近年は舞台や映画監督のイメージの強い三谷幸喜は、1990年代から2000年代前半までテレビドラマのシナリオを多数手がけていた。『古畑任三郎』シリーズ(1994〜2006)や『王様のレストラン』(1995)などは代表作だが田村正和、鈴木保奈美、筒井道隆、鶴田真由など豪華キャストが結集した『総理と呼ばないで』(1997)の視聴率は低迷。
以下に引用するインタビューは「週刊SPA!」1997年7月2日号に掲載されたものである。『総理』の終了後、初監督の映画『ラヂオの時間』(1997)のクランクイン直前で、三谷氏の揺れる心情が生々しく伝わってくる。
――今日はヒットメーカー、三谷さんの本音に迫りたいんですが。
三谷 ほっといてくれって感じなんですけど。
――まあ、そう言わずに(笑)。人気脚本家としてですね…。
三谷 かなり今、下火になってます。雑誌についに「三谷夫妻、才能枯れた夫に見切りをつけた妻」という記事も出ました。事実無根ですけど。
――『総理と呼ばないで』の視聴率が気になります?
三谷 『総理と呼ばないで』が、万人に受け入れられるものだとは思っていなかったんですけども、こんなに拒否反応が起きるとは思わなくて。テレビの視聴者は保守的なんでしょうか。どう見ていいかわからないものは見ないっていう…。逆に、これはこういうドラマだなとわかるものは、安心して見てる感じがする。僕はヒットメーカーと言われるわりには、そんなにヒットしたものはなくて、唯一、視聴率がよかった『古畑任三郎』もパート2でやっと火がついたわけだし。
――刑事ものということですね。
三谷 だから見やすかったんですね、きっと。(視聴率の)数字はそんなによくなかったんですけど、『王様のレストラン』が話題になったのも、グルメものだったということと、傾きかけたお店を立て直すというのが『細うで繁盛記』のころからの一つのパターンなので、見やすかったんだと思うんですよ。『総理〜』をやる時に、すごく悩んだんですけど、だめになりかけた内閣を筒井(道隆)君の官房長官が立て直していく話にしようという案もあったんですけど、僕はそれはやりたくなくて。それだと『王様のレストラン』の政治版でしかないですから。
――でもそのほうが、見やすい。
三谷 そうなんです。でも、冒険する部分が全くないので、あえてそうしなかったんですね。そしたら案の定これですから。本当は、だめな総理大臣とその家族と取り巻きの、ある種のホームドラマで、シチュエーション・コメディをやりたかったんですよ。毎回、事件があって、それは解決するんだけど、それで誰かが成長することはなくて、翌週はまたみんな同じというような。そしたら、話が進展しないって投書がきて。でも『奥様は魔女』だってそうじゃないですか。それと、同時多発的にいくつかの事件が起きるというのも新趣向で。決して起承転結に収まらないというか。
――ちゃんと見てないとわからなくなりますね。
三谷 見やすくはないんですよね。でも、ちゃんと見てる人には、今までのパターンじゃないものなので、もっと面白く見てもらえると思って作ったんですけども…。方法論は合ってたけど、技術的にうまくいかなかったのか、方法論自体が間違いだったのかが現時点ではまだ判断つかなくて。悩んでますけどね、今後、どういうドラマを作ればいいか。かといって、万人に受けるようなものを魂を売ってまでやりたいとは思わないし。もっといろいろ冒険してみたいと思いますし。話、飛びますけど、テレビドラマって、みんな真剣に見てないから、必ずせりふで状況を説明しなきゃだめだって未だに思っている人が多いけど、やっぱりそれも違うような気がするんですよ。
――必要ないってことですか?
三谷 もう今は映画もビデオでどんどん見るようになってるし、テレビドラマも、そんなに親切じゃなくてもというか、視聴者を見下さなくても、真剣に見てくれるはずだと思うんです。説明せりふはいらないし、先が読める展開ばっかりじゃなくても、クオリティの高いものを作れば、お客さんはついてくる。でも『総理〜』はこけちゃったし、だんだん自信がなくなってきた。今後、僕はどうなっちゃうんでしょうか。
――…。ほかのドラマについては?
三谷 全部見てるんですけど、『総理〜』より見たいと思う作品は一つもないし。『総理』がベストだとは思っていませんけど、『ひとつ屋根の下2』の3分の1の視聴率というのは、解せない(笑)。
――『ふぞろいの林檎たち』(引用者註:『ふぞろいの林檎たちⅣ』)は?
三谷 あれは、やっぱり凄い、『総理〜』と並ぶと言っておきましょう。(つづく)