【その他の相米作品 (2)】
『セーラー服と機関銃』(1981)では銃を撃つタイミングに合わせて、花火玉をパチンコで撃つ。そのタイミングが難しい。介抱してるところで最後にどんと撃つ。壁に火花が散るんで、おれはただ撃ちゃいいけど、パチンコの人はプレッシャーかかってたよね(笑)。面白いことをやろうとすると各パートが大変だね。その大変さが面白い。
三國(三國連太郎)さんは『セーラー服』が最初だけど、あれだけの人だから相米(相米慎二)の才能は判ってたんだろうね。『セーラー服』の最後に風祭ゆきに殺されるんだけど、そろそろ(出番)というときに何故か三國さんがおれの部屋に来て「ご相談があるんですけど」と、丁寧な人だから。脚が悪い役だけど、義足がフェイクだったことにして最後に立ち上がりたいって。おれはいい加減だから「面白いなあ!」(一同笑)。監督にも誰にも言わないで、いきなりやりたいと。ただ監督とカメラマンには言っとかないとNGになってカットかけられるかもしれないんでって言ったら「そうですかね」って厭そうに。相米つかまえて「三國さんがすごいこと言ってるぞ」って言ったら「え!困っちゃうな」。困ることねえじゃねえかって言って、結局やったの。おれは知ってて、恒彦(渡瀬恒彦)も薬師丸(薬師丸ひろ子)も風祭もみんな知らない。それを思ってあの映画を見ると、みんなびっくりしてて、風祭はタイミング早くダーンと撃っちゃって(一同笑)三國さんのひと芝居があったのに。なのに相米は「もう1回」って言い出して、ないしょにしてた意味がないだろ(一同笑)。そこで熊谷(熊谷秀夫)さんが「相米! テイク1がいちばんいいんや!!」って言って、もう1回やったけど、映画にはテイク1が使われてる。
映画はいきなりラストシーンから撮るとかもあるから、いちばん望ましいのはクライマックスで役者ができ上がって役者の顔になってくれればいいけど。スケジュールの前半でふにゃふにゃしてるときに(大事なシーンが)来ちゃうと、後で撮り直さなきゃってこともあるよね。『翔んだカップル』(1980)は、何回か撮り直したらしい。セットも全部ばらした後でなので、撮り直したいということで、だからセットも建て直して。伊地智啓という大変なプロデューサーがいて、甘やかして(一同笑)。キティ・フィルムの社長の多賀(多賀英典)ちゃんがいて、相米はまだゴジ(長谷川和彦)の助監督だったけど、あいつに撮らせるということで。ふたりのプロデューサーのセンスに傑出したところがあって。
『翔んだカップル』のラストシーンでもぐらたたきのシーンがあって、ひろ子(薬師丸ひろ子)のアップがない。ラッシュ見て、伊地智さんがこんなのラストにならないから撮り直して来いって言ったら、相米が撮り直して同じだった(一同笑)。伊地智さんは、おれの感覚は古いんだな、こいつは確信犯で撮り直してきたんだからとOKにして。そこから相米との信頼関係ができたんだね。
『セーラー服』で屋上で焚火して看板を燃やしちゃうのも、ビルの上からワンカットで撮ってて、あんなのいまは絶対許さない。渡瀬恒ちゃんの顔も映らない。それをフィックスで延々とロングシーンに。そこに至るまでの芝居を撮ってるから、観客はひろ子や恒ちゃんがどういう顔してるのかを想像できるんだね。
バカな子がいると親の顔が見てみたいっていうけど、こんな相米をつくったプロデューサーの顔が見てみたいって(一同笑)。「おれが悪いのか」って言うからそれ以外ないだろって。そういう素晴らしい伊地智さんがいたから、相米がやってこられた。全部のバックボーンとしては伊地智さんがいるわけだから。
チーフやってた榎戸(榎戸耕史)がお母さんみたいで、こいつが謝るの上手いんだ(一同笑)。夜中の2時3時に「大変申しわけございません。本日はこれまで」ってさ。伊地智が大元だとすれば、榎戸なんかが矢面に立って「申しわけございません」。
相米のを何本かやってて、だんだんと榎戸に「今度こういうのを相米さんやるけど、何をやるか決めてもらってこいと言ってます」と言われるようになって。役者として目立つようなのがいいということで『魚影の群れ』(1983)では、佐藤浩市が怪我した後で緒形拳を取り調べる大間の刑事役。ほっといてもし死んでたらお前は過失致死だ、みたいに取り調べるんで、いい役だなと思って。相米に早く来いと言われて、何でかと思ったら酒飲むと(一同笑)。3日くらい早く行ったら方言があるらしい。青森だから津軽弁で、でも大間だから津軽弁ともまた違うんだそうで。現場へ行ってまた調べたら、警察は津軽だからまた津軽弁に直すと。教えてくれた人が高校の国語の先生で、しつこい人でそこの音が違うとか許さないんだね。もうフランス語みたい(一同笑)。相米は「まだかよ」。もう適当でいいからさって言っても「そうはいかない」。そんなふうに苦労して1日かかってワンシーンワンカットで撮って、上がりでは全部カット(一同笑)。だけどタイトル(字幕)は別に進行しちゃってるから、おれの名前を消すだけで金かかるということで残っちゃう。『魚影の群れ』は相米の中でも評価が高くてテレビでやると、見る人は名前があったけどどこに出てるか判らない。最初からないんだ!(一同笑)(つづく)