私の中の見えない炎

おれたちの青春も捨てたものじゃないぞ まあまあだよ サティス ファクトリー

対談 澤井信一郎 × 金子修介 “アイドル映画の撮り方”(2003)(1)

 『野菊の墓』(1981)や『Wの悲劇』(1984)、『早春物語』(1985)などで知られ、2021年に逝去した澤井信一郎監督。澤井氏は若い役者が主演の作品を撮ることが多かったが、金子修介監督とアイドル映画について語り合った対談があるので以下に引用したい(金子氏も『1999年の夏休み』〈1988〉や『ゴールド・ボーイ』〈2024〉など若者メインの作品が多数)。

 当時、澤井氏はハロー!プロジェクト・キッズの『仔犬ダンの物語』(2002)、金子氏は『恋に唄えば』(2002)を手がけていた。取材は高原秀和・工藤雅典両氏が務めている(用字・用語は可能な限り統一した)。

 

アイドル映画演出論

澤井「アイドル映画っていうけどさ、それは外側から映画ジャーナリズムなり芸能ジャーナリズムとかが名付けるもので、こちらとしてはまあ青春映画というかさあ。若い子に相応しい、中高校生の物語、若者の物語という風に作ってるわけだよね」

金子「僕の子供の頃だと、歌手でも何でもスターって言ってたんですよね。それが1970年頃からアイドルっていう言葉が、「あまり熟練してない俳優や、歌手」の言い換えでアイドルっていう風に言われてきて」

澤井「偶像だからね。歌手だけでもない、俳優だけでもない、なんかごちゃごちゃやるのをタレントという言葉の中でも人気のある部分をアイドルって言ったんじゃないのかな」

金子「アイドル映画は一般にはもしかしたら低く見られてるかもしれないって背景にはアイドルっていうのは、何でもやるけど、でもそれは本格的ではないっていう、そういうニュアンスがあるのでは」

澤井「それは作る側の姿勢の問題だったんだと思う。あの鍛錬を終えてない俳優に、鍛錬を要求しない演出家が安手に撮っちゃうような風潮がどっかにはあったから」

金子「澤井さんは『野菊の墓』では、松田聖子を結構厳しく指導されてたのか、それまでの松田聖子のイメージというものよりは映画の中の登場人物としてしっかり描かれていて、でも反面、松田聖子が持ってたアイドル性っていうものに関していえば、『野菊の墓』の松田聖子は今までの聖子チャンとは違うなと観客として僕は思ったんですよね」

澤井「一つは脚本が問題だろうと。要するにバカバカしいことはしないと。アイドルが主演だからといって簡単なところでキャラクターを作ったり物語を作ったりすることをしない。それから、現場での演技指導っていうか演技の完成度っていうかね、練り上げ方の問題があると思うんだけどね」

金子「あれ、結構びっくりしたのは、アイドル映画としての期待感で観ると、最初のファーストカットでスローモーションで松田聖子が聖子ちゃんカットでない、おでこを出して走ってくる......っていうショックはあったですよね。もちろん『野菊の墓』っていう映画ですから、当然そのヘアスタイルで出てくるわけにもいかないですから」

澤井「最初は前髪垂らして、おでこ隠してくれないかっていうのは一度は」

金子「あったんですか?」

澤井「ありましたよ。しかし、日本髪にそんなものはないから、おかしいと。それは絶対僕としてはできませんよっていう話をして。聖子は当時前髪垂らしたところで人気があるから、かえって前髪上げちゃうと映画の入りに響くんではないでしょうかっていうのもいたりね。プロダクションの側が強いと強引に押し通される場合もあるからねえ」

金子「その前髪の話は初めて聞いたので、興味深いです。やっぱりそういうことがあったんだ」

澤井「いろいろあるよ。例えばセックスシーンが困るとか、セックスシーンがないにしろ、キスシーンは困るとかってよくあるじゃない? 『Wの悲劇』を撮ったときに薬師丸ひろ子がトップシーンでホテルでの処女喪失のシーンから始まるわけですよ。それだって大概ね、許さないよ、トップアイドルなわけだから。それがセックスするところからって、撮り方は隠すにしてもね。その前の薬師丸の作品が『メイン・テーマ』(森田芳光監督)で」

金子「『メイン・テーマ』では僕チーフ助監督でした」

澤井「あれ、最後はやったっていう、風船が」

金子「(笑)ああ、やったっていうことです」

澤井「やったっていうことだよね。風船が窓から沢山飛んでいって、ホテルに入ってやったっていうことだから、あそこでやったんなら、やるところから受けて始めようということだったんだよ。もう二十歳になったんだからそういうこともきっとありえるだろうと。ドラマの上ではね。で、そういう経験をした女の子の方がいいだろうと。だから、そういうのはこちらもキチッと要求してみることよね。そのことが作品として不可欠であり作品を損なうものでもないということになれば理解してくれると思うけどね」

金子「あれは……脚本の荒井晴彦さんて、考え方の中心に「性」ってものが結構あって、荒井さんがそういうのをやらなきゃいけないんだっていう風なことを主張した......んじゃないかなと想像してたんですけど」

澤井「いや、性の問題を入れなきゃいけないっていうのはなかったけどね。『メイン・テーマ』はまさしく頂点を極めつつある薬師丸ひろ子のアイドル映画だったと思うんだけど、それはどうだったの?」

金子「森田さんは、あんまりいじらなかったっていう感じがしたんですよね。薬師丸ひろ子自体をあんまりいじらないようにして、それで周りの映像とか他のキャラクターとかをおもしろく演出していくという、薬師丸の存在自体はそのままにしておこうっていうのはあったんではないかな。僕自身も結構ロマンポルノでそういう撮り方をしたっていうか、ロマンポルノでは山本奈津子とか歌舞伎町のアイドルと言われたイヴちゃんとか撮ったんですけども、存在自体をねじ伏せて自分の世界に引き入れようというよりは、それをあんまりいじらないようにして、『メイン・テーマ』と同じ、森田さんと同じ態度なのかもしれませんけど、それと共通する演出態度っていうのは僕もあったのかと思うんですよね。それに比べると澤井さんの『野菊の墓』の松田聖子や『Wの悲劇』の薬師丸や『早春物語』の原田知世っていうのは結構いじっているというか、鍛えているっていうのは画面からわかるなと思ったんですよね」つづく

 以上、日本映画監督協会のサイトより引用。