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田中陽造 トークショー レポート・『セーラー服と機関銃』(1)

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 女子高生(薬師丸ひろ子)が弱小暴力団の組長になって活躍する映画『セーラー服と機関銃』(1981)は、この年の配給収入1位の大ヒット作。普通の娯楽映画かと思って何気なく見ると面食らうような趣向(長回し渡瀬恒彦と風祭ゆきの濡れ場、ライティング、大胆な省略、生と死の考察…)が『セーラー服』にはあふれていて、批評家の樋口尚文氏はヒット作にして「アートフィルム」と評する(『シネアスト 相米慎二』〈キネマ旬報社〉)。

 同作の脚本家・田中陽造氏は、驚くほど多岐に渡るジャンルを手がける巨匠。『セーラー服』の相米監督とは名コンビで『魚影の群れ』(1983)、『夏の庭 The Friend』(1994)など5本で組んだ。

 1月にユーロスペースにて『セーラー服』のリバイバル上映と田中氏のトークショーが行われた。聞き手は映画監督・脚本家の井川耕一郎氏で、田中作品の造詣の深さには田中氏ご本人も驚いていた(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りなので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。

 【『セーラー服と機関銃』(1)】

田中「(『セーラー服』は)相米が頼みに来た。ぼくはタイトルがいいな、いいタイトルがあれば書いちゃえ。そのころは生意気だったから。原作(角川文庫)を読んでも、あまり面白いと思わなかったけど(一同笑)。薬師丸ひろ子(の役の名)が星泉で、柄本明の刑事がイズミホシって言ってひろ子がホシイズミですって訂正する。あのギャグは原作にもあって、あれは面白いなって。

 ぼくは『新仁義なき戦い 組長の首』(1975)を書いて(実際の)組長にも会いにいったけど、組では実子相続はない。若頭が組長になる。でも原作では実子相続で、違うな。

 (製作の)角川春樹さんはものすごくいい人(一同笑)。自分も出てます、金魚屋かなんかで」

 

 渡瀬恒彦風祭ゆきのベッドシーンは、短いながらも強烈。風祭は本作で重要な役所を好演している。

 

田中「渡瀬の役は、原作では大きくなかったけどちゃんと書かなきゃなって。愛人(風祭)と激しいセックスして、どしゃ降りの中で「やくざとは!」って叫ぶ。あれはつくりました。人の原作を脚色しておいて、オリジナルとは言えないですけど。おれたちはロマンポルノじゃないかっていうのが抜き難くありまして。セックスシーンを書いたら、相米が本気になって撮って。あのシーン、すごくいいですね。やった後、公園のブランコで薬師丸が愛人に「けだもの」って言う。あの演出の上手さね。あのシチュエーションはロマンポルノでも使ったけど」

井川「『ラブレター』(1981)と西村昭五郎監督の『「妻たちの午後」より 官能の檻』(1976)ですね」

田中「ああ、お見通しですね(笑)。でも相米がいちばん上手い。小雨が降ってブランコがゆらゆら揺れて、ああいうかけ合いもすごく上手いと思ったですね。

 少女が主役の映画なのに突然やくざが出てきて、ロマンポルノもある。その後どうやってお祓いしよう、清めよう? それで公園でブランコに乗ってる。

 ぼくは、揺れてる、セックスした後でブランコで揺れてる女が好きで」

 

 ヘロインの奪い合いを陰で糸を引く大立者・太っちょ(三國連太郎)は去に地雷で両足を失った。太っちょの口にする地雷についての台詞は、田中氏の色が出ているという。

 

井川「初稿ではないですが、決定稿では地雷が出てきます」

田中「あれは有名な拷問で、地雷は踏んでる分には爆発しないけど足を上げると爆発する。ぼくは直した記憶がないけど、地雷は初稿ではなかったんですね…」

井川「「地雷を踏んで3日間、死と隣り合わせの快感」と…。薬師丸の台詞「カイカン」は最初からあった。三國の「死と隣り合わせの快感」という台詞があると、意味が変わってきますね」

田中「ぼくが書きました。何を考えて書いたのかな。(自分が書いた)台本も棄てた(笑)。うちにないんです」(つづく

 

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