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河合美智子 × 伊地智啓P トークショー レポート・『ションベン・ライダー』(1)

 さらわれたいじめっ子(鈴木吉和)を追う少年少女3人(永瀬正敏河合美智子坂上忍)は、横浜でやくざ(藤竜也)と出会い、覚醒剤をめぐる戦いに巻き込まれていく。

 映画『ションベン・ライダー』(1983)は10代の冒険物語という骨格を持ちながら、世界にも類を見ない「革命的」な映画(『甦る相米慎二』〈インスクリプト〉)である。カメラマンがクレーンからクレーンへ移って撮る無理くりな長回し(移る際に画面はぐらぐら揺れる)、スタントを使わず俳優が橋桁から川へ飛び込んだり自転車からトラックへ飛び移ったりする過激なアクション(それを白けたようにロングの長回しで映している)、みんなで覚醒剤をまき散らして踊り狂うラスト…。

 さらには当初の3時間45分という長さを1時間58分に削ったゆえ、話の展開がよく判らなくなり、結果的に『ションベン・ライダー』は驚くべき奇作として仕上がった。 監督の故・相米慎二は、前作『セーラー服と機関銃』(1981)を大ヒットさせた直後。当てたから無難な方向へ行くのでなく、過激な路線へ舵を切ったのだった。

映画の荒野を走れ──プロデューサー始末半世紀

映画の荒野を走れ──プロデューサー始末半世紀

甦る相米慎二

甦る相米慎二

 この度、『ションベン・ライダー』を手がけた伊地智啓プロデューサーのインタビュー『映画の荒野を走れ』(インスクリプト)が刊行され、伊地智作品の特集上映 “相米慎二を育てた男 プロデューサー伊地智啓の仕事” が5月から渋谷にて行われている。初日には、伊地智プロデューサーとヒロイン役の河合美智子氏のトークショーが行われた。司会は『甦る相米慎二』や『映画の荒野を走れ』を編纂した木村建哉氏が務める。

 

河合「スクリーンで見るのは、20年ぶり。面白い作品だと思いました(笑)」

伊地智「こんなにたくさんのお客さんの中で見るとは。たくさんの人においでいただいて、嬉しかったです。何回も見ているのに、初めて見るような気になりますね。

 『ションベン・ライダー』は相米がやろうと言ったわけではなくて、私の手持ちの企画のひとつ。『セーラー服と機関銃』の大成功の後で、これはチャンスかなって企画を相米に与えた」

 

【オーディション】

河合「オーディションで伊地智さんにお会いしているはずなんですが、怖すぎて記憶から抹消したのかな。当時は何でこんなに怖い(笑)。いつか事務所で伊地智さんに怒られましたよね。「人の目を見て喋れ」って。怖くて見られないんで、伊地智さんの眉間を見てごまかして。最近は丸くなったけど、昔は笑っていても怒って見えました。

 オーディションでは相米監督の態度が悪すぎて。最初はテーブルに足載せて、次は床にゴザ敷いて横になって、毎回行くたびに下の方になっていく(一同笑)。その印象が悪すぎて」

伊地智「オーディション当時の河合は、山の中から出てきたサルかなと(一同笑)。脚が長いので目立ってたね。他にも候補はいたけど、そっちには目が行かなくて。最後に相米と顔見合わせて、これかなって。それが河合。

 面接では、顔を合わせた瞬間にこれって決めて、後は蛇足。お喋りしながら気持ちをつくっていく。河合に票を入れたのは、私と相米。他のみんなは呆れて、何であんなサルがいいんだって。以上です(一同笑)」

河合「カメラテストで私が梯子をいちばん上まで登ったからって、相米監督が」

伊地智「走らせたり、梯子を登らせたり、いろいろな角度から見て、自分で納得していくというプロセスでした」

河合「(オーディションでは)毎週2時間かけて、東京へ来ていたんです。ごはんも食べずに待たされて、不満たらたらでしたよ」

伊地智「よく判らないね(一同笑)」

 

【撮影現場 (1)】

 河合氏と先生役の原日出子氏が釣り場から川へ飛び込むシーンには、驚かされる。

 

河合「怪我は毎日でした。びっくりしたのは釣り場から落ちる場面。(完成映画では)何で落ちたか、判らないですよね(一同笑)。ジョジョ永瀬正敏)が厳兵さん(藤竜也)の帽子を落とす。それを取ろうとして落ちたんです。見えなくて判らない。

 1回テストで落とされたんですが、その前にぶらさがった状態が怖くて思わず手の力だけで上がり(よじ登り)ました。火事場の馬鹿力(笑)。

 原さんは当日、台本にないのに「生徒が落ちたんだから助けるだろ」って監督に言われて。だからすごく怒ってました(一同笑)。

 永瀬くんも自転車でトラックに飛び移るシーンで、自転車がタイヤに巻き込まれて死にかかったって。その場にいたみんな「あ、死んだ」って思ったと(笑)。

 木場のシーンではみんな(水へ)落ちてますけど、台本では2人くらいだけなんです。水の中はすぐ下が瓦礫で、足にすごい傷ができました。私、本番中にテストとは違うところで落ちて、水中で気を失って。通りかかった永瀬くんが引っ張り上げてくれて、おかげでいまここにこうしております(笑)」

伊地智「現場に姿を見せないのが、プロデューサーの極意(一同笑)。映像見てから言う。木場を走り回るシーンで、原は邪魔だとか(笑)。やたら横切ったり、あれは何とか目立ちたいという役者魂だね」

河合「誰かを助けようとしたんじゃないんですか」

伊地智「原はそんな顔してないよ(一同笑)。あの木場、あそこでは伊勢湾台風のときの遺体が当時まだ上がっていないと言われてた。でもそれを役者に言ったらえらいことになると(笑)

 撮影初日、ファーストシーンの現場にだけ行って、呆れて帰りました(一同笑)」(つづく

 

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