったのが、えーと、あのカリフラワーみたいで緑色のヤツ、何でしたっけ?
――え、ブロッコリーですか?
三谷 そうそう。それをパスタのペペロンチーニに入れるとおいしいんですよ。このところ、あんまり人と会ってなかったので、言葉が出ない(笑)
――早く稽古を始めてリハビリしなくちゃ。
三谷 でも、こうやって取材で人と会って話をするのもリハビリになりますよね。妻が仕事に行ってしまうと、家にいるのは猫と僕だけですから。猫とも会話はしてますけど、心の中でのやりとりで、実際に口に出してやってるわけじゃないですから
――実際にしゃべってたら、ちょっとコワイですよ。ところで、作品について少し詳しくうかがいたいんですが。『温水夫妻』は、戸田(戸田恵子)さん演じる温水夫人の元カレが太宰(太宰治)だった…という話だとか。
三谷 ええ、結婚して思ったんですが、夫婦って案外、お互いに知り合う前の過去を知らないですよね。自分も話さないし、向こうも言わないし、聞こうとも思わないから。でも、気にはなるんですよね(笑)。で、自分の奥さんが昔付き合ってた人が誰だったらいちばんショックかなーと考えているときに、太宰治が浮かんできたんです
――太宰でコメディとは、意外な発想。
三谷 太宰って『人間失格』のイメージが強いし、写真を見ても深刻そうな顔してますよね。女の人とすぐ心中したり。それを逆手にとることでコメディにできるなと思って。でも、いわゆる太宰治伝にはならないですけどね(笑)。ちなみに、タイトルはヒッチコックのコメディ映画『スミス夫妻』から考えました
――『マトリョーシカ』は? これ、ロシアの民芸品の人形のことですよね。
三谷 そうです。どんでん返しに次ぐどんでん返しが、人形を開けたらまた人形が入っているマトリョーシカのイメージに重なったのでつけました
――内容はやっぱり秘密?
三谷 はい。一切伏せてます
――せめてヒントを。
三谷 うーん。ヒントはですね、アンソニー・シェーファーがミステリー作家と作家の妻の愛人とのだまし合いを描いた『探偵スルース』かな。『バイ・マイセルフ』の稽古を見に行ったときに、幸四郎(松本幸四郎)さんと染五郎(市川染五郎)さんでああいうものをやったら面白いだろうなと思ったのが発端なので
――コメディなんですか?
三谷 笑わせたいとは思っていす。でも今回の2本は、今までやってきたコメディとは多少毛色の違うものになると思います。だって、せっかく復帰するんだから今までと違うものがやりたいじゃないですか
――それにしても、新作を2本続けて作・演出するなんて、今年の三谷はちょっと違うゼという感じ。
三谷 生まれ変わりましたからね。来年は、念願のミュージカルをやろうと思っていますし。僕の人生前半のクライマックスになりそうな気がしているんです。でも、今回、新作がふたつ重なっちゃったのは、もとはと言えば幸四郎一家のせいで、自分で狙ってやったことではないんですよね。あ、もちろん僕は、こういう機会を与えられて本当に嬉しいと思ってますよ(笑)
5人のライバル
その1 橋田壽賀子(脚本家) 大河ドラマを書き『笑っていいとも』のレギュラーにもなった橋田さんには嫉妬を感じますね。僕も大河ドラマを書きたいんですよ。ナインティナインの岡村(岡村隆史)くんで「太閤記」をやりたい。ところで “壽賀子” ってどう書くんでしたっけ? 平仮名じゃマズイですか、やっぱり
その2 ティム・ロビンス(俳優/映画監督) 海外の映画祭に行ったときに通訳の女性に「似てる」と言われて好きになりました。妻もそう言います。ついでに、自分は彼の奥さんのスーザン・サランドンに似てるって。通訳さんが言うには、彼らは “ハリウッド一頭のいい夫婦” 。夫婦としてのライバルですね
その3 菊田一夫(劇作家/演出家) 日本のミュージカルを作り、幸四郎さんともお仕事をなさり、筆が遅かったという菊田さん。日本のミュージカルは菊田さんが作って僕が葬る…んじゃなくて、菊田さんがブロードウェイ作品を日本に持ってきたように、僕は日本発の作品を海外に持っていきたいですね
その4 カール・ルイス(元陸上選手) 彼とは、単に歳が同じなんです。やっぱり気になりますからね、同じ歳の人の動向は。この後、どうするんでしょうね。あと僕、こどものころ、足がものすごく遅くて、50メートル9秒8っていう記録を持ってるんですよ。やっぱり僕の永遠のライバルですね、彼は
その5 野田秀樹(劇作家/演出家) 前に一度、野田さんが僕の芝居を観に来たときは “勝った” と思ったんですが、その後、唐沢君が出た彼の芝居を観に行ってしまい、一勝一敗です。唐沢君には、どっちのファミリーなのかハッキリしろと言いたい。ま、僕の本当のファミリーは妻だけなんですけどね
以上、「WEEKLYぴあ」1999年2月8日号より引用。