私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

榎望(榎祐平)トークショー レポート・『真夏の地球』(2)

【『真夏の地球』の企画・制作 (2)

 (赤坂の)事務所での打ち合わせに毎週行ってましたね。ほんとに気が重くて。井筒(井筒和幸)さんとか伴明(高橋伴明)さんとかにゴジ(長谷川和彦)さんとかに責められるんですね。こんなつまんねえことやってみたいな(笑)。村上(村上修)さんと近所の喫茶店に逃げたりしてました。

 (『真夏の地球』〈1991〉の)キャスティングも松竹の意向を強く汲もうという構えで、主役の菊池(菊地健一郎)くんだけは決まっていたんですけど。東京国際映画祭のディレクターをやってる市山(市山尚三)くんは当時26歳で、松竹の制作に入って1年目。この映画の目付け役で、スタッフにちゃんとギャラが払われているかとか。いまにしてみれば贅沢な配置だったと思うんですけど、ずっと現場にいて。キャスティングも市山くんで、金子修介さんの『1999年の夏休み』(1988)に出た深津絵里さんを見初めてキャストして。筒井道隆さんも呼んできて、彼らしい慧眼ですけど。事務所行政的にもよかったんですね。のちにブレイクして、公開のときにはブレイクが間に合わなかったんで効果はなかったかもしれませんが(笑)。深津さんは現場でも素晴らしくて、目を見張るものがありました。17歳かな。原田(原田貴和子)さんも育ちのいいというか、混入物のないというか(笑)。映画製作の背景はドロドロだったんですけれど(一同笑)。

 

【村上修監督】

 相米相米慎二)さんの場合は、田中陽造さんみたいな出来上がった脚本家の方以外は過酷で、徹底的に納得するまで進まない。現場に呼ばれて(脚本が)直らなかったらおれは撮らないって言い出すんですよ。3日でも4日でもここで待つって言ってて。『魚影の群れ』(1984)ではCGもなかったころなので、本物のマグロが出るまで撮らない。2週間ぐらい大間で碁を打ったり何もしないで過ごしてて、松竹の役員が代わる代わる行っても全く言うことを聞かなかったそうですね。それは本当なんだなと。

 村上さんの場合はご自分でも脚本を書かれるので、この映画でも村上さんのプロットが原稿用紙20枚ぐらいありました。キャラクターも筋立ても基本はできているんですね。ぼくは脚色しただけで。村上さんはおっしゃってなかったですが、一応第三者の目が入るといい面もあるので。相米さんなんか現場で勝手に直しちゃうんですけど、村上さんはそういうこともなく尊重してくれて。キャストが筒井道隆さんとか深津絵里さんとか決まっていくと、衣装合わせとかで会った印象で膨らませたいみたいなことを村上さんがおっしゃって、脚本直しはしました。相米さんみたいに細部を言わないで要求しつづける人とタイプは違いますね。

 作品によって監督の直し方が全然違うので。村上さんのつくった世界に沿って書いているんですけど。村上さんのプロットがあったとはいえ、キャラクターをつくって台詞を書かないといけないので。深津さんが決まって膨らませようってなったときに、いま小説を書いたりしていてもそうなんですけど、女主役でないと書けないんですね。400枚ぐらい書いて男主役や三人称から女性の一人称に変えて書き直したりしてる。女性のほうが書きやすいんですね。それもあって深津さんのキャラクターをつくるのに、多少は役に立てたのかな。台詞を書かないとキャラクターは出てこない。

 恥ずかしい記憶しかなくて、こないだ『東京上空いらっしゃいませ』(1990)を読み返して、今回もDVDとVHSをそれぞれ見直したんですが、映画は好きなんですけど脚本は1行も読めないですね。ほんとに下手で。ただ逆に脚本が下手だと役者は頑張ってくれるんだなと。この映画はこれでよかった(笑)。

【ディレクターズ・カンパニーの総括】

 当時は刺激を受けることができるところで。こんな人たちに会えないですからね。ひとり会うだけでも大変なのに、3人も4人もいるわけで。その後、いろんな会社の栄枯盛衰を見てきたんですけど、経営に向かない人が多くて。ディレカンがこうなるのもできたときから決まっていたのかもしれないですね。社員になれと言われてもならなかったとは思いますが(一同笑)ごいっしょさせていただくのは愉しかったですね。宮坂(宮坂進)社長に「映画はほんと怖いからね。松竹の社員だからって気をつけないと痛い目に遭うよ」っておどかされましたよ。本当にその後で痛い目に遭いましたから。危機管理以前の恐怖心を教えてもらったと言いますか(一同笑)。この映画でも相撲のシーンが出てくるんですけど、あれを使うのに40万ぐらいかかって、岡本(岡本史雄)プロデューサーは「映画は怖い。これで40万か」って監督にやめてもらうよう頼んだんですけど、結局やりましたね。そういうことの積み重ねなんですね。