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木之元亮 トークショー(作家主義 相米慎二)レポート・『ションベン・ライダー』(1)

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 やくざの抗争に巻き込まれた少年少女(永瀬正敏河合美智子坂上忍)の奇妙な冒険を描いた『ションベン・ライダー』(1983)。相米慎二監督の作品の中でも特に異色作で、見返す度にその不可思議な魅力にとらわれる。

 相米監督の没後20年を記念して横浜で特集上映が行われ、『ションベン・ライダー』のリバイバル上映と木之元亮氏のトークショーがあった。聞き手は映画ジャーナリストの金原由佳氏が務める(以下のレポはメモと怪しい記憶頼りですので、実際と異なる言い回しや整理してしまっている部分もございます。ご了承ください)。

 木之元亮氏は『太陽にほえろ!』(1972〜1986)の刑事・ロッキー役で知られるが、筆者としては『ウルトラマンダイナ』(1998)の隊長のイメージが強い。相米監督と同じ北海道出身で『ションベン・ライダー』以後も『魚影の群れ』(1983)や『ラブホテル』(1985)、『夏の庭』(1994)、『風花』(2001)など相米作品に多数登場。声をかけられたがスケジュールの関係で出られなかった作品もあるという。 

【『ションベン・ライダー』】

木之元「いまの映画のぼくと比べたら体重が違いますし、おじいさんと言われても仕方ないくらい歳もとりましたし、太っちゃいました。でもこういう機会があるというのを本当に嬉しく思っております。

 『太陽にほえろ!』で5年ほど刑事をやりまして、殉職してから初めての仕事が『ションベン・ライダー』です。『太陽』は勉強していたようなもので、そこから出ての他流試合と言いましょうか。この作品で映像の現場に足を踏み入れたという感じで必死でした。

 ただ相米さんは釧路にいらっしゃった話などもされて、すごく優しい人でした。「はいOK、カット。いいよ」って言うんですが、誰も解散しないんです。監督が「ロッキー、どうだ? いい? これでいい?」って言うんですよ。ああ、ちょっと気持ち悪いですって言うと監督は「もう1回、行くか?」。嬉しくて。次にやってもそれ以上ができるか判らないけど、若造の俳優にチェレンジさせてくれる、そういう優しさがありました」

 

 冒頭に木之元氏演じるやくざたちが少年をさらうシーンは、実に8分以上の長回し

 

木之元「当時のフィルムとしては異常な長さですね。カメラマンは2回クレーンを乗り換えてますね。プールからグラウンドに出て、道に出て来る。カット割りすればいいじゃないかと思うでしょ(笑)。スタッフも文句言いません。集中して、できませんとは言いません。すごいプロ集団だと感じましたね。

 グラウンドの真ん中に盆踊りの櫓があったんですが、実はあの下に薬師丸ひろ子ちゃんがすわってました。1日だけ現場に、監督の応援に来ていたんですね。『セーラー服と機関銃』(1981)の後ですからね。「薬師丸ひろ子、いるよー」「へえ」なんて言って。話はしませんでしたけど、みんな騒いでました(笑)」 

  『セーラー服』の薬師丸ひろ子が現場に陣中見舞いに来たこと河合美智子氏も話していた。

 

木之元「監督は子ども(河合、永瀬氏ら)に自由にやらせながら、ひとつの条件なりを加えていくんですね。自分のやりやすいところだけで芝居をしてほしくない。子どもたちは悩むんだけど、動いてみようと。自分で感じるなり見つけるなりしてくれればOKだと。3人は自分の世界にどんどん入っていくような感じで、歳とるとなかなかできない。面白い俳優さんになるかなと感じました。そうなりましたね」

 

 木場での攻防は、みなが水に落ちたり飛び込んだりするのを長回しで追う。

 

木之元「私はかなずちなんてもんじゃない、漬け物石です(一同笑)。北海道の漁師のせがれなんですけど、北海道は寒くて海は遊泳禁止。プールは野外で泳ぐ機会がなかった、と弁解ですが。

 監督に「飛び込め」と言われるんですよ。スーツ着て革靴はいてますけど、腹くくってやりました。どっかで溺れたらおしまいですよ。ワンシーンワンカットでぶっつけ本番で、死ぬのを覚悟して撮りました(笑)。おそるおそる飛び込んだらかっこ悪いでしょ。だから派手に「とおっ」って、気合いが口に出ちまったですね(笑)。必死に水から這い上がりましたよ。出た後でトロッコ押して逃げるんですが、木場を走るときのへっぴり腰、判ります? 監督に言わせるとリアルでいいと。やくざだって水が怖い人がいるだろうということですね(笑)」

 

 クライマックスで木之元氏のやくざは、藤竜也と戦って絶命。

 

木之元「最後の家の中で藤竜さんと決闘するシーンで(劇中では)ぼくの兄貴分なわけですけど、監督は「言いたいことあったら勝手に言っていいよ」と言うのよ。ぼくが発したのは「兄貴、綺麗だ」。あの台詞は即席なんです。藤竜さんがメイクしてたんで(笑)」(つづく